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「最後の国立」見ていたFWが波乱演出、関東第一が4強で再び国立へ

平野貴也スポーツライター
後半終了間際に起死回生の同点弾を決めた関東第一高のFW坂井(11番)【佐藤博之】

 敗戦寸前から――まるで、あの日、君が見た試合のようではないか。第100回全国高校サッカー選手権大会の準々決勝、関東第一高校(東京B)は、PK戦の末に優勝候補の一角だった静岡学園高校(静岡)を破り、初の4強進出を決めた。

 結果だけでなく、内容でも波乱と言える試合だった。試合終了時のシュート数は2対18。プロ内定4選手を擁する静岡学園の個々が誇る高い技術に苦しめられていた関東第一は、1点を追っていた試合終了間際、起死回生の同点弾で勝負をPK戦に持ち込んだ。

 右から左へ大きなサイドチェンジ。パスを受けたMF日下空(3年)が縦に突破を仕掛けると、逆サイドから2人がゴール前へ走り込んだ。日下は、ゴール前へグラウンダーのクロス。ゴール中央に走った背番号9はボールに届かなかったが、その外を走った11番、FW坂井航太(3年)が持ち味のスピードを生かしてスライディングでゴールへ押し込み、敗戦寸前だったチームを救った。関東第一にとって、後半40分間で初のシュートだった。

「日下が左足で持った瞬間、縦に行くのは分かっていた。自分も一緒にギアを上げないと、もうチャンスはないと思って、走り込めた。低いボールが来るのも練習を通して分かっていたので、あとは、自分が届くか届かないか。触れて良かった」

殊勲の同点弾を決めた坂井は、PK戦でキックミスをして泣き崩れた後だったため、笑顔こそなかったが、記者の質問を受けてゴールシーンを振り返った。

「最後の国立」で富山第一を応援、大逆転Vを目撃

 PK戦は、2点リードの場面から坂井が失敗したが、4-3で勝利した。ついさっきまで、圧倒的な強さを見せつけていた静岡学園が敗退。最後の最後まで、何が起こるか分からない。選手権の特長とでも言うべき、そのドラマ性は、坂井が8年前に自分の目で見て知った「高校選手権」の景色そのものでもある。

 選手権開幕の1週間前、プリンスリーグ関東参入戦を取材した際、坂井に「高校選手権で印象に残っている大会は、ありますか」と聞いた。何回大会だったかは覚えていないのですが、と前置きをして教えてくれたのは、8年前の「最後の国立」だった。2014年1月13日、第92回大会の決勝戦。この大会を最後に、国立競技場は東京五輪のため建て替え工事に入り、次回から決勝戦の舞台は埼玉スタジアム2〇〇2へ移る。そんな大会だった。

 試合は、星稜高校(石川)が2-1でリードの試合終盤、富山第一高校(富山)がアディショナルタイムにPKを決めて同点に追いつき、延長戦の末に逆転勝利を収めて初優勝を飾った。当時小学生の坂井は、幼稚園の頃から教わっていたスクールのコーチに連れられて国立競技場のスタンドにいた。

「コーチが富山第一高校の元キャプテンだったので、一緒に富山第一を応援していました。鳥肌が立ちましたね、あれは。今でもめちゃくちゃ覚えています。最後に、逆転したじゃないですか。あれから、いつか、自分もこの舞台に立てたらいいなって憧れの舞台になっています」(坂井)

8年ぶりの国立開催で自身も夢舞台に

 奇しくも、坂井が高校で最高学年を迎えた今季、高校選手権の決勝、準決勝、そして開幕戦の舞台が、国立競技場に戻された。東京都代表として開幕戦に出場した関東第一は、初戦を6-0で快勝。坂井は先発出場し、2点目を決めた。高校選手権の全国大会に出場し、国立競技場で躍動する夢はかなった。

 しかし、憧れの舞台は、大観衆の決勝戦。まだ先だ。開幕戦を勝った後、チームは勝ち上がって再び国立競技場へ戻ってくることを一つの目標とした。道のりは険しかった。2回戦で注目の大型DFチェイス・アンリ(3年)を擁する尚志高校にPK戦で辛勝。3回戦は、前回ベスト4の矢板中央高校(栃木)から最後の最後で決勝点を奪って3-2で激戦を制した。強敵・静岡学園との準々決勝では、夢への道が閉ざされかけたとき、脳裏に刻まれた景色を追いかけてきた坂井がゴール前に走り込み、またも試合終盤に得点が生まれる劇的な試合となった。

 我慢強く、諦めずに続けてきた努力で再び国立のピッチを踏む権利を得た。坂井は、今季の主力FWとして期待を受けていたが、インターハイ予選が終わってから、股関節のグロインペイン症候群に悩まされて2カ月休養。東京都予選は出場できなかった。仲間が勝ち取ってくれた全国の舞台だからこそ、仲間に残す物が欲しい気持ちも持っている。大会前には「昨年はベンチに入れたけど、1試合も出られずに負けてしまった。今度は、自分がピッチで後輩に良い姿を見せられるようにチームを引っ張って、結果を残したい」と話していた。

再びの国立「あのピッチでやるサッカーは、今までで一番楽しかった」

2021年12月28日に国立競技場で開幕戦を戦った関東第一(写真)が、準決勝で再び国立のピッチでプレーする【写真提供オフィシャルサポート】
2021年12月28日に国立競技場で開幕戦を戦った関東第一(写真)が、準決勝で再び国立のピッチでプレーする【写真提供オフィシャルサポート】

 粘り腰で勝ち上がってきた関東第一は、準決勝で再び国立競技場のピッチに立つ。坂井は「次は、国立に戻れる。あのピッチにもう1回立てると思っていなかった。あのピッチでやるサッカーは、今までで一番楽しかったので、戻れるのはとても嬉しい。2回戦も3回戦も、相手が格上だったので、粘って勝てたのは自信になっている。次の相手にも臆することなく、自分たちの力を信じてやれると思う」と憧れの舞台で再び躍動することを誓った。もちろん、狙うのはチームの勝利、そして、8年前にスタンドで見た決勝の舞台にたどり着くゴールを決めること。

「準決勝で決めるゴールは、また開幕戦とは違うと思う。自分のゴールでチームを勝たせられたら良いと思う」(坂井)

 1月8日(土)に国立競技場で行われる準決勝では、高校年代最高峰のプレミアリーグWESTで4位の強豪、大津高校(熊本)と対戦する。「最後の国立」で高校選手権に魅入られ「新・国立」の初代王者を目指す男は、夢舞台の挑戦権をかけて試合に臨む。

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

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