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ナイツが一番 正月大型漫才番組を調べてわかる漫才界の第一線

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

正月の大型漫才番組3本で出演者は100組を超える

毎年やっている正月の漫才番組は、2021年も多彩なメンバーが出演していた。

お正月にわれわれが求めているものは、静けさと晴れやかさなのだな、とあらためておもう。

毎年見ている漫才番組のなかから『爆笑ヒットパレード』『ドリーム東西ネタ合戦』『東西笑いの殿堂』の3本での出演者の比較をしてみたい。

3番組ともそこそこの歴史があり、中堅を中心に若手とベテランも案配よく配置されているし、そもそも30組以上の漫才師が出演する。お正月漫才番組のメインにあるとおもえるからだ。

出演して漫才を見せるコンビは3番組で100組を超える。

それ以外にもいくつかあるが、やや若手紹介に重点が置かれていたり、出演者が少なかったりするので、この3番組に限って比べてみる。

2年分比較するので対象はのべ200余組である。

正月のこの3番組を見ると、2021年の漫才界の現在地図がすこしわかる。

すべてに二年とも出演のナイツ 安定した一流の腕前

昨年2020年と今年2021年、それぞれの出演者をチェックした。

3番組の2年分だから全部で6回。

その6回の放送すべてに出ていたのは1組だけであった。

ナイツ。

老若男女すべてが認める日本の「漫才師」は2021年初頭は、ナイツ、ということになる。

たしかにナイツは、寄席で鍛えあげているぶん、高齢者に受けるネタも豊富で、おそらくさほど急いで話さないところが広く受ける理由だとおもう。

高齢者にも必ず受ける、というのが大きなポイントだ。必ず広く受ける。

それこそ漫才師として一流の証しである。

早いテンポで詰めていく漫才もおもしろいが、それは聞くほうにも、かなり熱を持って待ち構える、という姿勢が必要である。

ほとんどの客があまり期待せずにぼんやり眺めているだけの寄席の現場では、ハイテンションで出てくるとダダすべりにすべるので(終わったあとに、いまの人たちは何だったんだろう気忙しかったねえと、地方から来た老夫婦客に嘆息されたりする)、やはりナイツのような漫才が強い。

彼らの穏やかなトーンなのに、ぐいぐいと引っ張っていく技術は、まさに一流である。

ナイツにつづく、かまいたち ミルクボーイ 和牛

ナイツ以外に、2021年の番組3本とも出ていたのは、かまいたちと、ミルクボーイである。

なかでも、かまいたちは、そのうち2本(ヒッパレと東西ネタ合戦)には2年連続して出ているので、ここ2年の3番組にかぎっていえば、ナイツに次いで、出演数2位である。

山内のマニアックなボケと、濱家の「押され気味なのを押し戻すタイプ」のツッコミは味わい深い。若手のなかでは、年代層広く受ける要素が多いということだろう。

ミルクボーイは、2020年M−1圧勝の勢いがまだ続いているようだ。

というか、まだまだずっと続くだろう。それぐらいのインパクトのあるコンビである。

内海のいまどきではない髪型と服装が漫才ととても合っていて、いつも、しばらく眺めていたい気分になる。まだ当分の間、しばらく眺めていたいとおもう。

2020年は3番組とも出ていたが、今年は1つ(ヒッパレ)だったのが和牛。

露出が増えて認知される期間がすぎて、中堅どころのとっかかりにいるのかもしれない。そういう気配がする。ただおととし2019年のM−1のパフォーマンスではそういう気配を、まだ早いと、上沼恵美子に鋭く指摘されてはいた。

以上4組が、お正月の『爆笑ヒットパレード』『ドリーム東西ネタ合戦』『東西笑いの殿堂』の3番組に去年か今年、すべて出ているコンビである。

第二グループに EXIT 霜降り明星 ジャルジャル

3番組2年分6回のうち、4回出ていたのは8組ある。

そのうち民放2本(フジテレビ『爆笑ヒットパレード』、TBS『ドリーム東西ネタ合戦』)に出ていたのは6組。6組とも、2年とも出ている。

EXIT。霜降り明星。ジャルジャル。南海キャンディーズ。ロバート。バイきんぐ。

EXITは2020年正月、若手中心お笑い番組まで含めて数えると出演回数一位の漫才コンビであった。

その人気は変わらず、今年も去年も2本しっかり出ている。この二人は見た目と喋りのチャラさを売りにしているが、しっかりと漫才の型は守っていて、漫才を意味不明の音を伴って軽妙にしたという功績が大きい。まだチャラいままかよ、とおもわれるまでずっと同じ型で進んでいってほしい。

この6組とも民放の2本に出ていて、NHKの『東西笑いの殿堂』に出演していない。

これはもともと寄席中継から始まった「お正月らしい寄席の雰囲気を伝えたい」という番組であった。いまはスタジオでのお笑いも含めて少し変わったが、本来のテイストは薄れていない。だからテレビ中心の若手は、あまり呼ばれないようだ。

霜降り明星とジャルジャルは2019年から活躍しつづけ、2020年も人気を落とさず(ジャルジャルはキングオブコントの優勝でより勢いをつけ)、2021年もこのままトップスピードで突っ走るコンビ、というところだろう。

南海キャンディーズ、ロバート、バイきんぐはすでに人気で、それぞれバラエティでのピンでの活動も目立つ3組である。

正月の漫才番組を支えるトップ12組

NHKの『東西笑いの殿堂』の司会を担当し二年とも出場、まだヒットパレードにも毎年出ているベテランが、爆笑問題と中川家である。

以上12組が、2021年もお笑い界で人気を保ちそうなメンバーということになるだろう。

もう一度並べておく。

ナイツ。

かまいたち。ミルクボーイ。和牛。

EXIT。霜降り明星。ジャルジャル。南海キャンディーズ。ロバート。バイきんぐ。

爆笑問題。中川家。

3本のうち『爆笑ヒットパレード』と『東西笑いの殿堂』はそれぞれ1月1日と3日の生放送なので、他の仕事が入っていたり、病いで倒れていると、出演がままならない。そういう残念な人たちもいるようだ。

断っておくが、あくまでこの「漫才を見せる3番組」から見たランクでしかない。

第三グループには 東京03 チョコプラ ハナコ 四千頭身ら

3番組中2番組に出ていて、どちらかだけが二年連続だったいわば第三グループ11組。

ザ・ぼんち。オール阪神・巨人。千鳥。アンガールズ。東京03。どぶろっく。ロッチ。チョコレートプラネット。アインシュタイン。ハナコ。四千頭身。

昭和の漫才ブームのときに大人気だったザ・ぼんちが入ってるのが、なんか嬉しい。並びはコンビ結成時期順である。

ザ・ぼんちやオール阪神・巨人と四千頭身だとそのキャリア差が40年以上ある。

そういう人たちが同じステージで活躍するところが、お笑い界の魅力でもある。プロ野球選手や相撲取りになるより、成功したら息が長いということでもあります。

また、東京03、ハナコ、四千頭身とトリオが3つも入っているのも珍しい。

とくに四千頭身はあまりコントをやらず3人がぬぼっと立って漫才をやるから、それだけで見てしまう。

第四グループその1 三四郎 インディアンズ 3時のヒロイン 

第四グループ。

3番組のうち、2番組に去年か今年のどちらかに1回ずつ出ている組。つまり6回中の出演が2回のグループ。

全部で11組いる。

まず2020年に1回、2021年に1回出ていた5組。

西川のりお・上方よしお。テツandトモ。三四郎。インディアンズ。3時のヒロイン。

2019年も2020年も変わらず活躍、ということでいいだろう。

いちおうすべて、漫才ネタを見せた回数を数えている。

3時のヒロインは、2021年のヒットパレードにも出演していたが、占いコーナーでの出演だけでネタを見せなかったので、カウントしていない。

それにしても彼女たちの活躍は「THE W」の優勝にやっと意味を与えたような感じがする。何といっても若い女性のトリオには何だか華やかさがあっていい。ぼる塾がそのあとを追っている。 

第四グループその2に マヂラブ おいでやすこが ニューヨーク

2020年は3番組とも出ておらず、2021年に2番組に出た4組。

パックンマックン。マヂカルラブリー。おいでやすこが。ニューヨーク。

パックンマックンがなんでここに入ってきたのかはちょっとわからないが、残りの3組はわかりやすい。

去年のM−1優勝マヂカルラブリーと、2位のおいでやすこが、そしてしっかり爪痕をのこしたニューヨーク、という、まさに「2020年M−1での勝ち残り組」である。

ニューヨークは2019年のM−1にも出たが最下位だった。マヂカルラブリーも2017年M−1で最下位だった。でも2020年にしっかり爪痕を残し、年明けから世界が変わっている。

マヂカルラブリーやおいでやすこがは、年末年始にいろんな番組で見かけた。

2020年M−1の3位は見取り図だったが、5位のニューヨークのほうがいまのところ露出が多い。おそらくそれは見取り図が吉本大阪で、ニューヨークが吉本東京という所属の違いだけのようにも見える。見取り図はおっつけ露出が増えていくのだろう。

2021年見かけなかった ミキ まんじゅう大帝国

さて2020年は2番組に出ていたが、2021年はどれにも出てなかった2組。

ミキ。まんじゅう大帝国。

ミキはしかたがない。兄の昴生がコロナにかかって年末年始は兄弟とも完全休止だった。

復帰のとき「おいでさんに助っ人してもらって助かった」と昴生がコメントしていたから、おいでやすこがの出演はそれで増えた部分もあるだろう。休んでしまうと席を取られるのは、スポーツ選手のレギュラー争いと同じで、それはそれで熾烈である。ミキがまったく取られてしまうことはないだろうけれど、でも年末年始にまったく見なかった、という印象は残る。

まんじゅう大帝国は、2020年初頭には「今年 売り出します!」と前に出て来た気配が強かった。

でも、2021年の正月番組でみる限りは「まだまだ売り出し中」だが、棚の少し後ろにずらされた感じがある。

とはいえ、2021年もテレビ東京の「新春!お笑い名人寄席」には出演していたから、「まだまだ売り出し中」であることに変わりはない。何かひとつのきっかけでブレイクする位置にはいるだろう。ある意味、正念場でもある。

40年前の漫才ブーム世代がまだ現役で漫才を見せる

あらためて並べると、1980年の漫才ブームを支えたザ・ぼんち、西川のりお・上方よしお、オール阪神・巨人の3組の漫才がまだ正月のテレビで見られるのがすごいとおもう。

すでにブームから40年経っている。

当時人気だったのは、ザ・ぼんちと、ツービートとB&B、紳助・竜介である。

1980年には「それは漫才ではない」と言われなかった革命児たち

ツービートとB&B、紳助・竜介は片方だけが喋りまくり(ビートたけしと島田洋七と島田紳助)相方はときどき相づちを打つだけ、という新奇な漫才スタイルで人気を博した。

それこそ、そんなのは漫才ではない、と言われてもおかしくない漫才だったが、実際はそれまで漫才単独でテレビ番組を組まれることが少なく、世間に「テレビで漫才を楽しむ」という観念が薄かったから(とくに東京エリアはそうだったとおもう)、これは漫才ではないという声は聞かなかった。おそらく演芸評論家がどっかで小さい声で言ってたかもしれないが、世間は新しいスターの出現に圧倒され魅了されていたばかりで、誰も気にしていない。

島田洋七が切り開き、ビートたけしと島田紳助が突っ走った道のあとに、現在の漫才がある。彼らはまさに革命児だった。

オール阪神・巨人の迫力と圧倒的な凄み

ザ・ぼんちと、西川のりお・上方よしおもまた、ボケが暴走しつづけて、ツッコミが追いつかないという新型の漫才だった。とくにおさむとのりおのキャラの印象ばかりが強く、当時でも少し異端であった。(ツービート、B&B、紳助・竜介を当時の新奇の主流として考えた場合、彼らは新奇もののなかでも少し異端だったということ)。

そういう点ではオール阪神・巨人はじつにオーソドックスな昔ながらの漫才の型を守りながら、新しい漫才のなかで一歩も引くことなく笑いをとり続けている。見事である。いまでもNHKの『生活笑百科』で毎週のように聞ける。

彼らは漫才ブームに乗って『お笑い第二世代』として(まだ当時はその呼称はなかったんだけど)一緒に売れていったが、たぶん、どの時代に生きていても一流の漫才師になったとおもう。そういう迫力と技術に満ちている。

2021年正月番組から見た一線にいる漫才師たちはこのメンバーである。

一年経つとすこしずつメンバーが変わっていくのだろう。

その変化も見届けつつ、お笑いを追いかけていきたい。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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