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創設100年を迎える国際天文学連合 -社会化する学術団体の一例として

縣秀彦自然科学研究機構 国立天文台 准教授
2018年3月福岡市科学館で開催されたIAU国際会議 参加者446名(53か国)

IAUと日本の関わり

 国際天文学連合(International Astronomical Union:IAU)は、世界の天文学者で構成されている国際組織です。1919(大正8)年に設立され、2019年に設立100周年を迎えます。2018年現在82か国が加盟し、登録されている個人会員は約13,600名の国際学会です。このうち日本は設立提案国であり、最初に正式加盟した7か国(日本、ベルギー、ギリシャ、フランス、イギリス、米国、カナダ)の一つで、日本学術会議IAU分科会が国内組織として公益社団法人日本天文学会等と協力して、IAU活動を推進しています。現在、日本は、IAUに登録されている個人会員数で米国、フランスに次ぎ第3位となっています。また、これまで日本人で会長に就任した天文学者が2名います。古在由秀氏(1988~1991)第22代会長(日本人初)と海部宣男氏(2012~2015)第30代会長です。

 日本はまた、2012年にIAUの常設活動オフィスOAO(Office for astronomy Outreach:国際普及室)国立天文台に招へいし、IAUと協力することによって世界的な天文の普及活動やアマチュア天文家の組織に貢献しようと活動しています。これには、日本におけるアマチュア天文家の活躍やプラネタリウム館公開天文台における活発な天文普及という背景がありました。またOAOは、2019年のIAU創設100年記念事業の主体組織の一つでもあります。

IAUに関する最近の話題 惑星定義とハッブル・ルメートルの法則

 IAUが一般の方々に知られるようになったきっかけは、2006年プラハ総会における惑星定義の決議でしょう。海王星の外側で、多数の太陽系外縁天体(Trans Neptunian objects)が発見された結果、冥王星はその一つであって、惑星(Planet)ではなく準惑星(Dwarf Planet)とされました。惑星の数が9つから8つに減ったため、世界各国で教科書の書き換えなど大きな影響が生じた出来事でした。

 IAUでは3年置きに総会を開催しています。これまでに30回を数え(今年はオーストリアのウィーンで8月に開催)、我が国では1997年に京都で開催(第23回)されたことがあります。

 今回のウィーン総会では、これまで「ハッブルの法則」と呼ばれてきた宇宙膨張における膨張速度一定の法則を、宇宙膨張の預言者であるジョルジュ・アンリ・ルメートル(ベルギーの天文学者)を讃えて「ハッブル・ルメートルの法則」と呼ぶことが提案されました。総会でさまざまな議論があり、その後、IAUの個人会員による電子投票が行われ、その結果、正式にIAUとしては「ハッブル・ルメートルの法則」と呼ぶことを推奨することになりました。これも、教科書などへの配慮が必要になる事項であり、国内においては、今月、日本学術会議が提言「ハッブルの法則の改名を推奨するIAU決議への対応」を発表しました。

「ハッブル-ルメートルの法則」の概念図
「ハッブル-ルメートルの法則」の概念図

IAUと天文学の100年

 第一次大戦後の混乱期に、学術の世界においてもグローバル化、すなわち国際協調を目指し設立されたIAUですが、この100年間の間に、人類は宇宙膨張の発見(1929年、ハッブル)、電波天文学をスタート(1931年、ジャンスキー)、ビッグバン宇宙論の提唱(1946年、ガモフ)、初めての人工衛星(1957年、スプートニク1号)、月着陸(1969年、アポロ11号)、太陽系外惑星の発見(1995年、マイヨールほか)、宇宙の加速膨張の発見(1999年、パールマター他)、重力波の初検出(2016年、LIGO)、中性子星の合体現象(キロノバ)の初検出とマルチメッセンジャー天文学の始まり(2017年)と天文学は加速的に進歩してきました。IAUの歩みは他分野との協調も含め確かなものでした。

発展のため、社会のため、そして平和を志向する学術団体へ

 天文学は一般に算術・幾何や音楽と並んで、最も古い学問と位置づけられています。また、星空は誰の上にも平等に存在しています。天文学とは多くの市民にとって身近な科学「みんなの科学」と言われています。IAUが国連・ユネスコと共にガリレオ・ガリレイの天体望遠鏡観測400年を記念して祝った2009年の「世界天文年2009」は、そうした天文学の普遍性をIAU会員(天文学者)が再認識した年でした。というのは、IAUの参加国を超えて世界中で、学者のみならず、アマチュア天文家、学校や社会教育に関わる人や組織、そして若者をはじめ多くの一般市民が、この世界天文年イベントに主体的に参加したからです。他の記念年ではその業界のみが盛り上がるのが通例のなか、極めて異例な展開を見せたのです。その事実を踏まえて、IAUはその後10年間の「戦略的計画」を打ち出します。この計画には、発展途上国で天文学を普及して、天文学をその国の発展のために活かしてもらおうという内容が盛り込まれていました。この「発展のための天文学」を遂行するためのIAUの常設活動オフィスOAD(Office of Astronomy for Developement)は、2010年に南アフリカに設置されました。

 そして今年、ウィーンでのIAU総会では、2020年以降の「新戦略的計画」を採択しました。その内容は、創設100年に際し、OADやOAOの活動の実績を踏まえ、発展のための天文学、社会における社会のための天文学、そして、平和のための天文学を強く志向する内容でした。

 例えば、国際連合(UN)が2015年に定めた持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)、すなわち2030年までに達成すべき、地球規模での人類の持続可能な開発のために17のゴールを色濃く反映した内容となっています。このSDGs行動指針は、17ゴールの下にさらに169の具体的な達成基準が設けられていますが、その一つには、「宇宙の中の地球というユニバーサルな視点を特に必要とする」という基準が含まれており、IAUの新戦略的計画にも反映されています。

IAU100記念事業に参加しよう

 来年は国際天文学連合(IAU)の創設100周年、アポロ11号の月面着陸50周年、そして国立天文台のすばる望遠鏡20周年です。さまざまな関連イベントの実施が国内外で予定されています。

IAU100事業のロゴマーク
IAU100事業のロゴマーク

 例えば、学生(すべての学部の学部生、天文・宇宙関連の研究に携わる大学院生)の皆さんにお誘いがあります。2019年1月15日締め切りですが、英文で150語程度の簡単な作文をしてみませんか? これは、IAU100事業の一つで、"Under One Sky" Short Story コンテストというイベントです。詳しくは、コンテストのウェブページの案内をお読みください。

 「ひとつ空の下(Under One Sky)」や「輝け!地上の星たち☆(Inspiring Stars)」のテーマに沿った短い作文を投稿しましょう。

 個人的な物語、短いSF、寓話、逸話、エッセイ、短い会話など、あらゆる種類の物語(150語以内)が対象です。最優秀作品者は、2019年4月11日-13日にブリュッセル・アカデミー宮殿(ベルギー)で開催される IAU100記念式典に参加できます。ぜひ、チャレンジを!

IAU100のさまざまイベントに参加してみよう
IAU100のさまざまイベントに参加してみよう
自然科学研究機構 国立天文台 准教授

1961年長野県大町市八坂生まれ(現在、信濃大町観光大使)。NHK高校講座、ラジオ深夜便にレギュラー出演中。宙ツーリズム推進協議会代表。国立天文台で国際天文学連合・国際普及室業務をを担当。専門は天文教育(教育学博士)。「科学を文化に」、「世界を元気に」を合言葉に世界中を飛び回っている。

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