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スペイン・カタルーニャの600万人が厳しい水制限。気候変動だけではない乾燥化の理由

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
バセラのひび割れた貯水池(写真:ロイター/アフロ)

洗車、庭の水まきは禁止

2024年2月1日、水不足によりスペインのバルセロナ、カタルーニャ地方の201の自治体に非常事態が宣言され、600万人が「厳しい水制限」を受けることになった。600万人のための貯水池が貯水率は18%まで低下した。洗車、庭の水まき、舗道や道路の水を使った洗浄は禁止。違反すると最大50ユーロの罰金が科せられる。リゾートを訪れる観光客はプールには入れず、「シャワーは4分間」とされるケースもある。

貯水率が16%を下回れば、水使用量は1人1日200リットルに制限される。さらに干ばつが悪化した場合、第2段階では1日180リットル、第3段階では1日160リットルに制限される可能性がある。

農業や工業も水使用量を制限される。現在は、灌漑用水を80%、家畜用の水を50%、工業用水を25%削減する目標を課されているが、こちらも貯水率が16%を下回るとさらに厳しい削減を求められる。


なぜ水が不足したのか

カタルーニャ地方が水不足になりやすい理由はいくつかある。

1つ目に地理的な要因。多くが地中海性気候に属し、夏暑く乾燥し降水量が少ない。

2つ目に人口増加と産業の発展。バルセロナなどの都市は人口密度が高い。ビーチリゾートも多く観光業が盛んだし、ブドウ、アーモンド、オリーブなどを生産する農業、伝統的な織物業、製紙業、化学業など工業も発展している。農業、工業ともに大量の水を使用する。そのため農業セクターと工業セクターはしばし対立することもあった。農業組合や農業関連の団体は灌漑用水の優先権を主張し、工業団体は自社の生産活動を維持するために十分な水供給を求めた。

3つ目に気候変動による降水パターンの変化。下の表は、気象庁「世界の天候データツール(ClimatView 月統計値)」で示された最近2年間のバルセロナの月平均気温と月平均降水量だ。平年値と比べて気温が高かった月は24月中21月(黄色で着色)、降水量の少なかった月は24月中19月(オレンジで着色)。わずか2年間のデータだが、気温の上昇、降雨量の減少の傾向がわかる。

バルセロナの気温と降水量/気象庁「世界の天候データツール(ClimatView 月統計値)」より筆者作成
バルセロナの気温と降水量/気象庁「世界の天候データツール(ClimatView 月統計値)」より筆者作成

全土の4分の3で農業や経済活動が難しく

 これはスペイン全体の傾向であり、現地では国土の乾燥が心配されている。

 スペインは猛暑に襲われることが多くなった。昨年7月18日にはカタルーニャ地方で最高気温45度を記録した。他の地域でも40度超が頻繁に観測されている。

 高温と少雨は大地の乾燥につながる。水不足で農作物が生育しにくい乾燥・半乾燥地域は、2000年にはスペイン全土の28%だったが、今世紀末には半分強になる見通し。開発による土壌の悪化も重なり、将来は全土の4分の3で農業や経済活動が難しくなると見られている。

 温室効果ガスの削減、水を大量に使用する農業の改善を求める声はあるが、それに異を唱える声もある。2023年に行われた総選挙では、水不足対策も争点の1つとなった。社会党、人民党はEUの方針に沿って、自然保護、水資源保護の政策を打ち出した。しかし農家は気候変動による水不足を解消するため、さらなる水資源開発を要求し、それに応える政策を打ち出したヴォックス党が得票を伸ばした。目先の水を求めれば、将来の水がなくなるという事態に追い込まれている。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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