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市立船橋「伝家の宝刀」を磨き直し、最多優勝回数の更新狙う

平野貴也スポーツライター
最多10回目のインターハイ制覇を目指す、市立船橋高校(千葉)【筆者撮影】

 全国高校総体(インターハイ)サッカー競技男子は、7月24日から徳島県で開催される。全国最激戦区と呼ばれる千葉県の代表として出場する市立船橋高校は「伝家の宝刀」セットプレーを磨き直し、最多優勝回数の更新を狙う。

 全国出場は、3年ぶり29回目。19年に波多秀吾監督が就任すると同時に、全国大会の出場枠が削減され、千葉県の出場枠は2から1へ減少。19年は日体大柏、20年は中止、21年は流経大柏が出場と3年間、夏は全国大会に進めなかった。

 波多監督は「久々のインターハイ。一戦一戦、大事に戦い、後々、彼らの血となり肉となるような経験をしていきたい。私が監督になってから代表が1校になったので、なかなか出られませんでしたが(学校としては)これまでインターハイでは何度も優勝させてもらっている。そこを目指して、まずは、土俵に立った印象です」と就任後初のインターハイ全国大会出場への思いを語った。

攻撃のキーマンは2年生MF郡司「兄の5得点超えたい」

U-16日本代表候補に選出された経験もある2年生MF郡司璃来【筆者撮影】
U-16日本代表候補に選出された経験もある2年生MF郡司璃来【筆者撮影】

 今季は、要所を3年生が締めているチームだが、能力の高い下級生が多く起用されている。攻撃陣は、センターバックからコンバートされたFW青垣翔、ドリブルの突破力があるFW渡邉慎和ムセマやFW丸山侑吾、さらにスピードのあるFWイジェンバ リチャード(いずれも3年)、スーパーサブのFW森駿人(2年)と人材豊富。

 中でも最注目は、セカンドストライカーを務めるMF郡司璃来(2年)だ。千葉県大会では4得点を挙げた。得点感覚に優れており、ドリブルで相手をかわしてコースを作り出すのが巧み。両足でゴールを狙う。これまでは、足下でパスを受けてからプレーすることが多かったが、今季はツートップの一角に入ることが多く、相手の背後への抜け出しも増加している。

 兄の篤也(房総ローヴァーズ木更津FC)は、16年のインターハイ全国大会に1年生で出場し、5得点を決めて得点王争いに加わる活躍を見せた。郡司は「予選(県大会)と違って緊張は強いと思うけど、自分が点を決めて勝ち進みたい。兄貴が5得点を決めているので、それを超えられるように頑張りたい」と目標を語った。中盤で司令塔となるMF太田隼剛、守備の要となるMF白土典汰(ともに2年)とともに、センターラインでチームをけん引する2年生トライアングルの一角を担う。

OB増嶋コーチが「伝家の宝刀」セットプレーを再強化

キッカーの北川にアドバイスを送る増嶋竜也コーチ【筆者撮影】
キッカーの北川にアドバイスを送る増嶋竜也コーチ【筆者撮影】

 守備面は、改善傾向にあるが、ユース年代最高峰のプレミアリーグEASTは11試合で8得点26失点(7月14日時点)と失点が多く、残留争いを強いられる要因となっている。苦しみを味わっている守備陣ではあるが、彼らが得点力を支えている部分もある。

 鋭いキックを武器とするMF北川礁(3年)は、左サイドバックやボランチでプレーするレフティー。彼のキックが最大限に生きるのが、市立船橋の「伝家の宝刀」セットプレーだ。千葉県大会では、準決勝、決勝ともにセットプレーから得点を決めた。県大会の決勝戦、FKでアシストした北川は「増嶋さんには『ここに蹴れ』と言われる。『この辺』じゃない。そこに合わせるのが難しい。だから、得点した藤田以上に自分の方が喜んだと思う。あの場面は、求めていたところに蹴れたので」と1本のキックに神経を研ぎ澄ましていたことを明かした。北川のキックから、センターバックの藤田大登(3年)や右サイドバックの佐藤凛音(2年)が高い打点のヘディングを狙いつつ、彼らを囮にしたプレーも仕掛けていく。

 今季は、セットプレーを磨き直している。トレーニングを担当しているのは、OBの増嶋竜也コーチ。卒業後はプロの世界へ進み、F東京を皮切りに甲府、京都、柏、仙台、千葉と多くのクラブで活躍したストッパーだ。20年シーズンで現役を引退。昨年からコーチとして母校の強化に加わっている。昨年は週に一度だったが、今季からは日数を増やして本格的に参加。主にセットプレーを担当しており、すべての試合に帯同している。「配球の仕方、マークの外し方は間違いなく良くなっている。得点の確率をいかに高くするか。インターハイのようなトーナメントなら、セットプレーが鍵を握る。高校生は、教えれば教えるだけ上手くなる」と選手の吸収力に手応えを得ている。セットプレーの守備も向上。県大会の決勝戦では、190センチの長身を誇る日体大柏FWオウイエ ウイリアム(3年)に1点を奪われたが、2人で挟み込む頭脳プレーで多くの場面を抑え込むことに成功した。

目指すは最多回数更新する10回目の優勝

プレミアリーグでは残留争いを強いられているが、トーナメントで強さを発揮できるか【筆者撮影】
プレミアリーグでは残留争いを強いられているが、トーナメントで強さを発揮できるか【筆者撮影】

 波多監督は「今年は、勢いに乗ると力を発揮しやすい性格の子が多く、先に点を取ると勢い付くが、先に取られたり追いつかれたりすると少しうろたえてしまうところがある」と課題を指摘する。

 トーナメント戦は、守備、カウンター、セットプレーの3点が揃うと強い。攻撃面では、一人でも前に運んでいける個性ある面々が揃っており、セットプレーはチームの強みだ。攻守の切り替えを早くし、カバーリングに優れるDF懸樋開(3年)、田中悠也(北九州)の弟で兄と同じGKというポジションを務める田中公大(3年)を中心とする守備陣を、攻撃陣が守備面でサポートできるかどうか。

 守備が改善され、先制点を奪えれば、チームの特長を存分に発揮できるだろう。北川は「目標は、全国制覇しかない」と言い切る。市立船橋は、最多9回の優勝を誇る強豪。初の2ケタ優勝が最大の目標だ。市立船橋の初戦は、大会初日の24日。1回戦で草津東(滋賀)と対戦する。

令和4年度全国高等学校総合体育大会サッカー競技・男子

大会トーナメント表

(リンク先:日本サッカー協会公式サイト内、大会日程・結果)

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

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