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「キングオブコント」司会の浜田雅功は、なぜあそこまで暴走するのか

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:Splash/アフロ)

司会者浜田、審査員長松本で展開するキングオブコント

キングオブコントの司会は、ここ9年は浜田雅功が担当している。

賞レースの司会を浜田、審査員長を松本がやっているので、キングオブコントは他の賞レースと違う雰囲気になる。

真剣勝負の場でありながら、この二人を中心にちょっと違う世界が作り出される。

私はこの雰囲気が大好きだ。

1980年代のダウンタウンの香りがする

一生を左右する場なので出演芸人は極度に緊張しており、その一部は審査員の芸人にもうつっている。

でも、浜田雅功は、司会なので、芸人人生の浮沈を握っておらず、のびのびとやっている。

あまりにのびのびしていて、見ていて気持ちいい。

やりすぎも含めて、私はただ楽しい。

もともとダウンタウンの漫才はそういうものだったからだ。1980年代のダウンタウンをおもいだして嬉しくなる。

審査員呼び込みまで20秒を無駄に使う

2023年のキングオブコントでは、とくに浜田雅功の自由ぶりがきわだっていた。

司会は浜田雅功とTBSの日比麻音子(ひび まおこ)アナウンサーであった。(このコンビで4年目になる)

冒頭ふたりの挨拶があり、審査員の呼び込みになるが、浜田雅功は「いや、まだ行かない」と彼らを呼び込まない。

他の芸人がいない状態が楽しいようにさえ見えてくる。

呼び込むまで20秒ちょっと引っ張った。生放送の冒頭で20秒無駄に使える司会は、おそらくいまの日本では浜田しかいないのではないか。

それでいて呼び込んだ審査員が、自分たちの席にすぐ向かわないと、さっさと降りろよ、と急かす。

きちんと、わかりやすいように支離滅裂である。

浜田と松本のやりとりが始まる

審査員長の松本人志が最後に席につくと、浜田とのやりとりが始まる。

今年はどうですかと聞かれ、松本が「今年はM−1をやるような気持ちでやりたいとおもいます」と言うので浜田は「どういうことっかなあ」と無表情に見つめる。「去年を超える大会になってほしい」ときちんと松本が答え直すと「最初にそれ言うてください」と糺す。

「細かい笑いはいらない」とも言い放っていた。

きちんと漫才である。

ここでは松本がずらして、浜田が直すというもともとのパターンで展開していた。

ダウンタウンの漫才が、司会と審査員長という立場で始まっている。

一通りコメントを聞いたあとに2周目に入る

このあと、着席順に、飯塚、小峠、秋山、山内と順に抱負を答えたあと、浜田は「じゃ、松本さん」と戻った。

松本が、えっと驚き、見てる者も、ちょっと混乱する。

認知力が衰えだした老人の行動パターンのようにも見えてしまうが、そんなわけがない。

かまわず浜田は「どうですか今年は?」と畳みかけるので、松本だけじゃなく審査員全員が騒然として、「え! 2周目っ!」「2周目、ないない」「だれもそんな……」と言い立てるが浜田は何も言わずに松本を強く見つめている。

ブレずにまっすぐ狂気を放っていて、おののいてしまう。

浜田雅功の独特なボケ

審査員は「マジメな立場」にいるから、浜田は突然ボケを発して、審査員がツッコまざるをえない状況を作っているのだろう。不思議な笑いを作り出そうとしているように見える。

浜田はもともとツッコミなので、ボケにまわると、独特のものがある。狂気が強い。

ダウンタウンのもともとの強みは、ツッコミ浜田の狂気だなとあらためて認識する。昭和の終わりごろのダウンタウンの漫才をしみじみとおもいだしてしまう。

ボケが3人にツッコミ2人という審査員の配分

また、審査員もボケとツッコミが混じっていることに気づく。

かまいたち山内、ロバート秋山、バイきんぐ小峠、東京03飯塚、ダウンタウン松本と並んでいるうち、明確なツッコミはバイきんぐの小峠であり、東京03の飯塚もだいたいツッコミのことが多い。

残り3人、山内、秋山、松本はまごうことなきボケである。

審査員席は、ボケ、ボケ、ツッコミ、ツッコミ、ボケ、と並んでいる。

浜田の大ボケに対して、審査員が瞬時にどう反応するのかもまたこの大会の「裏の見どころ」になっている。

「日比ちゃん、どついてもらっていい?」

コメント2周目を求めた浜田に対して、松本が「体内時計がおかしくなってますよ、生放送ですよ」と注意を促すと、浜田は「じゃあ、コメントなしということで」と進める。

東京03飯塚に「今日3時間、あの人司会でやるんですか、無理です」とツッコまれている。

このあと浜田はまだ「君らと喋るしか、やることないから」と言い放って、意味の分からない範疇へ突入していく。

これはさすがに隣にいる日比アナが「いやいやいや、ありますあります」と言うが、浜田はまだ審査員席に「トークしていこうよ」と突っ走っていく。

困った松本が「コントの大会ですよ」というが、浜田は「ん?」という表情で動かないので、松本は「ちょっと日比ちゃん、どついてもらっていい?」と頼んでいた。

まわりにあるものを何でも使わないと、浜田の暴走を止められない。

浜田はときに立ったまま寝る

最初のコント(カゲヤマ)が終わったあと、浜田雅功は審査員席にむかって「どしたん、どしたん? 難しい顔をしてるけど、どうしたん?」とツッコんでいくのだが、さすがに採点直前の審査員は、それには反応したがらない。

それもふくめて、浜田は何だか楽しそうである。

ただ、採点後の講評で、カゲヤマのコントが「謝罪コント」だったことにからめて松本人志が「ぜひフジモンに見てほしい」と言ったので、浜田は立ったまま寝る態勢に入った。

そのまま動かず、日比アナに起こされて、なにごともなかったように進行していった。ときに進行のためにタヌキ親父にもなる。

進行がバタバタしたときの浜田のボケ

ファーストステージが終わり、ファイナルステージが開始されるところで、ちょっとバタバタした。

ニッポンの社長の紹介VTRが流れ、そのままコントに入るはずが、準備が整わず、また司会席にカメラが戻った。

日比アナが慌てて戻ってきて、浜田を呼び込み、浜田もまたあたふたと司会席に戻ってくる。

目の前にいるフロアのスタッフに「おまえらが(指示を)出すからやん」と言う。審査員席からの松本の「こわいでー、こわいでー」との声が聞こえる。

「めっちゃおれが悪いみたいなことになってるう……」から「もう、やれへん、もうやれへん」と浜田は言い出すが、これは説教でもなければ、怒っているわけでもない。

いわば「拗ねたモードのボケ」でしかなく、審査員席の後輩芸人たちが、「いやいや、やりましょう」「やりましょう」とまっすぐツッコんでくれる。

「聞こえてなかったわー、なんで出すのん」とスタッフに再び言って、繰り返しになるので反応が薄く、そのため小さい声で「殺したろかな」と付け加えていた。

こちらは小さく受けていた。

浜田の狂気のボケは、危なっかしい場面でもふつうに展開される。

なんで緊張しないんですかと指摘される浜田

ファイナルの3組のコントが終わり、最後の採点の直前になって、つまり優勝者が決まる直前に、浜田は審査員席にむかって指さして左右に振って「んーんー、緊張してるやん!」とまた言いだした。

審査員とはいえお笑い芸人なのに、そんなにマジメかよというのが浜田の一貫した主張である。

「そらそうでしょう」「もういきましょう」と言われ、おまえらそんな、はいはい次に行ってくださいみたいなんやめてよ、緊張してるやん、と浜田はまた繰り返すので、小峠が代表して「そら緊張しますよ」と答え「なんで緊張してないんですか!」と浜田にツッコんでいた。

エンディング26秒前までボケる浜田

最後の最後、ステージ中継終了30秒前に、浜田は松本に「今日はちゃんと靴はいてますね」と言う。松本は「エンディングで言うことか」と返して、残り26秒となった。

ぎりぎりまで司会のボケを手放さない。

お笑い芸人が全部マジでやってどうすんねん、という浜田の主張は、とてもよくわかる。

浜田がボケて松本がツッコむ漫才的なやりとりが随所に見られるのが、キングオブコントの楽しみでもある。

浜田司会の暴走があってこそ、他にはない独特の大会として成り立っている。

わたしはそうおもう。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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