マンション管理組合の皆さん、騒音トラブルにはこのように対処して下さい! 悲惨な状況を生まないために
騒音トラブルは大変に悲惨です。特に、マンション、アパートでの居住者間の騒音をめぐる争いは、日常的であるがゆえにエスカレートしやすく、最悪は殺傷事件にも繋がります。裁判での争いも多いですが、それは騒音のうるささとは比べものにならないくらいのストレスを長期間にわたってもたらします。騒音問題で争っても何一つ得なことはありません。騒音問題は解決の道を探さないといけないのです。しかし、今はその道標(みちしるべ)が何処にも見当たらないのが現実です。
騒音トラブルに巻き込まれた人の行動には一つの特徴があります。それは行動パターンが決まっていることで、筆者はこれを4点セットと呼んでいます。マンション騒音トラブルの場合の4点セットとは、①管理人または管理組合、②市役所、③警察、④弁護士です。具体的に内容を説明しましょう。
マンション騒音トラブルの4点セット
マンションなどで騒音トラブルが発生すると、苦情の当事者は、まず管理人か管理組合に連絡し、相手に注意をしてくれるように頼みます。管理人や管理組合は、これを受けて注意の貼り紙などはしてくれますが、積極的に解決に動こうとはしてくれません。マンション管理規約の中にも、それを義務付ける項目はないからです。
当事者は、次に、市役所の市民生活課や市民相談センターなどに電話して相談しますが、騒音の場合には環境課に回され、そこでは手持ちの騒音計を貸し出してくれるぐらいが関の山であり、決して仲介等の労をとってくれることはありません。個人間の問題には介入しないというのが行政の立場だからです。当事者は借りてきた騒音計で必死に測定を行うのですが、その行為自体が騒音への意識をより高め、相手への怒りを搔き立てていることには気がつきません。
この時点で、当事者はかなり苛立ちを募らせており、その矛先は音ではなく音源者本人に向かいます。そこで登場するのが警察です。物音がすると警察に電話して、迷惑行為が行われているので注意をして欲しいと通報するのです。通報があれば警察は無視できないため、音源者の自宅に臨場して話を聞くことになりますが、警察にまで通報したということで、この苦情者に対する音源者の怒りも決定的となり、関係の悪化は一気に進みます。警察への通報が度重なれば、音源者側にも被害者意識が発生し、双方が被害者意識を持つという矛盾の中で、状況は悪化の一途を辿ります。
警察に通報しても埒が明かないと知ると、当事者は遂に、弁護士事務所に出かけて、相手を訴えたいと相談します。弁護士は、裁判に備えて音の発生時間や種類、音の大きさなどの詳細な記録をとるように言い、当事者は毎日毎日、相手への敵意を募らせながら必死で記録をとり続けることになります。これまでの裁判では、1年以上にわたり記録をとった事例が見られますが、裁判は基本的に受忍限度論で判断されるため、その記録は参考程度にしかなりません。
以上が4点セットの中身ですが、いかに不毛で無駄な行動や作業を続けているか理解できると思います。でも、これはまだましな方であり、この4点セットの途中で、当事者同士の激しい口論などにより騒音トラブルが殺傷事件に繋がる事例もあるのです。我が国での騒音殺傷事件の件数は、年間で千数百件(推定値)にも上るのですから、いつ自分が巻き込まれても不思議ではありません。
騒音トラブルでは初期対応が重要
なぜ、このようになってしまうのでしょうか。それは、トラブルが発生した時の初期対応が不十分であり、争いの拡大を招いてしまっているためです。すなわち、4点セットの最初の項目、管理人や管理組合のトラブル解決能力が不十分であるため、それが問題のエスカレートに繋がっているのです。
現在の騒音トラブルは、消火設備のない火災です。火災は発生した時に速やかに消火することが大事ですが、消火設備がないために火の手はどんどん広がり、最悪は巻き込まれて命を落とす人まで出てきます。マンションでの騒音問題について、その初期消火を担うのは管理組合以外にはないのです。しかし、「それではどう対処すればいいのか」と聞かれれば、誰もがその答えに窮するのが現状でした。
そこで、筆者の研究所で、マンション内で騒音問題が起こった時に、管理組合としてどのように対処すべきかという手引書をまとめました。下記に示す「マンション騒音問題に対する管理組合対応マニュアル」という小冊子で、これをAmazonから発売することにしました。本書は、マンションでの騒音問題に合理的に対処するため、管理組合としての対応の具体的な内容と、そのために必要な騒音に関する知識、および、それを可能にするための管理規約の改正内容等について示したものです。その具体的な内容は次の通りです。
第1章 マンション騒音トラブルの実態
マンションでの苦情・トラブルの発生状況に関する統計データーを示すとともに、実際に発生したトラブルの実例として、裁判事例2例、殺人未遂事例1例について、発生から結末までの経緯の詳細を示しています。マンションでの騒音トラブルとはどのようなものかが具体的に理解できます。その上で、マンションでの騒音トラブルが多い理由について解説しています。
第2章 知っておくべき騒音関連知識
マンションでトラブルとなる騒音問題で一番多いのが上階からの騒音、すなわち床衝撃音です。床衝撃音に関しては誤解が多く、子どもの足音の対策には防音マットを敷くなどの間違った対策が行われ、それがトラブルの助長にも繋がっています。騒音に関する正確な知識を持つことは、トラブル解決の基本となるものであり、ここでは関連する必要な知識を詳細に解説しています。
第3章 苦情発生時の対応手順と内容、および留意点
本書の中心となる内容であり、マンション内で騒音に関する苦情が発生した時に、管理組合としてどう対応すべきか、その対応手順をフローチャートとして示し、併せて、各手順に関する理由や関連内容について示しています。このフローチャートの内容を事前に熟知して対応すれば、無益なトラブルのエスカレーションを防止し、有効な初期対応ができるものと考えています。
第4章 騒音問題から見たマンション管理規約の在り方
前章で示したフローチャートの対応手順を可能とするためには、マンション管理規約を修正し、対応に必要な事項を追加しておく必要があります。その内容を具体的に解説するとともに、区分所有法や国土交通省・マンション標準管理規約(単棟型)についても関連する部分を紹介し、騒音問題に対処できる管理規約の在り方について解説しています。
付録・居住者用パンフレットの活用
マンション騒音問題に対して本書で解説した内容をコンパクトにまとめた居住者向けパンフレットであり、対応手続きにおいて当事者への説明資料として利用できるとともに、トラブルになる前からの平時の備えとして、居住者に配布できることを目的にまとめられた資料です。なお、この居住者用パンフレットは、筆者の騒音問題総合研究所ホームページから無料でダウンロードできるため、トラブルの有無に拘わらず一度ご覧頂き、活用して頂きたいと思います。
騒音問題を騒音トラブルにしないために!
我が国での騒音意識は平成になって劇的に変化しました。地域社会での協調性を重視する昭和の共同社会から、周囲への敵対心が中心となった平成の苦情社会へと変化したのです。また、集合住宅居住世帯数は年々増加し、特に高層集合住宅居住者の増加比率が高く、そのため近隣関係や地域コミュニティが成立しづらい社会に突入しています。
国土交通省の「マンション総合調査」でマンション内でのトラブルの発生状況を調べた結果でも、圧倒的に「居住者間の行為、マナーを巡るもの」が1位であり、その中で一番指摘が多かったのが「生活音に関するトラブル」で全体の4割近くに上りました。昔は、生活音はお互い様で済んだものが、今はそうはいかないのです。
このような時代変化に応じて、マンション管理の在り方も当然変化するべきですが、その具体的な変化後の姿が見えないため、今はズルズルと現状維持が続いている状態です。例えば、マンション管理の基本となる区分所有法も、国交省のマンション標準管理規約も、何度かの改正はあるものの、基本的には昭和の時代に成立したものが現在でも引き継がれています。その時代には、現在のような状況は想定されていませんでした。そのため、マンショントラブルでもっとも多い騒音問題に対処できない状況が続いているのです。この辺で、大きな意識の転換を図らなければ、厳しい苦情社会には対応ができません。
今回、現在の集合住宅での騒音問題、騒音トラブルに対処できる、新しいマンション管理組合の在り方を提案しました。少なからず齟齬もあると思われるので、これをベースに管理組合内で大いに議論をして頂き、その上で果断な対応がなされることを期待しています。