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全国Vの福岡第一、指揮官が「日本のポイントガードは小さくても良い」と話す理由

平野貴也スポーツライター
日本一に輝き、最優秀コーチ賞を受賞した福岡第一の井手口孝監督【著者撮影】

「日本は、小さなポイントガードで良いと思うんです」

 11月に聞いた言葉が、脳裏に蘇った。声の主は、日本一のヘッドコーチになった。高校バスケの最強チームを決める「ウインターカップ2018第71回全国高校バスケットボール大会」は29日に最終日を迎え、男子の決勝戦は、福岡第一高校(福岡)が85-42で中部大学第一高校(インターハイ準優勝、愛知)を下して2年ぶり3度目の優勝を飾った。

前回は双子、今回は河村が活躍

福岡第一をけん引した河村勇輝【著者撮影】
福岡第一をけん引した河村勇輝【著者撮影】

 前回優勝時は、重富周希、重富友希(ともに専修大)という小柄な双子のガードがチームをけん引し、話題となった。今大会もキーマンとなったのは、ポイントガードの河村勇輝(2年)だった。昨年のこの大会で鮮烈デビューを飾り、U-18日本代表入り。体格こそ小さいが、スピードとテクニックがある。得点とアシストでチームをけん引した。昨年、井手口孝監督は「ドリブルやシュートが上手い選手はいるけど、彼はパスが速いのに、丁寧。これは、なかなかできない」と資質を高く評価していた。今大会でも活躍したとおり、さらに上のステージでも活躍が期待できる選手だ。

 福岡第一は、強烈なディフェンスと、走力を生かした速攻がチームの強みだが、指揮官のこだわりはポイントガードにある。11月、福岡大大濠高校との激戦を制して全国大会出場を決めた直後、練習場へ足を運んで、井手口監督に話を聞いた。近年は、日本もガードの大型化が必要だと言われている。世代別の日本代表や、将来のプロ入りが見込まれる大型選手に、ガードポジションを経験させようという試みも多く見られるようになった。しかし、井手口監督は今も「小さなガード」に大きな希望を持っている(以下、コメントは井手口監督)。

「大学からポイントガードは、間に合わない」

井手口監督がポイントガードに求める資質は「コートの中で監督の代わりが出来る」こと【著者撮影】
井手口監督がポイントガードに求める資質は「コートの中で監督の代わりが出来る」こと【著者撮影】

「ポイントガードは、野球のキャッチャーのようなもの。ほかのポジションの選手とは、見ている視線が違う。キャッチャーと同じように後ろから全体を見渡しているのが、ガードというポジション。日本では、小さい選手が、その視界でずっとバスケットをやっていて、パス、ドリブル、ロングシュート、切り込む力だけでなく、喋ることや、味方・相手を動かすことが必要だと知るし、考えるようになる。そういう経験を小学生くらいから積み重ねている選手が、ポイントガードの資質を備える。ポイントガードというのは(高校から)作れない。大きいけど速くてドリブルができるという理由で大学生くらいからガードにコンバートされる選手がいるけど、僕は(日本代表クラスでポイントガードを務めるレベルには)間に合わないと思う。ポイントガードに必要なのは、ドリブルとかシュートではなくて、コートの中で監督の代わりが出来るということだから。日本の場合は、小さい選手の方が工夫をしなければいけなくて、監督という立場の考え方に近い感覚を持っているのかなと思う」

 身長そのものが問題なのではない。長身選手が少ない日本は、小さい選手と大きい選手で育成過程がかなり異なるという育成環境に対する指摘だ。

小型ガードの競争率が高い日本

「もちろん、大きくて困ることはありませんよ。でも、うちの河村や(もう一人のガードの)小川麻斗、2年前に優勝した周希、友希(の重富兄弟)のように、かなり力のあるポイントガードが日本には、たくさんいます。(日本人初のNBAプレーヤーとなった)田臥勇太君(栃木)、OBの並里成(琉球)、日本代表の富樫勇樹(千葉)。その辺が、僕が(理想と)思うガード。うちは、大体、2ガードにしていますけど、小さい人じゃないとできない動きもあると思います。今、渡辺雄太選手(メンフィス)が米国で活躍している。彼は身長2メートルを超えているけど、中学までは180センチに満たない小さな選手だった。小さい選手は、バスケットボールという競技をすると苦労する。他人の2、3倍の努力が必要で、だから勉強する。一方で、大きい子は貴重だから、それほど頑張らなくても試合に出られてしまう」

 小さい人でなければ、というのは、小さい人として歩んできた選手でなければ、という意味合いだ。

身長差による競争力の違いが、日本代表の課題に直結

河村(中央)は大会優秀選手にも選出された【著者撮影】
河村(中央)は大会優秀選手にも選出された【著者撮影】

 低身長の選手が高い競争率で磨かれ、小さくて良いガードは多く育つ(大きいガードは育ちにくい)。一方、長身選手は、チーム内競争にさらされない可能性が比較的高く、良いセンターを育てるのが難しい環境にあるというのだ。日本は長身選手が貴重で、高さが必要になるセンターやパワーフォワードを任されることが圧倒的に多い。この環境が、日本代表が長らく抱えて来た課題と合致する。

「日本代表でも、1人くらいは小さくても良いと思う。各年代別の代表がチームをスタートしたときに、いつも『今年は大型ガードでいけそうだ』という話になるけど、最後までガードとして生き残った試しがない。最後は、小さいガードが先発になる。今の日本代表も(身長167センチの)富樫勇樹でしょう。『ガードが小さい、大型センターがいない』というのが、日本代表が負ける理由として、昔から言われ続けている。でも、最近は、日本国籍を取得したアイラ ブラウン選手(琉球)とか、帰化したニック ファジーカス選手(川崎)が代表に入って、問題解消に向かっている。5番(センター)は、日本の(育成環境で育った)選手には難しい。195センチ以上の選手は数が少なくて、それぞれが特定の学校に行くから」

 小さな選手の資質を見逃してもいけないし、大型化の実現を考えないのもいけない。早くから選抜チーム等で長く活動するなら、大型ガードの育成も可能かもしれない。環境としては、両方の育成方針が共存するのが理想的だが、井手口監督は、日本の現在の育成環境から考え、大型選手のガードコンバートを考えるより、小さい選手が持っているポイントガードとしての資質を認めて使う方が良いのではないかと考えている。将来の日本代表入りを期待する河村に対して「まだミスが多過ぎる」と厳しい言葉も出るが、小さいからという理由で排除されずに高いステージへ上がっていくことを期待しているのは、間違いない。河村は、井手口監督の「ポイントガードは小さくても大丈夫」という考えを体現する可能性を持っている。来季以降のさらなる成長が楽しみだ。

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

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