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熊本で暴れた「恐竜」大林拓真、自国開催生かして初4強=バドミントン

平野貴也スポーツライター
初開催の熊本マスターズジャパンで男子単4強入りを果たした大林拓真【筆者撮影】

 熊本の熱気が、世界トップレベルの戦いを包み込んだ。初開催となったバドミントンの国際大会「熊本マスターズジャパン」(BWFワールドツアースーパー500)が19日まで熊本県立総合体育館で行われ、多い日には3500人を超える観衆が詰めかけた。

 男子シングルスで長く低迷していた元世界王者の桃田賢斗(NTT東日本)らの勝ち上がりで盛況だったが、日本勢は、全種目で準決勝までに敗退。最終日に大観衆の前で日本選手がプレーできなかったのは、残念だった。

 それでも、今大会は、成功だったと言える。国内大会、国際大会を問わず、集客に苦戦しがちな競技だが、適したキャパシティーで満席に近かった。世界トップレベルのプレーにどよめきや歓声が生まれ、競技の魅力が伝わると同時に、その反応が選手に力を与えていた。その中で、大観衆の声援を力に、なかなかトップレベルの国際大会を経験できない日本B代表から4強入りの躍進を果たした選手が現れたことは、大きな収穫だった。

「スーパー500以上」、「自国開催の国際大会」は日本B代表に貴重な場

観客の応援に感謝を示した大林【筆者撮影】
観客の応援に感謝を示した大林【筆者撮影】

 男子シングルスの大林拓真(トナミ運輸)は、大会初日の予選から勝ち上がり、ベスト4入りを果たした。大会初日の14日に更新された世界ランクで36位の日本B代表。世界トップレベルの選手が出場するBWFワールドツアースーパー500以上の本戦は、基本的に経験できない立場にある。大林は、シングルスでこのレベルの大会に出るのは、初めてだ。コツコツと下位グレードの大会でポイントを稼いだことと、参加しやすい自国開催で予選が設けられたことで、出場の機会を得られた。

 初日に予選2試合を制した大林は「日本A代表になったら、本戦から出場しないといけない。だから(本戦1回戦が)最初からという気持ちで足を動かしたい。全日本総合とか(国内大会)は、いつも日本人対決。(自国開催の国際大会で)日本の自分をたくさん応援してもらえて嬉しい。興奮してアドレナリンが出て、助けられた。追いつかれても勝てたのは、応援のおかげ」と日頃は経験できない環境に力をもらい、日本A代表にひけを取らない挑戦をする覚悟をのぞかせていた。

強打が武器の「恐竜」、エンジン全開

積極的に強打を打ち込むプレーは、応援で加速した【筆者撮影】
積極的に強打を打ち込むプレーは、応援で加速した【筆者撮影】

 日本は、身体の大きい選手が少なく、技術と体力をベースに戦う選手が多い。しかし、大林は一線を画すスタイルだ。サイズは小さいが、強靭なフィジカルを生かし、可能な限り、強く、速い球を打ち込む。返球が甘くなれば、ネット前まで走り込んでたたき落とす、攻撃的なコンビネーションが持ち味。迫力があり、バドミントンの駆け引きが分かりにくい初心者でも観戦しやすく、応援しやすい選手だ。また、積極性が生命線で、応援の力がプレーに直結しやすいスタイルでもある。

 恐竜の化石が多く発掘され、恐竜博物館もある福井県勝山市の出身。バドミントンが盛んな地域でもあり、昨年、女子シングルスで世界選手権を優勝した山口茜(再春館製薬所)は同郷だ。熊本の応援を背にエンジン全開で海外勢に襲い掛かった大林は、走る、跳ぶ、たたき落とすの連続で、恐竜の如く、大いに暴れた。1回戦で世界ランク32位のワンチャロン・カンタフォン(タイ)を2-0、2回戦で世界ランク21位の林俊易(リン・チュンイ=台湾)を2-1で撃破。勢いに乗った。

世界選手権の銀メダリストも破り、4強入り

レシーブで食らいつく大林。攻守にフィジカル能力を生かしたエネルギッシュなプレーを披露した【筆者撮影】
レシーブで食らいつく大林。攻守にフィジカル能力を生かしたエネルギッシュなプレーを披露した【筆者撮影】

 ベスト8入りを決めた段階では「スーパー500の試合なんて、これぐらいしか出させてもらえないのに(ベスト)エイトに入れたのは、まだちょっと信じられない。(準々決勝では)現実というか、これがスーパー500のトップレベルなんだなという感覚になると思うので、しっかりと心の準備をしていきたい」とまだ構えている部分もあったが、準々決勝でも、19年世界選手権の銀メダリストであるアンダース・アントンセン(デンマーク)に2-1で競り勝った。

「足が出なくて転んでも取ってやるというくらいの気持ちで行った」という言葉を体現。大柄な相手の強打に瞬発力とスタミナで食らいつき、頭上越えを狙って来る球は、飛びついてたたき落とした。アントンセンは、この種目で日本の代表的な選手である桃田や奈良岡功大(FWDグループ)らと何度も戦っているライバルで、日本のファンにも名を知られる存在だ。

準々決勝、世界ランク10位のアントンセンを破って喜ぶ大林【筆者撮影】
準々決勝、世界ランク10位のアントンセンを破って喜ぶ大林【筆者撮影】

 勝利が決まり、大林がひざから滑り込んでガッツポーズを見せると、2階席の最前列から身を乗り出すように見ていた男子高校生は「おぉー、すげえ!」と喝采。拍手を送る四方の観衆に両手を挙げ、礼で感謝を示した大林は「いつもは(出る大会は)優勝しないと意味ないと思っていたんですけど、めちゃくちゃ嬉しいです」と勝利を喜んだ。

世界王者の洗礼、意識に変化

準決勝では世界王者のアクセルセンに完敗【筆者撮影】
準決勝では世界王者のアクセルセンに完敗【筆者撮影】

 日本A代表の奈良岡、西本拳太(ジェイテクト)、常山幹太(トナミ運輸)も出場する中、この種目の日本勢で唯一ベスト4に進んだ。準決勝は、東京五輪金メダリストで世界選手権王者のビクター・アクセルセン(デンマーク)に挑戦。しかし、結果は、0-2(7-21、13-21)の完敗だった。

 試合後、テレビインタビューで手応えのあった部分を問われると「(強打を)1回で決められる場面もあったんですけど、我慢して何本も取れた時は点数が入っていた」と答えたが、ペン記者の取材エリアに移ると苦笑いを浮かべ「正直、何もかも上手くいかなかった」と話した。手応えなど微塵もなかったというのが本音だ。

「正直、スマッシュの速さには自信があるんですけど、出だしから、メンタルに(ショックが)来ました。相手に簡単にレシーブをさせず、前に詰めるのが自分の得意なパターンですけど、全力でスマッシュを打ってもロングリターンが上がる(自陣後方まで戻される)」(大林)

 得意なショットは通用せず、数多く打つこともできなかった。手応えは、ない。ただ、世界王者に真剣勝負を挑み、距離を感じたことは、無駄ではない。

「今回みたいな試合になったら(相手の球が)どこに飛んで来るかも分からない。パターン練習で、疲れてきたらコースを狙えなかったり、ネットに引っ掛けたりとか簡単にするけど、そういうふうにやっていたら、このレベルで付いていけないとよく分かった」

 当たり前のことに聞こえるが、歓声に背中を押されて本気で勝ちたいと思う中、試合の中ではどうしようもないほどの力量差を感じられたからこその見直しだ。

 初開催された熊本マスターズジャパンは、大林のような次世代の日本代表候補や、もっと未来の日本バドミントン界の力となり得る子どもたちに、大きな刺激を与える国際大会になったはずだ。貴重な場で刺激を受けた大林がさらに活躍すれば、大会の価値もより伝わりやすいものになる。熊本で暴れた「恐竜」がどこまで飛躍するか、楽しみだ。

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

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