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国際大会で逆襲だ、全日本連覇の桃田が示した自信=バドミントン

平野貴也スポーツライター
全日本総合バドミントン選手権で2年連続6度目の優勝を飾った桃田賢斗【筆者撮影】

 オレは、もう一度世界で戦える――胸の内の高揚感が伝わって来た。2023年12月30日、バドミントンの全日本総合選手権は最終日を迎え、男子シングルスは、桃田賢斗(NTT東日本)が2年連続6度目の優勝を飾った。

 国際大会の過密化により、日本A代表の欠場や棄権が相次ぐ中、ファンの期待に応える戴冠劇だった。連覇だが、雰囲気や言葉は、前回とは大きく違った。大会を迎えるまでの道のりが異なるからだ。

「いつまで現役でやれるかな……」と話した前回大会

 2022年の全日本は、国際大会で苦しむ中で迎えた大会だった。20年1月の交通事故後、不調の長いトンネルから抜け出せなくなっていた。夏に日本で行われた世界選手権、ジャパンオープンで連続して初戦敗退。大会後には「ワールドツアーも出ても勝てないというか、出たくないという気持ちもあった」と認めた。

 秋の欧州遠征を辞退して国内で調整したが不安は消えず、優勝しても「自分がいつまで現役でやれるかな……とか、最近はそういうことも(頭を)よぎります」と引退時期に言及したほどだった。

 国際大会で初戦敗退を喫することが多く、周囲の期待との乖離が強いことも、プレッシャーになっていた。桃田は、21年11月まで3年以上も世界ランク1位を保っていただけに、求められるハードルが高い。優勝後の場内インタビューで「桃田の時代は終わったとか。言いたいことは分かるけど、やっている本人は終わりたくないし、まだまだ強くありたい」と話したのは、それまでとは異なる挑戦を見守り、応援してほしいという気持ちの表れだった。

 この大会の前から、桃田はプレースタイルの変更に取り組んだ。世界を制した、アンダーハンドストロークの多いレシーブ主体のスタイルから、オーバーハンドストロークで攻め込むスタイルへ。23年は、新スタイルをフィットさせる1年だった。

23年11月に2年ぶりの国際大会優勝、自信を回復

全日本総合の決勝では、相手を倒れ込ませるラリーを展開【筆者撮影】
全日本総合の決勝では、相手を倒れ込ませるラリーを展開【筆者撮影】

 23年も腰の負傷等で欠場が多く、国際大会で目立った成績を残せていなかったが、11月の韓国マスターズで2年ぶりに国際大会を優勝。翌週には、熊本マスターズジャパンで予選から勝ち上がり、21年世界王者のロー・ケンユー(シンガポール)を撃破。準々決勝で敗れたが、シード選手を撃破して勝ち上がった手応えの大きさは、明らか。敗戦後も、驚くほど清々しい表情だった。

 全日本総合選手権の2回戦後に、前年との自信の違いについて聞くと「(22年は)勝たなきゃとか、負けたらどうしようとか考えていたけど、今は、自分の持っているものを全部出し切って負けたらしゃあないというくらいの気持ちで、楽しめている。ある程度、少しは自信も持ってプレーできているかなと思う」と答えた。

大会序盤に背中を痛め、強打を控えたが、決勝戦では相手の渡邉航貴(BIPROGY)が何度もコートに倒れ込むほど揺さぶるラリーを披露。前回にはなかった自信と余裕が感じられた。

 何よりも大きく違ったのは、今後に向けたコメントだ。23年5月から始まったパリ五輪出場権獲得レースは、厳しい状況に追い込まれている。それでも「(五輪に)出られなかったとしても、僕のバドミントン人生はそこで終わりではないので、試合に出られる限りは、全試合、全身全霊でトライしていけたら」と話した。前回大会で桃田の言葉にまとわりついていた、引退を考えなければならないかもしれないという恐怖は、もう消え去っていた。

奈良岡との新旧エース対決は幻も「いずれ当たる」

 大会中には、桃田の精神面での充実ぶりがうかがえた場面もあった。準決勝は、世界ランク2位の奈良岡功大(FWDグループ)と対戦予定だった。試合当日に奈良岡が棄権したため実現しなかったのだが、前日の桃田のコメントは、挑戦者の高揚感に満ちていた。

「多分、何を打っても壁のように返ってくると思うんですけど、あっちもスタミナは無限じゃないと思う。ちょっとずつ、ジャブを効かせて。どっちが先に動けなくなるか」

「ずっとクリアーを打って来ると思うので、それに対してクリアーで返すのか、攻撃して 2、3発(強打がスムーズに)決まれば、向こうも点数を取りに行かなければ……という気持ちになると思うし、展開も変わってくる。相手の2倍くらい動く気持ちで試合をしたい」

 相手の強さを認めながらも、戦うイメージは膨らんでいた。勝てないかもしれない不安より、世界トップレベルの選手に堂々と挑めるレベルまで戻って来れた自信が強いのだ。桃田と奈良岡は、日本の新旧エースで、実現すれば初対戦。注目も高かっただけにファンの落胆は大きかったが、桃田は「多分、自分が海外の試合に勝ち上がれば、いずれ当たると思うので、その時を自分の中でも楽しみにしておきたい」と話した。

「前向きに、視野を広く、年明けから海外の試合に」

 日本バドミントン協会は、24年の日本代表選手を1月25日に発表する。欠場続きだった桃田の世界ランクは38位まで下降し、若手に抜かされる状況にもなっているが、代表選考会を兼ねた全日本総合選手権で優勝を果たしたため、24年代表の内定条件を満たした。桃田本人も、見る者も、今後に期待しているのは、国際大会での活躍だ。

 優勝後の会見では「自分自身でも、パフォーマンスがどんどん上がってきているという感覚がある。どこまでできるか分からないけど、試合数をこなしながら、良いところも悪いところも見つかると思う。今は本当に海外の選手と試合するのが楽しみ。前向きに、視野を広く、年明けから海外の試合に臨んでいけるのではないかと思う」と24年シーズンを見据えた。

 1月は、4日からマレーシアで行われる日本代表合宿に参加予定。9日に開幕するマレーシアオープンのリザーブに名を連ねている(トーナメントの出場枠は36。世界ランク36位に満たないため、優先出場権を持つ選手の出場状況次第となる)。24年の日本A代表に認定されれば、その後も世界のトップ選手が集う大会に派遣される。

 同じ大会にエントリーすることになれば、世界ランク上位の奈良岡はシード、出場者の中では世界ランクが低い桃田はシード下に入るため、大会序盤で対戦する可能性は、十分にある。世界トップレベルの舞台で、もう一度勝負をする。今の桃田からは、そんな意気込みが強く感じられる。

五輪イヤーの2024年、国際大会での逆襲なるか

出場権獲得が難しくなっているパリ五輪に向けても「すごく、出たい気持ちもある」と最後まで追う姿勢を示した【筆者撮影】
出場権獲得が難しくなっているパリ五輪に向けても「すごく、出たい気持ちもある」と最後まで追う姿勢を示した【筆者撮影】

 今大会で背中を痛めた影響など、コンディションによるだろうが、24年は国際大会での逆襲に挑むシーズンになるはずだ。もちろん、18年、19年のように連戦連勝というわけにはいかないだろう。しかし、手応えを増している新たな攻撃的プレースタイルがどこまで通用するか。国際大会に挑戦することを、桃田は楽しみにしている。

 2024年は、五輪イヤー。注目が集まるのは五輪出場権の獲得や、五輪でのメダル争いになる。しかし、この男からは、まだまだ目が離せない。長い苦しみを経て、世界で戦う桃田が帰って来る。新しい1年、ニュースタイルを引っ提げて、国際大会で逆襲だ。

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

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