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ダークホースの尚志、鉄壁の前年から一転して攻撃力で勝負

平野貴也スポーツライター
尚志高校は、福島県代表として2年連続13回目の出場【筆者撮影】

 第101回全国高校サッカー選手権が28日に開幕する。今季は各大会で接戦が多く、混戦が予想される。尚志高校(福島)は、ダークホースとして名前の挙がるチームだ。

 プリンスリーグ東北では、青森山田高校セカンド(青森)に次ぐ2位だったが、想定内。仲村浩二監督は「青森山田を(順位の面で)無視して、選手をローテーションしながら、上位を争いそうな相手を確実に叩いた。山田戦は、そんなに無理をしなくても良い」と昇格対象にならないチームを除いた競争を意識して戦っていたことを明かした(青森山田高校は、トップチームが最高峰のプレミアリーグに所属しているため、セカンドチームがプレミア参入プレーオフに出場することができない)。

 12月中旬に行われたプレーオフでは、プリンスリーグ中国2位の岡山学芸館高校(岡山)、プリンスリーグ北信越1位の帝京長岡高校(新潟)を連続して破り、4年ぶりのプレミアリーグ復帰を決めた。また、セカンドチームも福島県1部からプリンス東北に昇格。全国大会でも通用する力があることは、間違いない。

超高校級DFアンリを擁した昨季の課題、得点力不足を解消

前線で存在感を増している2年生FW網代。ほかにも攻撃陣は人材が豊富だ【筆者撮影】
前線で存在感を増している2年生FW網代。ほかにも攻撃陣は人材が豊富だ【筆者撮影】

 昨季は、U-21日本代表に選出されていた超高校級DFチェイス アンリ(シュツットガルト)を擁して鉄壁の守備を誇ったが、得点力不足が響いた。しかし、今季は前線の人材が豊富。身体能力が高い上に機動力もあるFW網代陽勇(2年)と、スピードがあるシャドーストライカーのFW笹生悠太(2年)は、ともにリーグ戦で9得点。ポストプレーやヘディングを得意とするFW鈴木虎太郎(3年)もおり、網代と鈴木の組み合わせなら、前線でツインターゲットを形成。笹生がいればターゲットの周囲で前後の動きを見せて相手をかく乱できる。

 そして、鈴木や網代がボールを収めて相手を中央に寄せれば、サイドアタックが有効になる。小柄だが技術があり、中央に寄ってパスワークにも参加するMF吉満迅(3年)は、プレミアリーグプレーオフの2試合で連続得点。MF山本叶多(3年)は、チャンスメーク能力に優れる。また、ジョーカーとして起用されることの多いMF安斎悠人(2年)も切れ味鋭いサイドアタックを繰り出す。「自分の武器は、ドリブル。後ろ向きなプレーは必要ない。ボールを持ったら常に仕掛けてチームに貢献したい」と話すとおり、先発で起用された岡山学芸館戦では、何度もサイドから突破を繰り返して相手に脅威を与えていた。

 長短のパスを正確に繰り出すゲームメーカーのMF岡野楽央(3年)は「練習の紅白戦でも引き分けだったら怒られるくらい。失点を恐れず点を取りに行こうと話している」とチームとしてギアを上げる攻撃の一体感に手応えを示した。昨季から出場機会を得ていて、今季は主将を務めているDF山田一景(3年)も「昨季に比べると後ろからつなぐ部分は上手いし、良いパスサッカーができる。点が取れているところが、一番、昨季とはレベルが違うところ」と攻撃力の向上に自信を見せた。

3年生の変化、夏から強めた勝負へのこだわり

長短のパスで攻撃を組み立てるMF岡野【筆者撮影】
長短のパスで攻撃を組み立てるMF岡野【筆者撮影】

 アンリのような超高校級はいないが、今年も守備力は維持している。主将の山田は相手の攻撃を弾き返す能力が高い。安定感のあるGK鮎澤太陽(3年)は、昨季の堅守の体現者。2人を中心に締める守備は、結束力が増している。ボランチで起用されるMF神田拓人(2年)もロングボールを跳ね返す力がある。仲村監督は、夏との違いについて「夏までは、ふわっとしたところが多かった。点を取られても何とかなるだろう、パスをつなげていればいいか、自分たちのサッカーができていればいいかという感じだったが、勝負へのこだわりがついた。試合を見ていても失点ゼロで行くぞ、というのが伝わって来た」とチームの成長を認めた。

 進化のきっかけは、インターハイの敗戦だ。夏までは練習中の声も少なく、最上級生である3年生がチームをけん引できていなかったという。しかし、能力の高い選手が揃う2年生が高く評価され、大会を勝ち上がれない悔しさを味わい、冬に残された最後の大舞台に向けて個々の意識が変わって来た。MF岡野は「インターハイで試合に出ている3年生が少なく、(出場した)自分も含めて悔しい思いをして、3年生中心でやるようになった。自分もインターハイではセットプレーで点を取れなかったので、自分のキックで勝たせられるようにと思ってやってきた」とプレーでけん引する自覚を強めた。主将の山田は「今季は(アンリのような)頼れる人がいない。その分、一人ひとりが『自分がチームを勝たせる』という気持ちが強くなった」と昨季とは異なるチームメートの意識の変化を認めた。

鬼門のPK戦を乗り越えられるか

主将を務めるDF山田は、ワールドカップを見て昨季のPK戦の経験を思い出したという【筆者撮影】
主将を務めるDF山田は、ワールドカップを見て昨季のPK戦の経験を思い出したという【筆者撮影】

 昨季にはなかった攻撃力で、点を奪って勝つサッカーが理想だ。しかし、高校選手権は、準々決勝までリーグ戦よりも10分短い80分で試合が行われる。トーナメント戦のため、リーグ戦より守備を重視するチームも多い。取り切れなかった場合のPK戦は、想定しておく必要がある。尚志は昨季からPK戦による敗退が多い。昨季は、インターハイ全国大会、プレミアリーグプレーオフ、高校選手権全国大会と大舞台はすべてPK戦で敗退。今年も夏のインターハイは全国大会初戦でPK戦により敗退している。ワールドカップを見ていたというDF山田は「日本代表の試合には感動させられました。(ドイツ戦やスペイン戦のように)負けていても一つのプレーで雰囲気は変わるので、自分たちも諦めないようにしたいと思いました。でも(クロアチア戦で)PKで負けたときは、こういう風景、見たことあるな……尚志じゃないかと……」とPK戦で夢を打ち砕かれる辛さを思い出し、PKに関しても準備を進める姿勢を示した。

 トーナメントの近くのヤマには、同じ東北勢で全国のトップレベルで活躍し続けている青森山田がいる。仲村監督は「青森山田さんがいるから僕らも強くなれている。目標があるのは大きい」と話した。相手の強さを認めながら、それでも勝ちに行く。そんな姿勢も、見覚えのあるものだ。岡野は「ワールドカップでは、大会前の評価が低かった日本が、強豪にも勝てるところを見せてくれて勇気をもらった。僕たちのヤマも強いチームが多いけど、勝ちたいと思っています」と躍進を誓った。緊張感の強い序盤を抜けられれば、攻撃力が爆発する可能性は十分。青森山田だけじゃない、東北にもう一つ強いチームがあると言わせるつもりだ。

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

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