大勝発進の國學院久我山、コーチと選手「研と献」山本兄弟の歩み=高校サッカー

開幕戦で大勝した國學院久我山高の右DF山本献は、兄の研コーチとともに日本一を狙う(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 第98回全国高校サッカー選手権大会は、30日に開幕し、31日に残りの1回戦が行われた。開幕戦では、國學院久我山高校(東京B)が8-0で西原高校(沖縄)に大勝。得点場面以外にも好機を多く作り出し、攻撃力を見せつけた。3得点を挙げたFW山本航生(3年)が「実を言うと、最初から得点をすごく意識していて、それで硬くなって、シュートもあまり良いところに飛ばなかった。こういう舞台で、だいぶ力が入ってしまっていた」と話したように、開幕戦の雰囲気にのまれて緊張した部分や、守備面で不用意にピンチを招く場面もあり、パーフェクトな内容ではなかったが、持ち前の攻撃力を示した。4年前の準優勝を超える初の全国制覇へ、一歩前進した。

山本献の兄、山本研コーチは4年前の準優勝メンバー

 初戦は、どちらも緊張感で動きが重くなりがちなため、出足が肝心だ。先にリズムを作った方が調子を上げ、押されたチームは平常心を取り戻すのに時間がかかる。その点、國學院久我山は、右サイドバックの山本献(3年)が思い切った攻撃参加で序盤にチャンスメーク。「基本、みんな、動きが硬くなってしまうので、自分はボールタッチもそうだけど、フリーランニングで相手を動かそういうところは意識していました。何回か良い関わりができて良かったです」と明かした狙いが奏功し、FKで2点目のアシストをするなど多くの好機を作り出した。試合前、彼に「後悔しないようにやれ。自分を信じて、仲間を信じて」とアドバイスをしたのは、山本研コーチだ。4年前に準優勝した際の左サイドバック。山本献にとっては、兄であり、先輩であり、コーチという存在だ。

「正直、弟がプレーヤーとして試合に出ているかどうかは、まったく重要な要素ではないです。ちょっと実家が盛り上がって、親が浮足立っている程度(笑)。仮に(弟の)献が試合に出ていなくても、指導するチームが久我山でなくても僕は日本一を目指します。逆に、彼は僕がコーチでなくても日本一を目指していると思います。だから、ピッチに入ったら、兄弟であることはまったく関係ないと思っています」(山本研コーチ)

 まだ慶応義塾大に在学中の兄は、指導者としての歩みを始めたばかり。國學院久我山高では、左サイドバックの主力として4年前の全国準優勝に大きく貢献。卒業後は、プロ入りを目指していたが、目標を指導者に変更。母校を率いていた恩師の清水恭孝監督に相談し、コーチとしてチームに加わることになった。指導者としての責任を強く感じているからこそ、弟よりもチームが最優先だと強調した。

 しかし、当然、弟と同じチームで同じ目標に向かえる環境については、感じ入るものもある。

「本当に多くの方が経験できるわけではなく、この年齢でベンチに入れてもらっていることで、特殊な状況が生まれています。こういうシチュエーションを作って下さった監督に感謝していますし、たまたま、こういう(弟とともに戦う)状況になって時間を過ごせることは、僕にとっては幸せなことです」とも話した。

巧くても勝てなかった世代と、全国準優勝の両方を知る貴重な存在

兄の山本研コーチは、2015年度の全国準優勝世代で活躍【著者撮影】
兄の山本研コーチは、2015年度の全国準優勝世代で活躍【著者撮影】

 準優勝を経験している山本研コーチの存在は、大きい。FW山本航は「山本コーチもいますし、あの試合を見て(久我山に)入って来た選手も多い。自分たちがもう一度(決勝戦の舞台である)埼スタに立って、久我山が成し遂げられていない日本一を成し遂げようという気持ちはあります」と先輩たちの経験を生かしながら、その成績を超えようとする気概を示した。また、山本コーチは、準優勝経験者というだけに留まらず、貴重な経験をしている。4年前のチームは、國學院久我山にとっての大きな挫折と成功を知っている世代だ。2013年、FW富樫佑太(岐阜)、MF平野佑一(水戸)、MF渡辺夏彦(VfRアーレン)らを擁して全国優勝を目指せる手応えを得ていながら、開幕戦で敗退する大きなショックを受けた。当時のチームは、見る者を魅了する力に溢れていた。山本献は「彼(兄)が1年生のときの3年生が渡辺夏彦君たちの世代で、その頃から久我山の試合を見て、このチームに行きたいと思っていました」と話した。山本研コーチは、その圧倒的な技巧を誇った先輩たちが打ちひしがれる姿を1年生のときに見ている。だから、自分が教える後輩たちには、その経験も伝えていた。弟の献は「あの世代は、行けるだろうという雰囲気があったかもしれないと兄が言っていました。その反省を踏まえてというか、自分たちは相手に関係なく自分たちのサッカーをするぞという話をしていました」と明かした。

 清水監督が就任して5年目。都内でも有数の技巧派集団は、その技術と戦術を勝利という結果に結び付けることをテーマに進化してきた。勝てると思って1試合で敗れた6年前の経験、東京都1部リーグ4位と突出したチームではなかったが、要所を押さえれば十分に勝ち上がれる力があると知った4年前の経験を知る山本コーチは「僕たちの世代は、3年連続での出場で、開会式からの流れや、独特の雰囲気についても知っていました。今年の代は、選手権を迎えるのが初めて。その辺は、僕が伝えていけるところがあると思って、意識しました」と自らの経験を生かし、弟に限らず、選手たちに声をかけたという。

「研、献」の名前に込められた思い

 ちなみに、山本は3兄弟。長男は、漢文の「学而」に由来した名前を持つ学爾(がくじ)さん。二男が「己を磨くという意味と、神学者の佐藤研さんに由来する」名前の研(みがく)コーチ。三男が「自分のやりたいことに一生を捧げる」意味を込められた名前の献(ささぐ)。濃厚な背景の名前を持つ兄弟は、弟が兄の背中を追うだけでなく、同時に兄弟がコーチと選手として、それぞれの夢を追い、ともに戦う。

 初戦を8得点の快勝で飾っても、山本献は「自分の中での点数は、そんなに高くないです。簡単なミスが多くて、これだと全国で優勝は厳しいというのが正直な感想。これを踏まえて、2回戦からの試合をどう取り組むかというところ」と浮かれることなく、気を引き締めていた。歩み始めたばかりの指導者として己を磨く兄の研(みがく)と、今大会に高校サッカーでの努力のすべてを捧げる弟の献(ささぐ)。自立心の強い兄弟は、取材の際には、互いを「彼」と呼ぶなど、程よい距離感を保っている。2人で1つの同じ目標に向かえる貴重な期間は、互いがそれぞれの立場で全力を尽くすことで、目標の1月13日(決勝)まで延びて行く可能性を持つ。2020年1月2日に行われる2回戦で、國學院久我山は、専修大北上(岩手)と対戦する。