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夏のドラマの「朝ドラヒロイン」対決 永野芽郁は有村架純、波瑠、杏に勝てたのか

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:YUTAKA/アフロ)

夏ドラで杏、波瑠、永野芽郁、有村架純が主演

2022年夏ドラマには、かつてのNHK朝ドラヒロイン主演ドラマが並んだ。

杏の『競争の番人』(フジ月9) 坂口健太郎とダブル主演。

波瑠の『魔法のリノベ』(フジ月10)

永野芽郁の『ユニコーンに乗って』(TBS火10)

有村架純の『石子と羽男―そんなコトで訴えます?−』(TBS金10) 中村倫也とダブル主演(サブタイトルは以下略します)

朝ドラでのヒロイン時代を順に並べてみる。

杏は『ごちそうさん』2013年後半

波瑠が『あさが来た』2015年後半

有村架純は『ひよっこ』2017年前半

永野芽郁『半分、青い。』2018年前半

榮倉奈々、芳根京子、比嘉愛未、夏菜も

この夏ドラマではほかにも『オールドルーキー』に榮倉奈々(2008年前半『瞳』)と芳根京子『べっぴんさん』2016年後半)が出ており(榮倉が主人公の妻、芳根は主人公の会社同僚)、『純愛ディソナンス』には比嘉愛未(2007年前半『どんど晴れ』)がちょっと怖い妻役で出演している。

もうひとつ遅めのドラマ(土曜23時40分から)の『個人差あります』では夏菜(『2012年後半『純と愛))が主演で出ているが、これは白洲迅が女性化したときの役、というかなり変わった設定の主演である。

この夏はいろいろ出そろっている。

視聴率では杏の『競争の番人」がトップ

とりあえずプライムタイムで主演4作を比べてみる。

まず地上波での世帯視聴率、8月末までの平均視聴率は以下の順である。

杏『競争の番人』9.0%

永野芽郁『ユニコーンに乗って』7.9%

有村架純『石子と羽男』7.3%

波瑠『魔法のリノベ』6.5%

『競争の番人』は初回は10%を超えて高かったのだが、だいたい8%あたりに落ち着いてきてしまって『ユニコーンに乗って』(8話8.2%)や『石子と羽男』(4話8.4%)あたりといい勝負になってきている。

『魔法のリノベ』は7%から始まってそのあと6%台で、そんなに伸びないが、わかりやすく落ちてもいないので、踏ん張っているというところである。

中盤から後半にかけては、そこそこ競っているという感じになっている。

視聴率では明確な差が出ていない。

どれも「お仕事ドラマ」

この4本は、基本、どれも「お仕事ドラマ」だと言えるだろう。

『競争の番人』はいままでほぼ扱われたことのない公正取引委員会の審査官の仕事ぶりが描かれている。

『ユニコーンに乗って』は若い女性経営者のお話。

大学で知り合った仲間と立ち上げた「教育系アプリ開発会社」の仕事ぶりが描かれる。

『石子と羽男』は街の弁護士事務所のお話。羽男(中村倫也)が雇われの弁護士で、石子(有村架純)がパラリーガル(法律専門事務員)。

『魔法のリノベ』は小さい工務店が舞台。お客様からの要望で素敵なリノベーションを提案するドラマ。

サークルの延長のようなお仕事ドラマ『ユニコーンに乗って』

こうやって並べると、『石子と羽男』のマチベン以外の仕事は、少し目新しい。

『ユニコーンに乗って』の「大学生の延長のノリでいまどきの会社を経営する→オフィスもサークルの部室みたーい」という設定はいままでもあったが、「どんな年代の人にも教育の機会を無料で与える」ことを目標に学習アプリを開発していく姿が丁寧に描かれている。

そこが魅力的である。

さほど強くない公正取引委員会が描かれる『競争の番人』

公正取引委員会のドラマは、少なくとも連続ドラマでは、見た覚えがない。

だからいろいろ目新しい。

公取の仕事は、概念では知っていたが、でも実際は企業に乗り込んでこういうふうに調査をするのかとか、その調査は、警察捜査よりは力が弱くて「拒否します」と言われて強引に執り行うことはできないのか、とか、知らなかった具体的な事象が見られて、おもしろい。

『魔法のリノベ』の何が魔法なのか

家のリノベーションというのも、そこだけに絞ったドラマも珍しい。

リノベというのは、リフォームと違い、「いまふつうに使っている環境をより良いものに変える」ということらしく、「使えなくなったものを直す」というリフォームとは別なので、だから「魔法」と呼び変えているのか、とふつうに感心してしまった。

『石子と羽男』が見せるのはキャラの魅力

『石子と羽男』は身近な法律問題のドラマであり、それはすごく斬新なわけではない。

でも、弁護士の羽男(中村倫也の演じる羽根岡のあだ名)は記憶力頼りのあまり使えない弁護士で、事務員の石子(有村架純が演じる石田梢子のあだ名)のほうがしっかりしていて、彼女が交渉の方法やセリフをすべて考えだしている。

立場が逆転した仕事ぶりがおもしろく、それを有村架純と中村倫也が演じているのを見るのが楽しいのである。

『ユニコーンに乗って』は恋愛がうしろにまわっている

では恋愛度数はどうだろうか。

TBS火曜10時枠といえば、古くは『逃げるは恥だが役に立つ』から『恋はつづくよどこまでも』『中学聖日記』など恋愛ドラマ枠のイメージが強く、だいたいどんなドラマでも恋愛色が付いている。

今回の『ユニコーンに乗って』でも永野芽郁と杉野遥亮および西島秀俊のラインで、ちょっと恋愛ぽい展開は見せている。

ただドラマの比重としては仕事のほうが高く、見ていてどきどきするのは、仕事がうまくいくのかどうか、仲間が戻ってきてくれるのか、というあたりに集中していて、恋愛はうしろにまわっている。

あまりどきどきしない『石子と羽男』

TBS金曜10時枠の『石子と羽男』も、いちおう恋愛要素はあるが、それはダブル主演の有村架純と中村倫也とにではなく、事務所のアルバイト赤楚衛二が演じる若者との有村架純との恋愛で、なんか、あまり見ていてどきどきしない。

もっとも恋愛要素が高めなのは『魔法のリノベ』

『魔法のリノベ』は、けっこう恋愛要素が高め。

仕事でバディを組んでいる間宮祥太朗演じる玄之介に、ヒロインは好意を寄せているのだが、でも彼はバツ2のうえに子持ち。

そこに玄之介の下の弟のイケメン竜之介(吉野北人)がヒロインに好意をもっていて、7話あたりから急に押しかけてきた。

恋愛展開はどうなるのだろう、と見ていてふつうにおもうドラマである。

4本のなかではもっとも恋愛要素が高い。

波瑠はそういうのが似合うからだろう。

『競争の番人』では坂口健太郎が頭脳、杏は身体を受け持っている

『競争の番人』は恋愛要素がない。

坂口健太郎と杏が仕事上のバディではあるが、優秀な仕事人(坂口)と刑事から転職したての新人(杏)なので対等ではなく、坂口が「頭」、杏がもと刑事ということもあって「身体」を分担して仕事を進めていて、そこには恋愛要素がほぼ存在しない。

ヒロイン(杏)には最初から恋人がいて、結婚しないかと何度か言われており、仕事をやめて家庭に入って欲しいと再三ほのめかしていて、そういう点で、なんか昭和の刑事ドラマのようである。

「公正取引委員会の仕事のおもしろさ(大変さ)」勝負のドラマだといえる。

だからこそ、奮闘努力してかなり空回りする「ドジっ子」な味わいの杏がなかなかいい、とおもえてくる。

夏ドラ4ヒロイン対決はどうやら僅差

というわけで、杏、波瑠、有村架純、永野芽郁という2010年代朝ドラヒロインのドラマは、どれかが圧倒的に勝つという状況にはなっていない。

永野芽郁が若いから、他の3人を圧倒する、ということもなかった。

どれが勝ったかという判断は、趣味と感心の問題になってくる。

個人的には有村架純のドラマがどれもずっと好みなので、『石子と羽男』では彼女のキャラが魅力的である。

パラリーガルなのに上司的な弁護士をどんどん指導していくさまは、有村架純らしくてとても好きである。

永野芽郁は、朝ドラのときからさほどイメージが変わらず「恋愛はまだちょっと早いかな」というポジションをまだ保持していて、そのへんはちょっとかわいらしい。

波瑠は、感情を爆発させているシーンが見どころで、その「計算された無防備さ」に惹かれる。

そういうなかでは杏の「審査官としては新人なのでそこそこドジ」というキャラ設定は新鮮である。彼女の存在がかなりドラマに膨らみをもたせている。

だから、あくまで個人的にではあるが、順をつけるのなら1位は『競争の番人』の杏、次は『石子と羽男』の有村架純というところになる。

あくまで個人の感想。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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