プロ野球があり、サッカーのJリーグがあり、バスケットボールのBリーグもある横浜に、いまだ、公式戦で一度も勝っていないプロチームがある。アイスホッケーのアジアリーグに参加している横浜GRITS(グリッツ)だ。

 9月18日、19日に、新横浜スケートセンターで今季のホーム開幕戦を行ったが、東北フリーブレイズに1-3、3-10と連敗を喫した。第1戦を終えて浅沼芳征監督は「いつもいつも、次こそ勝利、明日は勝利と言っていますが、そろそろ封印したい」と公式戦初勝利にかける気持ちを示していたが、第2戦は第1ピリオドでいきなり4失点を喫する厳しい試合展開となり、またも勝利を手にすることはできなかった。

2019年発足、デュアルキャリア採用の新チーム

 チームは2019年に発足したばかり。デビューイヤーとなった昨季は、コロナ禍による相手の辞退で不戦勝となった試合を除けば、全敗。実質未勝利のまま2年目を迎え、何としても勝利を手にしなければという思いは強いが、なかなか容易ではない。

 横浜GRITSは、他チームからの移管ではなく、ゼロから作った真新しいチームだ。実業団チームとは異なり、選手が個別に仕事をしながら競技との両立を図るデュアルキャリアを採用しているのが特長だが、潤沢な資金があるわけではなく、自前の施設を持っているわけでもない。一度引退して仕事を持っている選手や、実業団からは声がかからなかった選手、就職しやすい大学を卒業したばかりの若手といった面々を戦力にスタートした。

 しかも、舞台はいきなりアジアリーグ。本来ならロシアや中国、韓国といった海外勢とも対戦予定だったが、参戦したシーズンにコロナ禍が重なり、アジアリーグは昨季から日本の5チームのみで行うジャパンカップを開催。相手は4チームに絞られたが、それでも実力差を埋めるのは難しく、昨季は少しずつきん差のゲームが増えたものの、勝利を挙げることはできなかった。

新規ファン向けサービスは充実、無料ライブ配信も

ホームゲームを盛り上げる公式チアリーダーズ「GRITS TOPAZ」【筆者撮影】
ホームゲームを盛り上げる公式チアリーダーズ「GRITS TOPAZ」【筆者撮影】

 一方、実業団とは異なった趣の新しいクラブチームらしく、地域密着を重視し、特に新規向けのファンサービスは充実している。ホームゲームは、試合前には照明演出や音響を駆使して華やかな雰囲気を作り出し、試合の合間には、チーム名を冠したオフィシャルチアリーダーズ「GRITS TOPAZ(グリッツトパーズ)」が盛り上げ役を務めている。

 コロナ禍で無観客開催となった時期も含め、ホームゲームは無料ライブ配信を実施。ホームページやSNS等を駆使した情報発信も多い。チームや競技の価値向上を目指す姿勢が明確でPRに積極的だ。実業団チームが次々に消滅していく中、競技後のセカンドキャリアの憂慮を解消するためのデュアルキャリア制度採用など、新たな試みが多く、これまでにはない運営スタイルのチームとしての注目度は高い。

 しかし、発足当初からチーム関係者、選手が「勝たなければ意味がない」と口を揃えて言ったとおり、いかに困難な状況からのスタートであっても、強化に時間がかかる状況にあるとしても、未勝利のままでは、デュアルキャリア等の価値を示すことはできない。

プレシーズンの白星で高まる初勝利の期待

 チームは少しずつ強化を進めており、手ごたえがないわけではない。守備陣が常に足りない状況だった昨季を経て、コンバートされたDF金子直樹を筆頭に、多くの選手がDF起用を経験。少しずつ戦力を整えてきた。昨年11月の日光アイスバックス戦では、第3ピリオド終了時3-3の同点で、初の延長戦(オーバータイム)に突入。敗れたが、勝利の可能性を漂わせた。

 そして、今季開幕前、8月のプレシーズンマッチでは、日光アイスバックスを3-2で撃破。非公式戦ながら、ようやく初勝利を味わった。

 1つの勝利がもたらす物は大きい。今季3試合目となったホーム開幕戦の第1戦、日本アイスバックスからの移籍加入発表の翌日にいきなり出場したDF秋本デニスは「ここまでできると思わなかった」と相手チームから見た昨季の印象とは異なる感覚を抱いていた。

 ロシア出身の秋本は、高校、大学と日本でプレーして日本国籍も取得。海外リーグでもプレーした経験豊富な元日本代表選手だ。「昨季は、自分たちは相手より上手くない、レベルが下だといった、勝負には不要な思いや遠慮があるチームだと感じていましたが、それがなくなり、泥臭く、しつこくファイトする気持ちでゴールに突っ込めていることは、驚きでした」とチームの変化を感じ取っていた。

デュアルキャリア挑戦の価値証明のために勝利が必要

 今後は、浅沼監督が「主将の熊谷豪士と同い年でリーダーシップがあり、遠慮せずにチームをまとめていく気持ちを持っている」と評するFW岩本和真ら新加入選手との化学反応による、さらなる進化も期待できる。

 一方で、北米3部相当のECHLのシンシナティ・サイクロンズから期限付きで加入していた日本代表FW平野裕志朗が北米に戻り、2016年ユース五輪代表で昨季途中に中央大学のホッケー部を退部してトライアウトから加入したDF菅田路莞もフィンランドリーグへの挑戦でチームを離れるなど、ホーム開幕戦を終えて戦力ダウンを強いられる部分もある。すんなりと右肩上がりというわけにもいかない。その中から、公式戦初勝利をつかみとり、価値を高めていけるかが、2年目のテーマとなる。

 真新しいチームが、プロの世界では珍しいデュアルキャリアを採用し、なおかつ、いきなりトップリーグに挑戦している。当然、チームが安定して成績を出せるレベルに強化、成熟するには、時間がかかる。しかし、待ってばかりもいられない。2年目を迎えた横浜GRITSは、その挑戦の価値と可能性を証明できるか。進化を加速させるために、勝利が必要だ。