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『キングオブコント』三村マサカズの採点の妙 三村の「90点」が持つ意味

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:Panther Media/アフロイメージマート)

ジャルジャルの圧倒的な優勝だった2020『キングオブコント』

コントの審査は大変だなと『キングオブコント』を見ていておもった。

すこし旧聞になるが、9月26日に開催された2020年のコント王を決める大会では、ジャルジャルが優勝した。

その大会を何回か見返してみて、あらためて採点の大変さと妙味がわかった。

コントは、漫才やピン芸とは違って、「喋り」だけではなく「世界観のおもしろさ」も審査対象に加わってくる。

おもしろさを比べるという点では同じだが、評価ポイントが少し増え、そのぶん個人的好みがより反映されるようにおもう。

優勝したのはジャルジャルで、かなり圧倒的な勝利だった。

他をよせつけず、2位と17点差での優勝だった。

審査員は5人だから、1人3点以上の差をつけたことになる。

たしかに今年は誰がみていてもジャルジャルだっただろう。

一本目から、ジャルジャルがかなりウケを意識した「ふつうぽい」ネタを展開していたから、そのベタさに対抗できるのはジャングルポケットくらいだとおもったが(あくまでもどこまでも個人的見解です)、彼らはファーストステージで落ちてしまった。

あとは横綱相撲で、ジャルジャルがそのまま悠然と寄り切ったという印象である。

お笑いコンテストでの採点の基準

お笑いの審査は、喋りの技術やうまさを評価するものではない。

そんなものがうまくたって「お笑い」に結びついてないと、何の意味もない。

ふつうの判断基準は「客をどれぐらい動かせたか」である。

つまりお笑いだから、客をどれだけ笑わせたか、がポイントになる。まあ、驚かせるとか、ときに泣かせるとか、そういうほかの要素が入る場合もあるので、いちおう「動かせたか」とするが、まあ、その日その場所でどれだけ受けたか、が勝負なのだ。

審査員は、自分も客の立場からパフォーマンスを眺め、同時にまわりの他の客の反応も感じとって評価に加え、正確に数値化しようとしている。

はずである。

2020年のお笑いコンテストの審査がむずかしかったのは、観客がいなかったり、もしくはかなり数を減らして行っているところである。

客の反応が見られないコンテストは、かなり大変だとおもう。

とくにコントは「変な世界」が展開されることが多いので、受けのいい客がいるのといないのとでは、印象にかなり差がでる。

1組ごとの採点のむずかしさ

もうひとつ、テレビで放送されるコンテストは、一組ずつ採点していかなければいけないところが、むずかしい。

出場10組のパフォーマンスを全部見てから採点できれば楽だし、わかりやすい評価ができる。

でも審査じたいも「テレビショウ」の大きな要素である。そんな楽な審査はさせてくれない。1組ずつパフォーマンスが終わるたびに採点する。

採点者は、常に前のパフォーマンスと比較して採点していくことになる。

同時に、残りにとんでもなく面白いものが控えてるかもしれないと想像して、採点していかねばならない。

なかなかむずかしい。

むずかしいが、でもこの採点でも「トップ」を見逃すことはない。

だいたい大きなコンテストでは、神が憑いたかのような「誰がみてもトップだとわかるパフォーマンス」がうまれることが多い。

もし圧倒的な1位がうまれなくても、「前との比較」で採点を続けてると、トップだけは見逃さない。

あせって最初に100点とかつけないかぎりは(ふつうの判断力を持った審査員は、まずそんなことはしない)一番おもしろかったものを必ず最高得点にできる方式である。

優勝1組を決める方法として、パフォーマンスごとに採点する方法は間違っていない。

ただ、2位以下についてはやや恣意的になってしまう。

トップには必ず最高点をつけられるが、それがいつ出現するかによって、2位以下の採点が揺れることがある。

「尻上がりにこんなにおもしろいのが続くとはおもわなかった」とか「最初の3組だけ飛び抜けて面白かったのかよ」というような予想できなかった事態では、順位どおりにきれいに傾斜をつけて採点できなかったりするからだ。それはそれでしかたがない。

僅差だった2位以下の順位を左右した三村マサカズの採点

2020年『キングオブコント』の採点はなかなか興味深かった。

1位は誰がみてもジャルジャル。

2位以下は僅差だった。

つまり、最終ステージに進んだジャルジャル以外の2組と、進めなかった残りの組の上位の差は僅かだったのだ。

2020年の採点のポイントは、さまぁ〜ずの三村マサカズだった。

いや、優勝に関して三村の影響が大きかったわけではない。ジャルジャル優勝はみんなが認めての結果である。

三村は、2位以下の順位に大きな影響を与えていたのだ。

コンテストにあまり関係ないところであるが、ちょっと意外である。

放送中から何となく気になっていたので、あとからみんなの採点経緯を見返して、あらためてそうおもった。

三村だけ、他の審査員と違う点をつけることが多かったのだ。

これはこれで、とても三村マサカズらしいとおもう。

さまぁ〜ずらしいと言ってもいい。

三村マサカズの採点だけに注目して見返していると、なんだかとても楽しくなってしまった。それはたぶん、私がさまぁ〜ずを好きだからということがあるのだろう。

さまぁ〜ずは独特の気配を保ち続けていて、得がたい存在であるし、そもそも、三村はツッコミ担当のはずなのに、ほとんどボケ役に近いくらいに抜けてるところがあって、そこがなかなかたまらない。

採点者をやっていても、そういう楽しい雰囲気が崩れない。

ファーストステージの10組

今回のキングオブコントの出演者を順に並べてみる。

ファーストステージの10組である。

1.滝音「ラーメン大食い選手権」

2.GAG「中島美嘉とフルートと草野球」

3.ロングコートダディ「AからDの段ボール」

4.空気階段「FM放送も降ろす霊媒師」

5.ジャルジャル「控え室での歌手への野次」

6.ザ・ギース「配達員のハープ演奏」

7.うるとらブギーズ「陶芸家と弟子」

8.ニッポンの社長「下半身馬の少年と馬顔娘」

9.ニューヨーク「披露宴での激しい隠し芸」

10.ジャングルポケット「相関図も用意していた脅迫犯」

右に書いたのは私が備忘のためにつけた説明文で、タイトルではない(こんな説明的なタイトルをつける芸人はいない。内容をおもいだすための個人的な説明文ですので気をつけてください)。

さて、三村マサカズはどんな採点をしていたのか。

三村の採点を出番順に並べてみる。

90―91―90―89−96―91―87―86―92―88

こういう感じだった。

この日の三村マサカズの基準点は「90点」だった

最初の3組を、90−91−90として、ほぼ差をつけていない。

そのことに気づいて自分でも困っていたと、4組め空気階段の採点あとにコメントしている。

4組め空気階段の霊媒師ネタに、三村がつけた点数は89点だった。

このとき、審査員で80点台をつけたのは三村だけである。

審査員は、設楽統(バナナマン)、日村勇紀(バナナマン)、三村マサカズ(さまぁ〜ず)、大竹一樹(さまぁ〜ず)、松本人志(コンビ名を入れるべきかどうか迷ってしまうが一応コンビ名はダウンタウンです)の順に並んでいた。

空気階段の5人の採点は

設楽―日村―三村―大竹―松本の順で

94―93―89―92―90

だった。

一人80点台の三村に司会の浜田雅功は、理由を聞いてきた。

三村は、ここまでの4組がだいたい同じくらいにおもえて、これではいかんとおもって、一回89点をつけてみた、と言う。

空気階段は「いや、上につけてくださいよ!」と即座に反応していたが、まあ、そう言いたくもなるだろう。

それを受けて三村も、ファーストステージ敗退が決定しなくて、一番ほっとしてるのおれなんだよ、と怒りぎみに言っていた(怒りぎみなのがたまらない)。

ほんとは空気階段にも90点をつけたかったのだろう。

でも、90、91、90とつけて、次も90だとなんかまじめに審査してないみたいだから、1つ引いて89点にしてみちゃいました、ということだとおもわれる。

この日の三村マサカズの基準点は「90点」だったようだ。かなりわかりやすい(あくまでこの日の基準点である)。

どの審査員もだいたい同じような基準点を持っているはずだが、三村はわかりやすく自分で説明したことになった。

ジャルジャルとそのあとの2組の採点

空気階段の前の3組はこの時点では接戦だったが結局7位以下に沈んだので詳細ははぶく。

空気階段の次がジャルジャルである。

設楽95―日村97―三村96―大竹94―松本95

審査員1人平均95.4である。95点を越えた高得点だった。

つぎはザ・ギース。

設楽92−日村91−三村91−大竹91−松本92

3人が91点、2人が92点とほぼ似たような評価になった。全員90点台というのはけっこう高いのだけど、特に高い評価もなかったので、空気階段より1点下になった。

7番目はうるとらブギーズで、今年の彼らは「陶芸家の師匠と弟子」というとてもベタなコントを展開した。ベタな設定も当たると大きいのだが、ちょっと枠を壊しきれなかったと判断されたのか、審査員1人平均88点で、10組中の最低点になってしまった。

残り3組での三村マサカズの意外な採点

残り3組である。

ニッポンの社長「下半身馬の少年と馬顔娘」

ニューヨーク「披露宴での激しい隠し芸」

ジャングルポケット「相関図も用意していた脅迫犯」

審査員の採点は以下のとおりである。

社長 設楽92 日村91 三村86 大竹92 松本93

ニュ 設楽92 日村90 三村92 大竹93 松本94

JP 設楽92 日村91 三村88 大竹92 松本91

(JP はJUNGLE POCKET ジャングルポケットの略)

三村マサカズが急に採点にメリハリをつけた。

社長86で、ニューヨーク92、そしてジャンポケ88だ。

90点を基準点とすれば、ニューヨークはそれより2点分高い。

ニッポンの社長は基準より4点下(ニューヨークより6点下)、ジャングルポケットは基準より2点下(ニューヨークより4点下)と採点した。

かなりおもいきった採点である。

三村のこの決断が「ニューヨークの2位でのファイナル進出」を決定した。

ほかの審査員は、この3組にそんな差をつけなかったのだ。

とくに設楽と日村と大竹は差をつけていない。

大竹が1点高いときは日村が1点低く、この3人の採点合計は、三組とも275点である。

松本は少し差をつけているが、三村ほどの差はつけていない。

ニッポンの社長と、ジャングルポケットは、三村だけが80点台を付けたので、それでファーストステージの敗退が決まった。

私は今年の『キングオブコント』を通算8回くらい再生して見返したが、何回か1.3倍速で見た。だいたい問題なく見られる。

ただジャングルポケットのコントだけは、1.3倍で聞くと、ときどき何と言ってるのか、聞き取れないところがあった。テンションの高いままセリフを続けて、その抑揚でも笑いを取りにいってるから、何か少しずれたのだろう。

設楽が講評でそこを指摘していたが、こういう大きい舞台ではちょっとでもずれると、それで敗けてしまうようだ。

三村マサカズがもたらしたファーストステージの結果

それにしても三村の点のつけかたはとても勇気のあるものだったとおもう。

ファーストステージの最終結果。

477 ジャルジャル

461 ニューヨーク

458 空気階段

ーーーーーーー

457 ザ・ギース

454 ニッポンの社長

454 ジャングルポケット

446 ロングコートダディ

445 滝音

445 GAG

440 うるとらブギーズ

1位ジャルジャルと2位ニューヨークは16点差。

3位空気階段と4位ザ・ギースは1点差しかない。

6位(同点5位)のジャングルポケットまででも4点の差である。

審査員1人の採点でひっくり返ってしまう差だった。

ファイナルステージでの三村マサカズの「諦観」

『キングオブコント』ではファイナルステージでも、同じように1組ずつ採点して、合計点で優勝を決める。

ファイナルでの審査員それぞれの採点を並べてみる。

三村マサカズ以外の4人はこうだった。

設楽 空気92ーNY95ーJJ93 

   ニューヨークを評価。

日村 空気93―NY95―JJ94

   ニューヨークを評価。

大竹 空気95ーNY91ーJJ92

   空気階段を評価。

松本 空気93ーNY92ーJJ95

   ジャルジャルを評価した。

(JJはもちろんジャルジャルのことです)

三村マサカズの採点は、三組とも同点だった。

三村 空気90―NY90―JJ90

「よかった! 三組ともよかったよ!」という三村マサカズの声が聞こえてきそうだ。

ちょっと笑ってしまった。

三村マサカズはファイナルステージの優劣はつけなかったのだ。

しかも90点というのは三村マサカズの(推定ではあるが)基準点である。その基準点をファイナルの三組につけた。

これはこれで三村らしくて、ちょっと笑ってしまう。

お笑いコンテストでの採点のむずかしさ

ファイナルステージだけの得点は、空気階段とニューヨークは463点で、ジャルジャル464点である。

審査員5人でほぼ差がついていなかった。

今年の『キングオブコント』はファーストステージの優劣が、そのまま最終結果へとつながった。

三村マサカズは、ファーストステージの後半の採点で勇気ある採点を繰り返し、ファイナルステージ進出者(2位以下)を決定づけた。

そのあとのファイナルステージでは、ほぼ諦観していた。

博打でいえば「見(ケン)」である。

三村マサカズの採点そのものが物語性に満ちていたのだ。

審査員残り4人が90点台なのに、自分一人が80点台というのは、たぶん、点数をオープンしたときに、そこそこあせるとおもう。三村マサカズの表情も「あ、やっちまった」とおもってるようにも見えた。

ただでも、自分が間違っていたとはおもってないはずである。みんなとはちょっと違ったかあ、という感じで、まあ苦笑せざるをえない。

しかたないじゃん、おれ、そう判断したんだもん、という表情でもある。

そのへんを見てるとなかなか味わい深い。

審査員の表情を眺め、その心理を想像するのも、申し訳ない感じもするが、こういうコンテストの楽しみのひとつである。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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