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11月8日の皆既月食・天王星食に備えよう

縣秀彦自然科学研究機構 国立天文台 准教授
皆既月食が11月8日に起こり、天候に恵まれれば全国各地から楽しむことができる。(写真:アフロ)

11月8日(火)の夕方、晴れていれば全国各地から「皆既月食」を楽しむことができます。今年最大の天文ショーとして期待している人も多いことでしょう。今回の月食は誰でもが楽しみやすい夕方の時間帯(部分食の始まりが18時09分)に起こることや、皆既の継続時間が約1時間半と長いことなど好条件に恵まれています。それだけではありません。月食中に天王星が月に隠される「天王星食」が、今回たまたま起こります。望遠鏡か双眼鏡を用意すれば、普段見つけることが難しい天王星を見る絶好のチャンスとなることでしょう。

月食のタイムスケジュール

満月が地球の影のなかを通過する場合、影に入るとともに次第に月が欠けていき、すっぽり影の中に入ると、ほのかに赤い月となります。これは地球の大気中で赤い光のみが屈折して折れ曲がり月の表面にまで達するからです。

月食の場合、進行は全国どこででも同じ時刻に起こります。東の低空で欠け始めるのが、日本時間で18時09分。部分食の始まりです。その後、次第に欠けていき、皆既食は19時16分から20時42分まで1時間26分。その後、再び月は満ちていき21時49分に満月に戻ります。部分食、皆既食、再び部分食を経て月がもとの形に戻るまで、3時間40分の天体ショーとなります。

月食の見え方 満月が昇る東の空で月が欠け始める。イラストは東京からの見え方だが、現象の起こる時刻は全国どこからでも同じ時刻。皆既中はほのかに赤銅色に満月が輝く。(提供:国立天文台)
月食の見え方 満月が昇る東の空で月が欠け始める。イラストは東京からの見え方だが、現象の起こる時刻は全国どこからでも同じ時刻。皆既中はほのかに赤銅色に満月が輝く。(提供:国立天文台)

月食は満月の時にしか起こりませんが、日食と違い、その時間、月が見えている場所からならどこからでも月食を見ることができます。沖縄県の南西諸島では、部分食が始まる頃、月の高度はかなり低いのですが、そのほかの国内多くの地域では、東の方角の空、月がある程度は昇ってからの現象となり、比較的観察しやすいことでしょう。欠け始めの頃は高度が低いので、建物や山・木々などの障害物を避けて観察しましょう。なお、月食が見られるのは部分月食も含めると同一地点からは平均で1年に1~2回程度ですが、全国規模でみられる次回の月食は、来年10月29日の明け方にほんのわずかな部分食(食分0.12)のみで、皆既月食が次回日本から見られるのは2025年3月14日です。

地球の影に対する月の動き 今回の月食では、本影の中心に近いところを月が通過するため、皆既食の継続時間が1時間26分、部分食の開始から終了までが3時間40分と長い。(提供:国立天文台)
地球の影に対する月の動き 今回の月食では、本影の中心に近いところを月が通過するため、皆既食の継続時間が1時間26分、部分食の開始から終了までが3時間40分と長い。(提供:国立天文台)

地球の大気中で太陽光のうち赤い光のみが大気を通過し、さらに屈折するため、本影中の月面に赤い光のみが届く。このため、赤銅色に皆既食中の月が輝く。地球大気の状態によって明るさは異なる。(提供:国立天文台)
地球の大気中で太陽光のうち赤い光のみが大気を通過し、さらに屈折するため、本影中の月面に赤い光のみが届く。このため、赤銅色に皆既食中の月が輝く。地球大気の状態によって明るさは異なる。(提供:国立天文台)

天王星食を見よう

今回の皆既月食は、通常の月食のように肉眼で楽しむのも良いのですが、可能であれば、天体望遠鏡または双眼鏡を用意しましょう。月食の最中に、小笠原諸島を除く日本のほとんどの場所から、月が天王星を隠す「天王星食」を見ることができます。

惑星の一つ、天王星は約6等級の明るさです。6等星と言えば、目の良い人でしたら空の暗いところなら肉眼でも見える明るさですが、実際には同じぐらいの明るさの星が夜空には多すぎて、見つけ出すのは容易ではありません。月の近くに天王星がいたとしても満月前後の月は眩しいので、すぐ近くにある6等星を見つけることは困難です。しかし、今回の天王星食は月が暗くなった月食中に起こるため、小型の天体望遠鏡や三脚に固定した双眼鏡を使って探してみると、天王星を見つけることが可能です。

多くの地域では天王星の潜入時に月が皆既食中で暗いため、特に見つけやすいことでしょう。天王星食は場所によって潜入や出現の時刻が異なります(地心視差のため)。東京での予報は、潜入が20時40分53秒、出現が21時22分20秒です。

各地での天王星食の予報 実際に潜入や出現が開始してから終了するまでに、天王星食の場合は10秒から20秒程度かかる。また、月縁の山や谷などの地形によって数秒のずれが生じる。 (提供:国立天文台)
各地での天王星食の予報 実際に潜入や出現が開始してから終了するまでに、天王星食の場合は10秒から20秒程度かかる。また、月縁の山や谷などの地形によって数秒のずれが生じる。 (提供:国立天文台)

国立天文台暦計算室のウェブサイトにある「惑星食各地予報」では、観察地点を選んで食の進行の詳しい予報を調べることができますので、ご活用ください。

月食・天王星食を天体望遠鏡で

天体望遠鏡で月や天王星を見るのは、初心者や子どもにとってはかなり難しいイメージかもしれません。しかし、小型で取り扱いが簡単な月食を楽しむのに適した天体望遠鏡が国内では多数流通しています。例えば、国立天文台望遠鏡キットを用いると、カメラアダプターが付属していますので、タブレットやカメラが1つのみのタイプのスマートフォンで月食を写真に記録することもできます。

国立天文台望遠鏡キットは、学校教育や個人のご家庭で、気軽に天体観察が出来るようにと国立天文台がプロデュースし、複数の販売業者を通じて頒布しています。詳しくは、国立天文台のウェブサイトをご覧ください。または、お近くに天体望遠鏡ショップがある場合は、複数の機種から目的や経験に合わせて適したものを選んでみてください。

皆既月食観察会に参加してみよう

全国各地の公開天文台プラネタリウム館などでは、一般の方々に月食・天王星食を楽しんでもらおうと月食観望会を開催するところが多数あります。「パオナビ」などの専用サイトや「天文ガイド」や「星ナビ」などの天文情報誌から情報を入手して、計画を立ててみてください。

また、当日お住いの地域の天候が優れない場合は、インターネット中継を楽しみましょう。全国各地から月食中継が予定されています。なお、月は明るい天体なので曇天下でも薄雲を通して、部分食中の欠けた姿が見える場合もあります。天気予報に注意して、場合によっては諦めずに夜空を眺めてみましょう。

参照サイト:

国立天文台「ほしぞら情報」皆既月食・天王星食

国立天文台「月食とは

インターネット天文学辞典 月食

自然科学研究機構 国立天文台 准教授

1961年長野県大町市八坂生まれ(現在、信濃大町観光大使)。NHK高校講座、ラジオ深夜便にレギュラー出演中。宙ツーリズム推進協議会代表。国立天文台で国際天文学連合・国際普及室業務をを担当。専門は天文教育(教育学博士)。「科学を文化に」、「世界を元気に」を合言葉に世界中を飛び回っている。

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