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騒音問題に悩むマンション管理組合の皆さん、アパートの大家さん、〝居住者用パンフレット〟を活用下さい

橋本典久騒音問題総合研究所代表、八戸工業大学名誉教授
(イラストAC)

 過去の記事「マンション管理組合の皆さん、騒音トラブルにはこのように対処して下さい! 悲惨な状況を生まないために」において、弊所(騒音問題総合研究所)が作成した「マンション騒音問題に対する管理組合対応マニュアル(Amazon刊)」という冊子について紹介しました。マンション内で騒音問題が起こった時に、管理組合としてどのように対処すべきかということをまとめた手引書です。マンションでの騒音問題に合理的に対処するため、管理組合としての対応の具体的な内容と、そのために必要な騒音に関する知識、および、それを可能にするための管理規約の改正内容等について示したものです。

 その手引書の最後に付録として「居住者向けパンフレットの活用」という項目があります。ここでは、騒音問題を防ぐためのマンション生活での心得を、A4サイズ1枚のパンフレットとしてまとめています。上記の冊子の方は有料ですが、このパンフレットは無料で提供しており、弊所(騒音問題総合研究所)のホームページ(トップページ中段)から自由にダウンロードできます。会員登録などの手続きも不要です。

「居住者用パンフレット(技術編)」の追加

 今回、このパンフレットに新たに「居住者用パンフレット(技術編)」を追加し、A4サイズ2枚組のパンフレットとしました。1枚目は、上記したマンション生活での心得を具体的に示したもの、2枚目は、マンションで最も問題となる子どもの足音や飛び跳ね音に関する技術的な内容を分かりやすくまとめたものです。マンション管理組合の皆さんやアパートの大家さんは、居住者の皆さんに騒音問題を正しく理解してもらうため、これらのパンフレットを大いに活用して頂きたいと思います。

 以下に示す図が、その2枚組のパンフレットで、その内容は以下の通りです。

1枚目:居住者用パンフレット

 ・マンション騒音問題の解決のための心得

 ・他の居住者の迷惑となる禁止項目

 ・トラブルが起きやすい遮音性能が不十分な建物説明と対処

 ・生活騒音への過剰な苦情は迷惑行為であることと禁止内容

2枚目:居住者用パンフレット(技術編)

 ・他の騒音と異なり、上階からの足音騒音は物理的対策ができないことの説明

 ・上階音の種別と、防音マットなどは足音騒音に効果がないことの説明

 ・防音フローリングの性能と性能表示方法

 ・2重床の性能と性能表示方法

(居住者用パンフレット、著者作成)
(居住者用パンフレット、著者作成)

(居住者用パンフレット(技術編)、著者作成)
(居住者用パンフレット(技術編)、著者作成)

地方自治体の生活騒音パンフレットや資料では不十分

 地方自治体なども生活騒音に関する資料やパンフレットなどを作成していますので、これらを利用することも考えられます。しかし、生活音の中で最も問題となる上階音に関する記述は不十分で、内容に関しても問題のあるものが見られます。幾つか紹介しましょう。

・東京都の資料:「考えよう『生活騒音』 ルールを守って静かな環境」

 この中では、一般的な音に関する記述はかなり詳細ですが、「⑩飛び跳ねや足音」に関しては以下のように書かれているだけです。

『・足音は意外と階下にまで響くので注意する。 ・小さい子供のいる家庭では、床にマット類を敷くなど階下の人の迷惑にならないようにする。 ・室内では静かに歩くようにする。』

 内容的にも不十分であるだけではなく、これまで度々言ってきたことですが(例えば過去記事「何度でも言います!  防音マットはマンションの足音騒音には効果がありません」)、このようなマット類の情報は問題を拗らせ、トラブルを誘発させることにもなりかねないものです。

・川崎市のパンフレット:「生活騒音を考えよう」

 この中の足音の項目では、「足音は意外と階下にまで響いています。特に小さいお子様のいる家庭では、床にマット類を敷くなど階下の人の迷惑にならないようにしましょう。廊下や階段を歩く音も時間帯によっては迷惑な音です。共用部分でのルールを再確認しましょう。」と書かれており、ここでも、マットで足音が防げるという誤解を与えるような表現になっています。

 また、川崎市の場合には、「生活騒音対策に関する指針」の中で、「集合住宅の床衝撃による騒音」の防止指針値を定めています。具体的には、重量床衝撃音に対する床の性能がLH-50の場合には、昼間45dB、朝夕40dB、夜間35dBとなっていますが、このような防止指針値が有用に働くかは甚だ疑問です。騒音計も貸し出すということですから、寧ろ、トラブルを引き起こす要因になるのではないかと危惧されます。

・名古屋市のパンフレット「生活騒音の防止について」では、「・室内では静かに歩きましょう。 ・防音カーペットや防音材の床を使いましょう」と書かれているだけです。これらは特に問題とまでは言えませんが、微妙な内容です。ただ、資料の最後のページで、日頃からの良い隣人関係づくりの重要性を強く謳っている点は評価できます。

 これらを見れば、自治体の騒音担当者の方々は、この上階音問題に関してのトラブル防止への取り組み意欲だけでなく、基本的な知識も不足しているのではないかと懸念されます。

トラブルになる前の備え

 自治体のパンフレット類がそのまま利用できないなら作るより仕方ありません。この居住者用パンフレットは、トラブルになる前の備えとして、マンション居住者に騒音問題について広く情報提供する資料として用いることを想定しています。例えば、1枚目のパンフレットの中段にある「建物性能不足」は、入居時などに、トラブルの起きやすい建物である事を十分に理解して貰うための内容です。騒音トラブルでは毎年千数百件の殺傷事件が起きている事実を伝えることも、トラブル防止の観点から大変に有効と考えています。例えば、過去記事「鉄骨造マンションで起きた悲惨な女子大生殺害事件、鉄筋コンクリート造とは違う上階音性能に要注意」でも、事前に性能不足の建物であることが十分に居住者に説明されていれば、結末は違ったものになっていたかもしれません。

 また、足音などに関するトラブルや事件では、「誤解」が一つのキーワードになっていることも重要な点であり、2枚目の「居住者用パンフレット(技術編)」は、この誤解を解くための資料として用意したものです。床に柔らかい物を敷けば下の階に響く足音が小さくなるという物理的な誤解が、相手の配慮がないから音がうるさいく響いてくると考える心理的な誤解を生んでいます。トラブルになる前の備えとして、この誤解を解くために居住者用パンフレットを活用頂ければと考えています。

 マンション騒音に関するトラブルや事件をなくすためには、技術面や心理面での正確な情報を一般の人にしっかりと周知することが大事ですが、この啓蒙が社会的に不十分であることがトラブルや事件が減らない理由の一つとなっています。マンションの管理組合の皆さんやアパートの大家さんに、このパンフレットを大いに活用して頂けることを期待しています。また、ここに書かれている内容を基本とし、その上で自分たちの建物状況や管理規約などを勘案して、必要な部分の修正や追加も行うことも可能です。作成に関してのご相談等があれば、遠慮なく弊所(騒音問題総合研究所)までご連絡下さい。無料でのご協力を提供いたします。是非、自分達のためのパンフレットを作成して騒音トラブルの防止に努めて下さい。

騒音問題総合研究所代表、八戸工業大学名誉教授

福井県生まれ。東京工業大学・建築学科を末席で卒業。東京大学より博士(工学)。建設会社技術研究所勤務の後、八戸工業大学大学院教授を経て、八戸工業大学名誉教授。現在は、騒音問題総合研究所代表。1級建築士、環境計量士の資格を有す。元民事調停委員。専門は音環境工学、特に騒音トラブル、建築音響、騒音振動、環境心理。著書に、「2階で子どもを走らせるな!」(光文社新書)、「苦情社会の騒音トラブル学」(新曜社)、「騒音トラブル防止のための近隣騒音訴訟および騒音事件の事例分析」(Amazon)他多数。日本建築学会・学会賞、著作賞、日本音響学会・技術開発賞、等受賞。近隣トラブル解決センターの設立を目指して活動中。

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