自主的な節水が頼りになる時代は過ぎた

コロラド川流域は、アメリカ西部の水の未来を占う「鉱山のカナリア」と言われている。

カリフォルニア州は2年連続で干ばつに見舞われた。今年は観測史上3番目に乾燥し、昨年は9番目だった。

同州のガビン・ニューサム知事は、7月8日、州民に「15%の自主的な節水」を求めた。しかし、水使用量は減らなかった。今後、州全体で水使用を制限する可能性がある。

過去にはジェリー・ブラウン前知事が、2012年から2016年までの干ばつの際、「自主的な節水」がうまくいかなかった後、水使用量の25%削減を義務付ける命令を州全体に出した。

自主的な節水が頼りになる時代は過ぎたとの見方も強い。

水不足が起きているのは、カリフォルニアだけではない。

8月16日、アメリカ連邦政府はコロラド川の水不足を宣言した。コロラド川から飲料水や灌漑用水の供給を受けているアリゾナ州、ネバダ州、カリフォルニア州、メキシコに来年の減水を義務付けた。

宣言の背景には、全米最大の人造ダム湖・ミード湖の貯水率が35%まで下がったことがある。ミード湖はフーバーダムの背後にあり、コロラド川の水を蓄える。

水位の低下しているミード湖
水位の低下しているミード湖写真:ロイター/アフロ

さらにミード湖の上流にあるパウエル湖(ミード湖に次ぐ全米第2位の貯水池)の貯水率も32%まで下がっている。パウエル湖は、アリゾナ州とユタ州の州境に位置し、グレンキャニオンダムの背後にコロラド川の水を蓄えている。

ミード湖は、アリゾナ、ネバダ、カリフォルニア、メキシコの約2500万人に水を供給している。コロラド川流域の水の分配のルールは複雑で、アリゾナ州とネバダ州が第1段階の削減の影響を受ける。アリゾナ州では川からの供給量が18%削減され、主に農業に影響を与える。ネバダ州では2022年まで現行の7%削減が継続される。

水使用量の多い「米を栽培すべきでない」

水の供給量が減り続けると、都市と農村、企業と農場、環境保護団体と土地所有者などのあいだで水をめぐる争いが発生する。

また、水不足を補うため、目には見えない地下水の利用が急増する。コロラド川流域の帯水層はすでに深刻な状況に陥っている。地下水の枯渇の約半分は灌漑が原因だ。農業は最も多くの水を使う産業で、全世界で利用できる淡水の7割以上が灌漑によって消費されている。

現地では水使用量の多い「米を栽培すべきでない」という声も上がっている。カリフォルニア州のサクラメント・バレーには、約50万エーカーの水田がある。1920年代以降、サクラメント・バレーでは農家が米を栽培してきた。生産された米の約半分は日本や韓国などに輸出されている。日本では77万トンの米を輸入するが、そのうちの38万トンが米国からのものである(農水省「平成28年度MA輸入契約数量及び枠外輸入数量」)。

今後、世界的に水不足、食料不足が懸念されており、食料ナショナリズムが広がっていくだろう。よってこのニュースは日本と無縁ではない。日本は自国の水をつかって食料生産を行い、自給率を上げるべきだ。

では、なぜ水不足が起きているのか。

1つには、そもそも水の需給バランスが崩れている。コロラド川流域の水量よりも、書類上の水利権がもつ水量のほうが多い。コロラド川流域での水収支を見極め、水供給と需要の調整を行う必要がある。

それには水利権の再調整、割り当てられた水量の削減という難しい問題がある。だが、実施しなければコロラド川流域の生態系は元に戻れないほどにダメージを受けるだろう。

もう1つが気候変動。コロラド川流域の水不足は、アメリカ西部の長期的な乾燥化の一部である。それゆえアメリカ西部の水の未来を占う「鉱山のカナリア」と言われる。

2020年の米国地質調査研究所の調査によると、コロラド川の流量は過去1世紀の間に約20%減少した。減少の半分以上は、流域全体の気温上昇に起因すると報告されている。今年米国西部は過去30年で最も気温が高く、干ばつの深刻化、森林火災の被害も拡大につながっている。

化石燃料の燃焼による地球温暖化物質の排出を大幅に削減しなければ、今世紀半ばまでにコロラド川の平均放流量は過去の平均値に比べて31%減少する可能性がある。

生態系に必要な水をまず保障、そのうえで人間の水使用量を逆算

水管理手法の転換も必要だ。

水管理の手法について考えてみると、これまでは目標供給量を達成するマネジメントだった。現状の水使用量、将来の人口予測、経済予測などから需要を計算し、その供給量をいかに確保するかという発想だ。

水資源の不足・枯渇が心配されるようになると水使用量をコントロールしようという考えが生まれた。需要管理(節水)である。

しかし、わずかな節水では生態系から失われていく水を維持、回復するのはむずかしい。

新たな管理手法として「ウォーター・ソフトパス」がある。米国のピーター・グレイク、カナダのハリー・スウェインら複数の研究者が、エイモリー・ロビンスの「エネルギー・ソフトパス」のコンセプトを淡水に応用したものだ。

ひと言でいえば、将来の生態系に必要な水をまず保障し、そのうえで人間の水使用量を逆算して考える。生態系との共生を図る持続可能な水マネジメントなので、「生態共生管理」とも言われる。

生態共生管理はどう実施するかというと、仮に30年後、コロラド川流域の淡水資源が100、生態系保全のために必要な水が60とする。すると人間の使用可能水量は40なので、その水でやっていける社会をつくることを考える。

水使用量を減らすという点では、需要管理と同じだが、需要管理が人間主体で考えられるのに対し、生態共生管理は、まず生態系を考える。

生態系を淡水の正当な利用者として認識する。健全な生態系は、水を保持し、浄化する機能をもつ。だから将来の生態系保全を最優先に考えて地域の水資源を充当し、余剰分で人間の水使用を考える。

需要管理の手法は”How”によって生まれる。水を使う行為があったとき、「どうやって」より少ない水で同じ行為が可能かと問いかける。一方、生態共生管理の手法は”Why”によって生まれる。水を使う行為があったとき、 「なぜ」それを行うのに水が必要かと問いかける。

たとえばトイレで節水を行うなら、「どうやって」少ない水で排泄物を流すかと問いかける。その結果、水使用量は減った1990年台前半は10L(大の場合、以下同)だったが、90年代後半は8L、2000年代後半は4.8L、最新型は3.8Lと、より少ない水で排泄物を流す節水型トイレ等が開発されてきた。

一方、生態共生管理では「なぜ」排泄物を処理するのに水を使うのかと問いかける。その結果、水を使用しない無水トイレ、屎尿を活用し肥料やエネルギーをつくるバイオトイレ等が開発された。

シャワーを10分浴びると、約100Lの水を使用する。需要管理では「どうやって」少ない水で体を衛生的に保てるかと考える。たとえば、節水型シャワーヘッド。水圧を上げることで、一定時間内に出る水量が半分以下に減っても体感は変わらない。

一方、生態共生管理では「なぜ」体を衛生的に保つのに水を使うのか、水を使わずに衛生を保つ方法はないかと考える。

たとえば、ケープタウン大学の学生、ルドウィク・マリシェーンが発明したドライバスはジェル状で無臭、肌に塗れば水と石鹸の役割を果たす。ドライバスは学生らの起業を奨励する目的で設置されたグローバル・スチューデント・アントレプレナー・アワードで2011年の最優秀賞を受賞した。

現在「水ビジネス」と呼ばれている技術・商品・サービスは供給管理、節水を実現させる手法だが、 今後は生態共生管理を実現させる技術・商品・サービスが重要になる。