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長澤まさみと新垣結衣の分岐点 2005年『ドラゴン桜』で共演した二人の女優人生の差

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:Kenya Chiba/アフロ)

長澤まさみと新垣結衣の唯一の共演『ドラゴン桜』2005

『ドラゴン桜』の2021年ドラマが始まった。

これに先だって、2005年の前シリーズの再放送をしていた。

阿部寛は同じ役どころ、生徒役は山下智久、小池徹平、紗栄子(当時サエコ)、中尾明慶、長澤まさみ、新垣結衣が演じていた。

16年前である。

当時、山下智久が20歳、小池徹平が19歳、長澤まさみと紗栄子が18歳、中尾明慶と新垣結衣は17歳だった。

長澤まさみと新垣結衣が共演しているのが、いま見るととても新鮮である。

しかも新垣結衣は山下智久のカノジョ役で、長澤まさみは山下智久の幼なじみという役どころだった。幼なじみだからお互いに遠慮がなく、仲がいい。それに対して新垣結衣は嫉妬して、対立するという役である。

二人が共演したのはこの作品だけである。

長澤まさみは当時、そこそこ有名な女優であり、いっぽう新垣結衣はほぼ新人に近かった。当然、『ドラゴン桜』内での扱いにも差がある。長澤まさみは女子生徒のなかでもっとも目立つ役どころであり、それは男子生徒役の山下智久と二人がメインキャスト扱いだったのだ。

2021年『ドラゴン桜』でも長澤まさみがメインキャスト

そのまま2021年版『ドラゴン桜』でも長澤まさみはメインキャストに入っている。

2005年版では現役のときには東京大学を受験できず(母親が倒れてしまったから)、そのあと浪人して東大にはいり、卒業後、しっかりと弁護士になったという役どころである。

阿部寛とともにふたたび、偏差値のとても低い高校から東京大学合格者を出すために努力する。

『ドラゴン桜』2021年版の第一話では、紗栄子がゲスト出演していた。

一瞬、紗栄子に似た人が出てるなとおもったら(最近あまり見かけてなかったので)、紗栄子本人だったので驚いた。

『ドラゴン桜』で生徒役だった役者は、そのあともみんな活躍している。

とくに長澤まさみと新垣結衣はその後、絶えずにドラマ・映画に出演しつづけている。

『ドラゴン桜』(2005)を起点に二人の俳優人生を眺めてみると、なかなかおもしろい。

15歳の長澤まさみの出ていた朝ドラ『さくら』

2005年の時点で、長澤まさみはよく知られている女優であった。

彼女をドラマで認識したのは2002年のNHK朝ドラ『さくら』からである。

当時まだ15歳、高校生役で出ていた。

『さくら』というのは朝ドラのなかでもかなり地味な作品で、何というか、ほとんど何も起こらないドラマだった。見返すとちょっと驚くくらい、何も起こらない。

ハワイから飛騨地方にやってきて中学校で英語を教える女性が主人公で、まわりにいろんな人が登場するが、あまりドラマチックなことが起こらなかった。

長澤まさみは、ヒロインが下宿する「飛騨のロウソク店」の娘役だった。

兄と弟がいて、賑やかな家族の一員だった。

彼女はよく出ていたが、そんなに目立つ役ではなかった。顔がまだしっかりしていないという印象がある。

それが2002年。

2004年に『世界の中心で、愛を叫ぶ』

2003年には映画『ロボコン』で主演(特撮ものではなく、ロボット・コンテストで頑張る高校生役)、2004年には当時とても話題になった映画『世界の中心で、愛を叫ぶ』でヒロインを演じた。

2005年1月には倉本聰のドラマ『優しい時間』で不安定な女の子の役を演じて印象的だった。かなり落ち着いたドラマで、言い方を換えるとちょっと暗いドラマで、その雰囲気とかなりマッチしていた。

その2005年夏に『ドラゴン桜』に出演する。

当時、最近、よく見かける若い女優さんだ、という印象であった。

『ドラゴン桜』で初めて認知された新垣結衣

いっぽうの新垣結衣は『ドラゴン桜』で見たのが、初見である。

彼女は2005年1月に『Sh15uya』(シブヤフィフティーン)に出演しているが、深夜の特撮ドラマだった。架空空間に生きる不思議な少女を演じて魅力的だったのだが、ドラマじたいがかなりマイナーな存在で、おそらく当時、見た人はかなり少なかったとおもわれる。(いちおうDVDは出ているのでいまでも見ることはできる)

次の出演作が『ドラゴン桜』だった。

メジャーなドラマに初登場だった。

『ドラゴン桜』2005では東大特進クラスに女子は三人いた。

長澤まさみと新垣結衣と紗栄子で、この紗栄子も新垣結衣もどちらも「ギャル」の格好をしているので区別がつきにくかった。当時は紗栄子のほうが知名度があったので、紗栄子とそうでないほう、と認識していた覚えがある。

山下智久のカノジョ役だったが、それほどの存在感はなかった。

そもそも、あまり「ギャル」の風体が似合ってなかった。

『ギャルサー』で戸田恵梨香とともにギャルを演じた新垣結衣

新垣結衣はこのあと2006年にも『ギャルサー』でまたギャル役を演じた。パラパラの得意なギャル役だった。無理をしている感じがあって、それはそれでなかなか見ものである。

『ギャルサー』では戸田恵梨香や岩佐真悠子もギャルを演じていて、藤木直人の不思議なキャラとともに、ヴィジュアル的な印象ばかり残るドラマだった。

新垣結衣は、そのあと続けて『マイ☆ボス マイ☆ヒーロー』に出演した。

『ギャルサー』が2006年6月に終わり、すぐ7月から『マイ☆ボス マイ☆ヒーロー』が始まった。

ここでは真面目な高校生役で、連続して見ていると、彼女がやっと落ち着いた、という気分になってしまう。

もちろん役どころでの変化でしかないが、やはり新垣結衣には「「真面目そうな役どころ」が似合う。たぶん彼女は「真摯な態度」がいちばんしっくりくるのだ。

救命救急医役を演じて新垣結衣らしさが固まる

そのあと2007年の『パパとムスメの7日間』という舘ひろしとの入れ替わりものに出て、2008年『コード・ブルーードクターヘリ救急救命−』に出演した。

『マイ☆ボス マイ☆ヒーロー』と『パパとムスメの7日間』で広く顔を知られるようになり、『コード・ブルーードクターヘリ救急救命−』で彼女のキャラが確定したとおもう。

そのあとじゃ『リーガル・ハイ』(2012年)、『空飛ぶ広報室』(2013年)、『掟上今日子の備忘録』(2015年)と出演し、その真面目そうな風情に心つかまれていく。

そして2016年の『逃げるは恥だが役に立つ』である頂点を極めていくことになる。

彼女の魅力は、「真摯さ」にある。

それが何だか無防備に見えるのだ。

何かに一生懸命になっているとき、その方向にばかり気がいくので、傍からみると無防備に見えてしまうのだろう。

それが彼女の魅力だとおもう。

『ドラゴン桜』からその地平にたどりつくまで、10年ほどかかっている。

長澤まさみの強さの秘密

いっぽう長澤まさみは、『ドラゴン桜』でもそうだったように、ストレートで、強い役を演じる。内部に弱さを必ず抱え込んでいるが、それをあまり見せずに、強く進んでいく。その姿が長澤まさみらしい。

『ドラゴン桜』2005では第10話で、自分の店を手伝ってくれる仲間たちに迷惑だと言い放って自分は特進クラスを抜けるシーンが、もっとも見せどころだった。これは長澤まさみが演じたから、泣けるシーンになっていた。

『ドラゴン桜』のあとの出演作を並べると、2006年にドラマ『セーラー服と機関銃』で女子高生ながら組長の役、2007年『プロポーズ大作戦』で主人公〔山下智久〕のおもいがなかなか届かない幼なじみ、2008年には『ラストフレンズ』でシェアハウスの中心にいる役、2012年に『都市伝説の女』でなりふりかまわず突き進む女刑事、2015年映画『海街diary』では男運のよくない次女役、そして2018年の『コンフィデンスマンJP』では天才的な詐欺師役を演じて、見ているものを唸らせた。

長澤まさみの演じる役どころは、やはり強さを感じさせる。

とくに印象に残るのはとおもいうかべると『セーラー服と機関銃』と、『コンフィデンスマンJP』になる。長澤まさみは、無意味に銃をぶっ放していてもサマになるのだ。

「任天堂のSwitch」の新垣結衣、「虫コナーズ」の長澤まさみ

コマーシャルのイメージでいえば、新垣結衣は「任天堂のSwitch」、長澤まさみは「虫コナーズ」である。

新垣結衣が一人で一生懸命ゲームする姿は、それを横から眺めているだけで、なんか幸せな気持ちになってしまう。

長澤まさみは、お隣さんが虫コナーズ的なものを使っているという、ただそれだけの話をするだけで、奇妙に引き込まれてしまう。

長澤まさみは、人と接する空間の手前にタメをつくって、そこに誘いこんでから接するというような、不思議な間合いを持っているとおもう。だから魅力的なのだ。まあ、詐欺師に転換できる間合いだともいえるのだろうけれど。

長澤まさみと新垣結衣の再びの交錯点はあるのだろうか

新垣結衣は「正対したら照れるから」という気配を最初から醸し出していて、なるべく正面から見合わないポジションを取る女性に見えてしまう。

何もしないその気配だけで惹きつけられる。

2021年の地平では、二人の立っている世界とまわりの雰囲気がまったく違ってしまっている。

2005年、二人が17歳と18歳のときに共演していたのが夢まぼろしのようである。あの時点では強弱がついていたから(有名な長澤まさみと無名な新垣結衣)それも可能だったのだろう。

いま二人を共演させるなら、どんな配置がいいのか、なかなかむずかしいし、その企画を考えているだけでわくわくしてしまう。

この二人の共演となると、やはり対決する位置につけるしたほうがいいのだろうか、それとも無二の親友というポジションがいいのか、物語にもよるが、なかなか想像しきれない。

だから『ドラゴン桜』2021で共演させるというような企画は、ちょっと窮屈すぎるのではないか、という懸念を抱いてしまう。

長澤まさみと新垣結衣という二人の女優だけに焦点をあてて、2005年『ドラゴン桜』を眺めていると、ずいぶん違った地平に出てきてしまったのだな、と感慨深くなる。

最終話、東大合格発表のシーンで、長澤まさみと新垣結衣が抱き合うようなシーンが一瞬だけある。とてもいいシーンだとおもう。

二人はいまは分岐してそれぞれ別の地平に立っている。

再び交錯する姿ことは、すぐにはむずかしいのだけれど、でも、二人のことを同時に考えるだけで、少し気分が高揚する。まだ我々に未来はあるのだろうと信じられる気がしてくる。邂逅するのはまだ少し先のほうがいいとおもうので、ふわっと待っているのがいいだろう。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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