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和歌山で水管橋が落ちる。水道管路の破損・断水は全国で起こる

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
水管橋(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

財政難から設備更新が進まない→古くなった設備を長く使わなくてはならない→それなら点検が必要

10月3日、和歌山市内を流れる紀の川にかかる「六十谷(むそた)水管橋」で上水道の管が破損した。水管橋とは、水道管が河川や水路などを横断するときに設置された送水用の橋梁のこと。

Yahoo!ニュース「水道橋が破損し、紀の川に落下 和歌山市北部6万世帯で断水へ」

市は同日夜、市内北部の約6万世帯で今後断水が生じると発表した。

こうした事態は全国で起こり得るかどうかを考えたい。

全国に張り巡らされた水道管路は老朽化という深刻な課題を抱える。

六十谷水管橋は1975年に完成し、耐用年数は48年(2023年)とされていた。だから老朽化が原因とは言い切れないかもしれない。

一方で、全国の水道管路総延長は約66万キロあり、このうち法定耐用年数(40年)を経過した管路は約17.6%(平成30年度)。

法廷耐用年数を超えたから、すぐに交換が必要というわけではないが、年間2万件を超える漏水・破損事故が発生しているのが現状。敷設から50年、60年経過した管を地道に補修しながら使用しているのが現状だ。

だが、それには点検が欠かせない。財政難から設備更新が進まない→古くなった設備を長く使わなくてはならない→それならば点検が必要、という構図が浮かび上がる。

日常点検を行った40%、定期点検を行った26%

水道法では、水道事業者は、水道施設を良好な状態に保つため、点検を含む維持及び修繕をしなければならない旨が定められており(第22条の2)、また、水道施設の維持および修繕に関する基準を厚生労働省令で定めている。

水道管には、導水管、送水管、配水管がある。ほとんどの管は、地中に埋設されているため、目視による点検が難しい。

一方で、水管橋(水管橋および橋梁添架管)は、目視が可能であり、一般的には定期点検を行い、異状が確認されれば修繕を行う。

反面、露出されているということは、過酷な環境に置かれていると言え、頻度の高い巡視・点検によって管路事故の予防に努める必要がある。

六十谷水管橋の場合、1か月前に巡視・点検が行われ、異常はなかったと報告されており、現在、原因究明中だ。

今後、施設の老朽化が進むなかで、点検はますます重要になる。

全国的な水道施設の点検の実施状況は、厚生労働省の報告から、厳しい実態が浮かび上がる。

厚生労働省資料より著者作成
厚生労働省資料より著者作成

管路に関していえば、「日常点検の実施率は40%」、「定期点検を実施率は26%」と低くかった。

そのため前述の法改正や点検のガイドラインの策定などが行われ、改善を図ろうとしたわけだが、水道現場では人材が不足し、頻繁に点検できないこともある。厚労省の要求に100%応えられない現状がある。

老朽化が進む水道インフラに対して抜本的な手を打たないと、今回のような管路の損傷、断水は全国で頻発するだろう。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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