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神村学園を16年ぶり4強に導いたMF大迫が示した、FW福田への絶大な信頼

平野貴也スポーツライター
福田(2列目最右)、大迫(最前列中央)を擁した神村学園は、ベスト4で挑戦を終えた(写真:松尾/アフロスポーツ)

 敗戦のショックを隠してさわやかに話した主将は、何度かエースの背中に視線を送った。第101回全国高校サッカー選手権は7日に準決勝を行い、神村学園(鹿児島)はPK戦の末に岡山学芸館(岡山)に敗れた。FW福田師王(3年、ボルシアMG加入内定)とMF大迫塁(3年、C大阪加入内定)、2人のプロ内定選手を擁する注目チームは、すべての試合で先制されながら持ち前の攻撃力を発揮して勝ち上がり、悲願の初優勝は成し得なかったが、16年ぶりのベスト4入りを果たした。PK戦敗退のショックは大きいはずだが、主将を務める大迫は「今年の色として、笑顔の、元気のあるチームだったので、自分が暗い顔をするより笑顔になることで、チームも良くなるかなと思って」と、笑顔を交えて気丈に振る舞った。

大迫が福田に対し「感謝しかない。でも…」と笑った理由

 福田と大迫は、1年生の頃から主力で、選手権の全国大会は3度目の挑戦。開幕戦、準決勝、決勝でしかプレーできない国立競技場にたどり着いた。準決勝では、ともにゴールを奪う活躍。準決勝のスコアは、3-3。神村学園の1点目は、大迫の縦パスを福田がポストプレーでつなぎ、味方のシュートのこぼれ球を福田が押し込んだもの。2点目は、大迫の直接FK。3点目は、大迫が蹴ったコーナーキックを味方が頭で合わせたものだ。大迫は、この試合で1得点1アシスト。福田は通算3得点となりゴールランクの首位タイに並んだ(準決勝終了時)。大迫に、福田との歩みを振り返ってもらうと次のように話した。

「本当に、チームを引っ張って来た2人。2人とも苦しい時期もあったし、楽しい時期もあった。2人で乗り越えてきた(神村学園中からの)6年間、(高校)3年間だったので、感謝しかない。でも、1本、自分がスルーパスを出した場面は、決めてほしかったですね」

 最後は、少しいたずらっぽく笑った。後半の立ち上がり、左サイドでこぼれ球に走り込んだ大迫は、ワンタッチで対角へ蹴り、相手の背後へピンポイントパス。相手2人のマークをすり抜けた福田が、狭いスペースで胸トラップからボレーシュートを放ち、わずかにゴール右へ外れた場面があった。高度なパスと、高度なシュートだった。話している途中、少し離れた場所で取材に応じる福田の背中へ視線を移した大迫は、アイツなら決められるはずだからと付け加えるような表情をしていた。

「エースストライカーです」と話した視線の先にあった福田の姿

 これまでの大会で、大迫は「前に師王がいるから」という言葉を何度も繰り返してきた。入学時から高い期待を受け、ともにプレッシャーを感じながら高みを目指してきた仲。県大会決勝でも、大迫のピンポイントパスに走り込んだ福田の得点で勝利を挙げた。福田に良いパスを送れば、必ず決めてくれると信じられる。だから、そのパスを放つためにプレーできる。かけがえのない戦友だ。

「福田君は、どんな存在ですか?」と質問を受けた大迫は「エースストライカーです」と答えた。質問者は、大迫がサッカーの役割だけで答えたと感じたのか、別の答えを引き出したかったのか、もう一度聞いたが、答えは変わらなかった。大迫にとって、これ以上に信頼を表現できる言葉はないのだろう。

 大迫の視線の先にいた福田は、PK戦でキックを止められたこともあり、暗い表情。いつものように、勝敗を決するスコアラーとしての責任を重く受け止め「チームメートや先生方に申し訳ない。塁が良いパスを出してくれて、自分が決めきる力が本当になくて、チームに迷惑をかけました。得点力もなく、怖い選手でもない。何もできず、悔しい大会でした」と話していた。インターハイで敗れたときも、福田は「自分のせいだけで負けた」と繰り返した。

 仲間が作り出したチャンスを必ず決めてチームを勝たせる。注目選手としてどれだけ厳しいマークをされても、その思いを変えずに戦い続けるストライカーは、試合に敗れれば常に自分を責める。良かったプレーに言及しても、自責の念から離れられない。何度か取材をしていれば、福田がそういう選手であることが分かる。ずっと一緒に戦ってきた大迫にしてみれば、知り尽くしたこと。「決めてほしかったですね」と笑ったのは、福田が悔しい思いをした後、今度こそと強い気持ちで挑戦し、ゴールを決めてきた道のりを知るからこその絶大な信頼の証だ。

大迫「日本サッカーを引っ張っていかないといけない2人」

 望んだ結果にはならなかったが、力を見せられずに終わったわけではない。鹿児島県大会では史上初の6連覇。プリンスリーグ九州では優勝し、プレーオフを勝ち抜いて初のプレミアリーグ昇格も果たした。そして、16年ぶりの高校選手権ベスト4進出。「強い神村学園」を印象付けたシーズンで、2人は主軸として活躍した。体調不良から回復して準決勝でベンチ入りした有村圭一郎監督は、2人に次のようなエールを送った。

「注目をされる中で1年、2年と選手権に出たけど、思ったような結果(99回大会はベスト16、前回大会は初戦敗退)が出せなくて一番悔しい思いをしていたのは、彼ら。3年生になってチームを勝たせる、チームをまとめるといった部分に力を注ぐ中で、自分のプレーができなくなった時期もあったが、彼らの力が存分に発揮されて、ここまで上がって来たのは間違いない。プロでも夢を与えられるようなサッカー選手としてやってもらいたい。努力する力は、もう彼らには備わっているもの。一歩一歩、しっかりと階段を上って行ってくれたらと思う」

 神村学園で注目を浴びてきた黄金コンビの挑戦は、日本一決定戦まであと一歩のところで幕を閉じた。今後、福田は、ドイツ1部のボルシアMGへ。大迫は、J1のC大阪に合流して、それぞれの道へ進む。有村監督の期待に応え、プロの世界でともに飛躍することが期待されるが、本人たちも、そのつもりだ。大迫は「多分、また日本サッカーを引っ張っていかないといけない2人だと思うので、自信を持ってやっていきたい」と話した。ともに世代別日本代表の経験者。次は、日の丸をつけて、2人で大舞台へ。最後まで厚い信頼を示して誓った未来に向け、2人の挑戦は続いていく。

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

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