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『R-1グランプリ』 採点で見せた古坂大魔王の頭抜けた才気

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:WavebreakMedia/イメージマート)

「R-1」最終採点の詳細が隠された謎

いろいろリニューアルされた「R-1グランプリ 2021」で優勝したのは、ゆりやんレトリィバァだった。

審査方法も去年までとは変わっていた。

去年までの勝ち抜き戦ではなく、M−1と同じ、10人をそれぞれ採点して、高得点の3人がファイナルステージに進む。

その3人がもういちどパフォーマンスを見せ、再び審査員が100点満点で採点した。

審査員は7人。

なぜかファイナルステージでの審査員個々の採点は明らかにされず、合計得点だけが発表された。

かが屋 賀屋650点、ZAZY656点、ゆりやんレトリィバァ663点だった。

個々の採点はわからないが、3位賀屋と2位ZAZYの差は6点、2位ZAZYと1位ゆりやんの差は7点である。

ゆりやんがだいたい平均「94点」あたり、ZAZYが「93点」、賀屋が「92点」(それぞれ視聴者の5点が入ったとしての試算)と審査員が1点くらいずつ差をつけての決定だったことになる。(誰が何点入れて優勝が決まったのかが明らかではなかったのは、あまりにぐだぐだが多かった今年のR-1でも、大きな問題点のひとつである)。

刷新された審査員はなぜか47歳が4人

今年の「R-1」では審査員の顔ぶれが大きく変わった。

大きな変化だった。

昨年までの審査委員長格は桂文枝であったが、今年はその席に陣内智則が座って審査委員長格、その次に友近が座り、この二人がいうなれば長老枠だった。陣内が審査員を務めるのは4年連続、友近が3年連続となった。ちなみに二人は47歳で同年である。

残り5人は、ホリ、古坂大魔王、マヂカルラブリー野田クリスタル、麒麟川島明、ハリウッドザコシショウだった。審査員としては(少なくともR-1では)新人である。

ちなみに古坂大魔王とハリウッドザコシショウも陣内・友近と同年の47歳。

ZAZYに99点をつけた古坂大魔王の審査員としての勇気と才気

100点満点で出演者10人を採点していく。

なかなか点数配分がむずかしい。

このなかで目立っていたのは古坂大魔王である。

まず最初のマツモトクラブに94点を付け、けっこう高いなあとおもって見ていると、次のZAZYには99点を付けた。

99点は目を引く。

コメントを求められて「完璧な芸でしたね」と絶賛した。

見てるほうとしては、「このあともっと面白い芸が出てきたら、それも複数出てきたらどうするんだろう」と心配になってしまったが、これこそ小市民的な余計なお世話だった。

このあとの8人を古坂大魔王は92点から97点まで6段階で採点して、きちんと傾斜をつけていた(良い悪いを判断していた)。そういうことができるのだ。

一瞬にして「パフォーマンスの最高値」を見抜く力

つまり、ZAZYの一回目のパフォーマンスを見た瞬間に「これが今日の一番の芸である(ファーストステージでの一番の芸である)」と即断できたのだ。

その慧眼がすごい。

まだあと8人出てくるのに、迷いなく「99点」を付けられる勇気がすごいとおもってしまうのだが、古坂大魔王にすれば当然のことなのだろう。

つまり、もしこのあと別のすごくおもしろいパフォーマンスが現れたとしても、ほぼこれと同レベルである、とどこかで判断できたのだろう。

もし出ればまた99点をつければいいだけだ。

実際は99点はZAZYだけで、98点は誰にもつけなかった。次点はゆりやんレトリィバァの97点である。

95点を基準点に置いて景気のいい採点をした古坂大魔王

こういうところが古坂大魔王の審査員としての才気だとおもう。

どんな状況でもすぐに頭抜けた才覚に反応できるという自信でもある。

プロデューサー的な才能である。

古坂大魔王はだいたい95点を基準点に置き、それより高いものは優れているという採点をおこなっていたようだ。

基準点が95というのは、かなり高い。

全体的に高めの点数になる。

この「高めの得点を付ける」というのはパフォーマーたちのテンションを上げるようで、かなり元気づける採点だったようだ。素敵な審査員だったとおもう。

ホリもまた高い点数を付けていた。

高得点で、そしてこの人らしい穏やかでやさしい採点をしていた。

10人を93点から96点までの4段階で評価していたのだ。

95と96がいい、で、93と94はそれより落ちる、という判断である。

点数が高いと、景気づけになる。

それぞれどの3人を選んでいたのか

ファーストステージ10人のパフォーマンスを見て、ファイナルステージに進ませる3人を選ぶのが、審査員の作業である。

それぞれ誰を上位3人にいれたか、ファイナルに誰を進めるつもりだったのか。

審査員別に並べると、こうなる。(同は同点)

陣内  1:ゆりやん 2:ZAZY  同2:高田ぽる子

友近  1:土屋 2:ZAZY 同2:吉住

ホリ  1:かが屋 賀屋 同1:森本サイダー(同3:ZAZY/ゆりやん/高田ぽる子)

古坂  1:ZAZY 2:ゆりやん 3:森本サイダー

野田  1:ZAZY 同1:ゆりやん 3:かが屋 賀屋

川島  1:ZAZY 同1:ゆりやん 同1:高田ぽる子

ザコシ 1:ZAZY 2:高田ぽる子 同2:森本サイダー

(ザコシはハリウッドザコシショウのこと)

7人の判断はそれぞれ微妙に違っている。違っているのがいい。

特に友近が、他の審査員と違う結果を出してたのがわかる。

彼女は、ゆりやんレトリィバァよりは吉住だったようだ。(吉住95点、ゆりやん94点)。

しかも1位は土屋だった。

インターハイに出ている自転車部の高校生に田原俊彦が乗りうつっちゃうというネタ。ホリは「お風呂で一人遊びしておもいついたようなネタ」と評していた。友近はこれがハマったらしい。

惜しかったのは高田ぽる子と森本サイダー

こうやって並べると惜しかったのは高田ぽる子、ついで森本サイダーだったのがわかる。

高田ぽる子は、おじいさんの乳首を買いにいくネタで、かなり不思議な内容だけどもとても躍動的だった。次々とシーンが入れ替わり、何が起こるのかと見てしまう内容で、それでいて3分でちょうどお腹いっぱいというものだった。そういうのがR-1では強い。おそらくその構成力も強く支持されたのだろう。

森本サイダーは、駅前待ち合わせコントを見せたあと、いまのコントをきちんと見ていましたかというフリップ芸に移った。いわばメタコントともいうべき構造になっていて、こういう構成はお笑い好きにより強く支持されるとおもう。

どちらも惜しいところでファイナルには進めなかった。

マヂカルラブリー野田クリスタルの絶妙な平衡感覚

ファイナルに進んだのは、ゆりやんレトリィバァと、ZAZYと、かが屋賀屋で、この3人をそのまま選んでいたのは、マヂカルラブリーの野田クリスタルだけである。

この人はその芸風とは違い、かなりちゃんとした人なのだな、とあらためておもう。

野田の採点は「92点」を中心点として、上が95点、下は88点と8段階に分けて、きちんと傾斜をつけて採点している。

きわめてまっとうで誠実な採点である。

彼は「世間の普通」をちゃんと持っていて、そこからの絶妙な平衡感覚を大事にしているようにおもえる。

少し変わった芸は、その部分があるから形作られており、だから奇妙ながらも受けるパフォーマンスになっているのだろう。

現役の芸人が審査員をするというのは、それぞれのいろんなものが見えてきて、とてもいいとおもう。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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