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「新しい帝京」は挑戦者、充実ラインナップでインターハイ再挑戦

平野貴也スポーツライター
年代別日本代表の経験も持つ帝京のエースFW齊藤慈斗【筆者撮影】

 今年のカナリア軍団は、一味違う。全国高校総体(インターハイ)サッカー競技男子は、24日から徳島県で開催される。2校が出場する東京都で1位になったのは、全国で上位を狙うのに十分なラインナップを揃えた帝京高校だ。

 試合会場では、プロクラブ、大学のスカウト担当が「帝京は、良い選手が揃っていますね」と口をそろえた。エースストライカーのFW齊藤慈斗(3年)やドリブルが武器のMF松本琉雅(3年)は、プロクラブも注目するタレント。U-19日本代表候補のDF入江羚介(3年)が負傷により戦線離脱中だが、その穴も埋めるのに十分な戦力が揃っている。

 過去2年はプリンスリーグ関東で残留争いを強いられていたが、1年次から主力の選手が多い今季は、その中で鍛えられてきた世代。今季は、関東1部で首位ときん差の2位につけ優勝争いを展開している。日比威監督は「今、誰が出ても良い。選手層は厚くなってきた。あとは下級生が脅かすようになって来ないといけない」とチーム力に手応えを示し、さらなる競争と成長を促した。

特長は、全国上位レベルの攻撃力

プロクラブの練習にも参加するなど、評価が高いMF松本琉雅【筆者撮影】
プロクラブの練習にも参加するなど、評価が高いMF松本琉雅【筆者撮影】

 関東1部では、リーグ最多の20得点。齋藤や松本頼みではなく、センターラインには、プリンスリーグ関東で5ゴールを決めて得点王争いをしている主将のFW伊藤聡太(3年)、圧倒的なドリブルキープで全体を押し上げるMF押川優希(3年)、サイドチェンジやミドルシュートを得意とするMF田中遥稀(3年)と試合の流れを変えられる選手が揃う。

 さらに、両サイドのアタッカーは、プロクラブの練習に参加したMF松本でも「練習中からポジション争いが激しく、自分のプレーをしっかりと出さないと、すぐに取られてしまう」と話すほど人材が豊富だ。全国切符を勝ち取った東京都大会の準決勝では松本が体調不良で不在だったが、快足MF橋本マリーク識史(3年)が決勝点を挙げる活躍を見せた。切れ味鋭いレフティーのMF山下凛(3年)も主軸。負傷離脱中だったMF前野翔平(3年)も全国大会を前に練習に復帰。いずれも個で相手のマークをはがす力を持つ。

 選手がそろった背景として、現スタッフのスカウト活動や、入学してからの選手、スタッフの努力はもちろんあるが、日比監督は「一番は、中学のチームが、止める・蹴るをしっかり教えた選手を預けてくれることが大きい」と話す。かつて古沼貞雄監督の下で全国屈指の強豪として名を馳せた帝京は、全国各地のチームでサッカーに関わっているOBが多い。サッカー界に多くの人脈を持つ名門校の強みは、情報網、ひいてはスカウト網として機能している。今季の3年生は、多くがJクラブのジュニアユース出身者。力のある選手がそろい、1年次から注目されてきた世代だ。

前回PK失敗のエースFW齋藤「借りを返すときが来た」

 ブラジル代表を彷彿とさせる黄色のユニフォームは、再び全国で輝くか。カナリア軍団の躍進は、全国レベルの経験不足を補えるかどうかが鍵だ。7月には、同じくインターハイ全国大会に出場する矢板中央(栃木)と関東1部で対戦。5得点を奪って勝利を収めたが、立ち上がりに2失点、終盤に1失点と3失点。1試合を通した試合運びには課題が残る。主将の伊藤は、その試合後に「ボールを持っているけど(数少ないピンチで)失点してしまうとか、気持ちが乗り切っていない時間にやられるとか。トーナメントでは1失点で負けてしまう。全員で改善しないといけない」と指摘していた。

 帝京は、冬の高校選手権では、2009年を最後に全国大会には出場していない。2014年に日比監督が就任して以降も、東京都大会で上位に来る力は示したが、あと一歩が遠かった。昨年、11年ぶりにインターハイ全国大会に駒を進めたが、準優勝した米子北高校(鳥取)に終盤で同点に追いつかれてPK戦で初戦敗退。試合の入り方、終わり方に甘さがあれば、トーナメントでは特に足下をすくわれやすい。エースストライカーの齋藤は「昨年は1回戦で自分がPKを外して負けてしまった。その借りを返す時が来たと思っている。自分が一番悔しい思いをしたと思っている。(今回は)自分のプレーを知ってもらえるように、大きい存在になりたい」と昨年の経験を糧に飛躍することを誓った。

名門時代は過去、「全国に出られるようになってきた」新世代は挑戦者

全国上位から遠ざかって久しい名門の帝京。過去を知らない新世代は、挑戦者の姿勢で全国に挑む【筆者撮影】
全国上位から遠ざかって久しい名門の帝京。過去を知らない新世代は、挑戦者の姿勢で全国に挑む【筆者撮影】

 古くからの高校サッカーファンに期待されているのは「強い帝京の復活」だが、実際のところ、今の時代の選手に「復活」の意識はない。MF橋本が「僕が入学したときは、まだ全国大会に出るのも厳しかったけど、出られるようになってきたので、全国に行くからには優勝を狙いたい」と話す姿に見られるのは、むしろ新興勢力のチームの雰囲気だ。当然、常勝軍団に特有のプレッシャーもなく、挑戦者の立ち位置をハッキリとさせている。

 新しい時代の、現代の、強い帝京を作り上げていく――そんな雰囲気をまとったチームと言える。MF押川は「昨年は全国出場が11年ぶりということで注目されたけど、当たり前にしないといけない。初戦で終わっているようでは、全国は取れない。最低でもベスト4に食い込めるくらい、力をつけたい。昨年を経験しているメンバーも多くいる。経験を無駄にせず、初戦から自分たちの試合をできれば、良い結果につながる」と意気込みを語った。

 帝京の初戦は、大会初日の24日。1回戦で大分鶴崎(大分)と対戦する。このカードの勝者は、翌25日の2回戦において、第1シードとなっている前年王者の青森山田(青森)と対戦する。厳しいヤマを勝ち上がり、現代の強豪として名を馳せるか、注目だ。

令和4年度全国高等学校総合体育大会サッカー競技・男子

大会トーナメント表

(リンク先:日本サッカー協会公式サイト内、大会日程・結果)

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

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