ニューホライズンズ、冥王星最接近まで24時間を切る

「ニューホライズンズ」が7月11日に160万キロ先から撮影した冥王星 NASA

今晩、晴れているところでは、いま、南の空に土星と、さそり座の赤い心臓アンタレスが明るく輝いている。また、その東側には空が暗いところでは天の川がよく見えていることだろう。その天の川のなか、大型望遠鏡を用いないと見えない微弱な光を放つ14等星の「冥王星」がそこにいる。

いよいよ、米国NASAの無人探査機ニューホライズンズが9年半の太陽系の旅を経て、冥王星に最接近するまでに24時間を切った。

冥王星とカロンに接近する「ニューホライズンズ」の想像図 クレジット:NASA
冥王星とカロンに接近する「ニューホライズンズ」の想像図 クレジット:NASA

かつて「水金地火木土天海めい」と覚えた方も多いことだろう。冥王星は1930年に米国アリゾナ州にあるローエル天文台の技師クライド・トンボーが発見した天体で、2006年までは第9惑星として惑星に分類されていた星だ。

現在、地球からは遥か彼方、48億キロメートルものかなたに冥王星はいる。直径は2,390km。月よりも小さく地球の2割程度の直径の小型の氷の天体だ。その表面温度はマイナス233℃と、太陽系の遥か遠方に位置する極寒の星。太陽のまわりを248年かけて公転している。地球が千周する間に僅か4周しかしないのだ。このため、冥王星は地球からは、とても暗く、動きもゆっくりなため、注意深く観測しないと見つけることが出来ない。トンボーはとても丁寧に同じ天空を一週間後に撮影した2枚の天体写真を見比べて、この微かな光を反射する小天体を発見した。

冥王星=プルートとは 冥土の神様(ハデス)のこと。イギリスの11歳の少女が発案した名前が採用されたのだ。ウォルト・ディズニーが、ミッキーマウスの愛犬役のキャラクターの犬を「プルート」と名付けたのは、この1930年に発見されたばかりの冥王星に因んでのことだった。18世紀に天王星を見つけたのがイギリス人、19世紀に海王星の発見に寄与したのが、フランス人とイギリス人とドイツ人だったので、20世紀に第9惑星として米国人が見つけた冥王星は、多くの米国人にとって誇りでもあった。

ニューホライズンズが撮影した冥王星。ハート形の地形が話題に。クレジット:NASA
ニューホライズンズが撮影した冥王星。ハート形の地形が話題に。クレジット:NASA

ところが、今から9年前のこと。2006年8月、チェコの首都プラハで開催された国際天文学連合(IAU)の総会において、それまで太陽系の第9惑星として親しまれていた冥王星を、惑星とは呼ばないことが総会に参加した天文学者たちの投票で決まった。

時をほぼ同じくして、2006年1月、冥王星が惑星では無くなる僅か7か月前に、米国の科学者たちは探査機「ニューホライズンズ」を冥王星に向けて打ち上げていた。そのニューホライズンズが、いよいよ冥王星に9年半の長旅を終えて、7月14日(火)に最接近する。これまで冥王星を訪ねた探査機はない。この探査機には冥王星発見者、クライド・トンボー(米国)の遺灰が積まれている。

ところでなぜ、冥王星はなぜ惑星ではなくなってしまったのだろう?冥王星そのものがなくなった訳でも変化した訳でもない。それまで曖昧であった惑星の定義が初めてIAUでなされたのだ。2006年8月、プラハで開催されたIAU総会で、「惑星の定義」が採択された。その定義によると、惑星とは

(1) 恒星(太陽)の周りを公転していること

(2) 自己重力の影響でほぼ丸い形状をしていること(一定の重さ以上であること)

(3) その軌道上に衛星を除いて他に天体がないこと

の3つの条件がすべて当てはまる天体と定まった。

冥王星の周りには、2003年に発見されたエリスやマケマケ、ハウメアなどを含む太陽系外縁天体がいくつも存在しており(3)の条件を満たさない。(1)と(2)は満たすが、(3)を満たさない場合は「準惑星」と呼ぶことになった。

この惑星定義によって太陽系の場合では、水星から海王星までが「惑星」で、それより外側にある太陽系外天体のうち、冥王星のような丸い天体たちは、別名「冥王星型天体」とも呼ばれるようになった。冥王星型天体と分類されているのは、冥王星とさらに外側に位置するエリス、ハウメア、マケマケの4つのみだが、今後増えていくことは間違いないだろう。

なお、IAUの決議に従い、小惑星帯を回っている小惑星ケレスも「準惑星」と呼ばれるようになった。しかし、岩石でできたケレスと氷が主成分の天体である冥王星型天体を一緒にすることには多くの科学者が疑念をもっており、小惑星はいままで通り、小惑星のままの方がわかりやすいことであろう。

また、アメリカ人のなかには、いまでも冥王星は惑星であると主張している人たちもいる。今回の冥王星へのニューホライズンズの接近も、特に米国では話題が盛り上がっているようだ。

ニューホライズンズには、2つのカメラを含む7つの測定機器が搭載されている。重さは500kg弱。今回のミッションの総経費は約7億ドル(約850億円)という。

すでにニューホライズンズから撮影された冥王星の画像を見ると、その表面が予想もしなかった形態であり、研究者はもちろん、一般の人々の関心を集めている。

ニューホライズンズが約160万km離れて撮影した冥王星(7月11日) クレジット:NASA
ニューホライズンズが約160万km離れて撮影した冥王星(7月11日) クレジット:NASA

クレーターと思われる丸い穴(これは、500km弱もの直径、日本列島の半分ぐらいのサイズ)が、4つほど直列に並んでいるところや、白くハート型に見える場所、まるでクジラの形のような黒い地形など、興味をそそる姿が次第に見えてきた。

ニューホライズンズは、14日の日本時間で20時49分に冥王星に最接近。冥王星から約1万2500キロメートルのところを、秒速14キロという高速で通過していく。その際、高精度カメラで表面のクローズアップが撮影されるが、ニューホライズンズからの電波信号が地球に届くのには、およそ4時間半必要。また、送れる情報量が少ないため、今回の接近での観測データを衛星搭載のメモリーからすべてを地球に転送するのには来年4月までかかるとも言われている。

冥王星には5つの衛星が見つかっているが、そのなかで最も興味深いのは、1978年に発見され、冥王星の直径の半分ものサイズ(直径1200km)がある「カロン」である。冥王星とカロンは惑星、衛星の関係というより、2重惑星というほうが適切かもしれない。なぜ、この2つの天体がとても近いところにいて、安定していられるのか、また、相互にどんな影響を与えているのかなど興味は尽きない。冥王星最接近の後、カロンの近接撮影も予定されている。

ニューホライズンズが撮影したカロン クレジット:NASA
ニューホライズンズが撮影したカロン クレジット:NASA

ニューホライズンズとは「新しい地平線」という意味の複数形。探査機名には、冥王星を詳しく調査した後、可能であれば他の太陽系外縁天体も観測したいという想いが込められている。今のところ、冥王星探査後の予定はまだ決まってはいないが、ニューホライズンズは、パイオニア11号、12号やボイジャー1号、2号と同様に、太陽系を脱出する軌道を描き、遠い宇宙に旅立っていく。

NASA ニューホライズンズのウェブサイト