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SDGs6達成の計り知れない効果。すべての人の水と衛生確保で開発途上国の経済が年間1230億ドル改善

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
「Mission critical」より

すべての人が自宅で安全な水を得られると年間370億ドルの経済効果

 世界には水で困っている人がいることは多くの人が知っているだろう。写真や映像で水汲みにいく人の姿を見た人も多いだろう。日本にすむ人にとっては「あって当たりまえ」で「ありがたさも感じにくくなっている」水道とトイレ。それがないのだ。

WaterAid資料より筆者が図版作成
WaterAid資料より筆者が図版作成

 上の図からわかるように自宅に水道をもたない人は21億8500万人いる。また、20億人が適切なトイレ(排せつ物が安全に処理されるトイレ)を利用できない環境で生活している。こうした人は開発途上国に多く、持続可能な開発目標(SDGs)では、ゴール6で「すべての人に清潔な水とトイレ」を目指している。

 現時点では、目標を達成するのはかなり難しいとされているが、仮に達成できたとしたらどのようなことが起きるのか。開発途上国への水と衛生の支援を専門とする国際NGO「WaterAid」とVivid Economics社が、水と衛生の改善によって改善される経済損失の規模を調査した。

Mission critical: invest in water, sanitation and hygiene for a healthy and green economic recovery
Mission critical: invest in water, sanitation and hygiene for a healthy and green economic recovery

 レポート「Mission critical: invest in water, sanitation and hygiene for a healthy and green economic recovery」(「ミッションクリティカル:健康的でグリーンな経済復興のために、水・衛生に投資する」)では、世界中のすべての人が、清潔な水とトイレを利用し、衛生行動を実践できると、今後20年間で開発途上国の経済が数兆ドル規模で改善されるとしている。

インドで水を汲む少女
インドで水を汲む少女写真:ロイター/アフロ

 開発途上国の水不足の地域では、水汲みに多くの時間を費やさなくてはならないので働くことができない。水のないところでは農業など生産活動もできない。そして貧困であるがゆえに簡単な水インフラも得られない。このような負のスパイラルに陥っている。

 そこでインフラの整備が行われ、すべての人が自宅で安全な水を得られるようになると、どのような変化がおきるか。女性や少女が水くみの仕事から解放され、年間7700万日以上の時間を節約することができる。過酷な労働から解放されて健康になるだけでなく、その時間を教育や収入を得るために使える。レポートではその金額を年間370億ドルと試算する。

すべての人が適切なトイレが利用できる経済効果は年間860億ドル

 また、すべての人が適切なトイレを利用できるようになると、2021年から2040年の間に60億件の下痢と120億件の寄生虫症の発生を防ぐことが可能となり、生産性の向上や医療費の削減等によって、毎年860億ドルを生み出すことができる。

 この報告書では、水と衛生のインフラに最も影響を与える気候変動リスクは洪水であるとしている。深刻な洪水は、インフラを一時的に使用不能にし、コレラのような水系伝染病を増加させる。また、災害時に緊急サービスを提供する地域の能力を低下させる。

ブラジルでの洪水
ブラジルでの洪水写真:ロイター/アフロ

 水・衛生インフラを、洪水に対してレジリエントにするためのアクションに1ドル投じるたびに、洪水で破壊されるインフラの修復費用62ドル~179ドル削減できる。そして、命を脅かす可能性のある飲料水源の汚染も防ぐことができる。

 したがって、気候変動に強いインフラ整備は、洪水被害が低レベルであっても強力な投資となるという。

 水と衛生のインフラはあって当たりまえではない。私たちが毎日安心して仕事ができるのもインフラのおかげ。反対に水と衛生のインフラの整っていない開発途上国での生活はそれだけ苦しいものになっている。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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