Yahoo!ニュース

バドミントン永原「久々に母にプレーを見てもらえた」、888日ぶり出場「有観客の」国内公式戦の価値

平野貴也スポーツライター
888日ぶりとなる有観客の国内公式戦に出場した永原和可那(右)【筆者撮影】

 待ちわびていた日が、やって来た。バドミントンの日本ランキングサーキットが28日に埼玉県のサイデン化学アリーナで開幕し、東京五輪にも出場した日本A代表女子ダブルスの松本麻佑、永原和可那(ともに北都銀行)が出場。S/Jリーグ2019-2020最終戦が行われた2019年12月22日以来888日ぶりとなる、有観客の国内公式戦に臨んだ。

 2018、19年の世界選手権を連覇している「ナガマツ」ペアだが、今回は、後輩選手の出場を確実にするために、それぞれが持っているランキングポイントを生かす形でペアを組み替えた。A代表とのプレーで後輩の成長を促す狙いもあり、松本は曽根夏姫と、永原は江里口玲奈と組んで出場。ともに即席ペアのために連係面で苦しみ、ファイナルゲームまでもつれる接戦。松本/曽根は勝ち上がったが、永原/江里口は初戦敗退となった。

松本麻佑「やっぱり日本のファンの人に応援してもらいたい」

松本麻佑(右)は、後輩の曽根とのペアで出場し、1回戦を突破【筆者撮影】
松本麻佑(右)は、後輩の曽根とのペアで出場し、1回戦を突破【筆者撮影】

 コロナ禍になって以降、松本も永原も国内で試合をしてはいるが、ずっと無観客開催だった。そのため、松本は「有観客の方が、気持ちは上がる。世界で戦っている姿も見てほしいけど、やっぱり日本のファンの人に応援してもらいたい。自分のプレーを見て応援していただける方が少しでも増えたらなと思う」と久々に国内のファンの前でプレーできた感想を話した。

 2年半近く国内のファンの前でプレーすることができなかっただけに、喜びは大きい。永原は「後輩と組んだのに勝たせられず、自分の力不足が見えた」と試合結果については悔しがったが、久々に母親にプレーを見てもらえたと言い「ずっと親が見に来れない環境で、東京五輪も無理だったので、久しぶりに有観客で試合をできたのは良かった。これから国内の試合に(本来の)ナガマツで出るときに、たくさんのお客さんの前で自分たちが良いプレーをできるようにしたいと思う」と本来の形である松本とのペアで国内開催の公式戦を戦える次の機会に期待を膨らませた。期待の対象となる大舞台が、3カ月先に待っている。8月に東京で開催される世界選手権だ。

8月に東京で世界選手権開催、多くの主力が見られる機会に

 昨年の全日本総合が有観客開催だったが、コロナ禍のオミクロン株流行によって日本の水際対策が強化された影響で、世界選手権に出場した日本A代表ら主力が出場できなかった。

 日本A代表28人の中で今大会に参加したのは、松本と永原を含めて6人。東京五輪で銅メダルを獲得した混合ダブルスの渡辺勇大/東野有紗(BIPROGY)や近年の世界選手権を優勝している桃田賢斗(NTT東日本)、山口茜(再春館製薬所)、保木卓朗/小林優吾(トナミ運輸)ら多くの注目選手がまだ、国内のファンの前で公式戦を戦うことができていない。

 彼らが世界と戦う姿を国内で見られる世界選手権(8月22日開幕、東京)は、選手にとっても、家族や国内のファンにとっても待望の機会と言える。

 松本/永原にとっても、ペアとしてのプレーを日本のファンに久々に披露する機会となるだけに、永原は「世界選手権は、東京開催に決まってから、ずっと楽しみにしている。東京五輪が無観客だった分、ぜひ有観客でやってほしい。観客がいるのといないのとで、試合の雰囲気や自分たちのモチベーションは違う。応援は、すごい力になる。これからは全部の試合が有観客になったらいいと思う」と有観客開催の継続を訴えた。

無観客開催の2年5カ月の間に引退した代表選手も

東京五輪にも出場した園田啓梧(右)は、無観客開催が続く中で第一線を退き、コーチを務めているが、今大会は後輩の金子真大とのペアで緊急参戦【筆者撮影】
東京五輪にも出場した園田啓梧(右)は、無観客開催が続く中で第一線を退き、コーチを務めているが、今大会は後輩の金子真大とのペアで緊急参戦【筆者撮影】

 長く無観客開催が続いている間に、日本A代表では東京五輪に出場した遠藤大由(BIPROGY→BIPROGYコーチ)、嘉村健士(トナミ運輸→ヨネックスコーチ)や、女子ダブルスで21年にA代表入りした高畑祐紀子(ヨネックス)が現役を引退した。嘉村とともに第一線を退いた園田啓梧(トナミ運輸)は、現在はコーチの役割を担っているが、今大会は後輩の金子真大(トナミ運輸)の出場を後押しする形でペアを組んで男子ダブルスに出場した。

 園田は、嘉村との「ソノカム」ペアでの最後の公式戦が、2月のS/Jリーグ八代大会だった。八代東高校で組んだペアが、思い出の地でラストマッチを行うことになったが、この大会も無観客で地元のファンに観戦してもらうことができなかった。その後、4月に日本代表のチームメイトである渡辺勇大(BIPROGY)が主催した有観客イベントで嘉村とペアを組んでプレー。お披露目の場を設けてもらえたことに感謝していた。

 園田は「お客さんがいないと、選手の価値はないと思っている。お客さんあってのスポーツ。長い期間、無観客だったけど、有観客になって、若い選手がモチベーションを高めて、日本で結果を出して、世界でも結果を出してもらいたい。すごいショットが出たら拍手が起きるとなれば、選手のモチベーションは上がるし、もっと良い球を打とうと思う。お客さんの力がないと、球の質は上がってこない」と有観客開催の価値を強調した。また、無観客開催の間に自身を含めて少なくない仲間が現役を退いたことについては「無観客は寂しかったので、有観客で、選手もファンも、みんながいる前でお疲れ様というセレモニーをやれるのが一番良い。やりたいですよね」と思いを語った。

 有観客とはいえ、声援は禁止だ。それでも、園田が話したように、拍手一つで雰囲気は変わる。選手とファンが互いを盛り上げていく好循環こそ、競技の発展を支える根幹であり、選手を育てる土壌となる。出場選手には、今後の飛躍を期待される若手も多い。多くの選手が価値を感じている有観客の雰囲気の後押しを受けて、大会は最終日の6月1日まで行われ、成績に応じて全日本総合選手権の出場権獲得に関わる日本ランキングポイントが付与される。

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

平野貴也の最近の記事