コロナ共生で登場するサプライチェーンの短い生活圏

流域を基盤とした生活圏のイメージ(橋本淳司&加藤マカロン)

新型コロナが破壊したグローバル流通網

 私たちの生活は、サプライチェーンの末端にある。材料・部品の調達、製造、配送、販売の流れの最後にある。

 いま主要食品の価格が上がっている。2000年代後半、2010年代前半にもたびたび食品の高騰があった。このときは生産国での干ばつが主な原因だった。供給不足から価格が高騰し、暴動も起きた。今回のケースも干ばつや虫害はあるものの、新型コロナのパンデミックによりサプライチェーンが破壊された影響は大きい。

 生産地に食料はあるが、農場に出られない、トラックで運べない、飛行機が飛ばない。肉、野菜、果物が生産現場で大量に腐り、必要な人に届かない。

 国際的な分業がサプライチェーンによって結ばれ、さらには余計な在庫をもたないことで、生産性は高まり、生産のコストも下がる。その一方で重要な部品や完成品も他国からの輸入に依存してしまう。

 例えるなら、冷蔵庫のない都会の一人暮らしだ。コンビニに行ってお金を出せば、欲しいものが、いつでも手に入る。「完全な消費者」は生産、備蓄は行わないし、流通を意識することもない。

 しかし、この経済優先のしくみは、新型コロナによって、あまりに脆弱であることが露呈し、環境負荷が大きいこともわかった。経済活動の縮小が、大気汚染の改善や温室効果ガスの減少など、環境と健康へのプラスの効果をもたらしている。

サプライチェーンは短い方が安全

 こうした状況を踏まえコロナが収束した後の世界を考えると、サプライチェーンは短い方が安全、長いサプライチェーンの末端にいるのは危険という認識が強まるだろう。

 これまで企業は人件費の安さ、マーケットへの近さから海外に拠点を置いていたが、国内回帰するケースも出るだろう。国際分業の効率性を失うことでコスト高にはなるが、ITインフラの整備、テレワークの浸透によって生産性は高まる。

 同時に、都市部への一極集中が崩れ、あらゆるものが地方へと分散される。

流域という生活圏

 地方という概念を、まとまりとして具体的に表現する場合、道州制の構想や都道府県、市町村などがあるが、生産や生活という点で合理的なのは「流域」ではないか。

 流域とは何か。平らでない土地に雨が降ると、水は傾斜にそって低いほうへと流れていく。流れはやがて川となり、最終的には海に注ぐ。流域とは、降った雨が地表、地中を流れ、やがてひと筋に収斂していく単位である。

 この流域を1つの生活圏と考え、そこに所属する自治体が連携しながら生活圏を構成する。

 なぜ、流域か。まずは利水という点。あらゆる生産活動には水が必要だが、人工的な手段で得るのは難しい。人類の歩みを振り返れば、生活の拠点にまず必要なのは水である。

 その水は世界的に危機的な状況にある。人口増加、産業の発達によって不足と汚染が常態化している。

 国際的には、サプライチェーンを含む企業の水利用のあり方が問われるようになり、水は経営における重要課題になっている。水不足で生産活動ができなくなるケースが頻発しており、欧米企業はサプライチェーン全体の水リスクを把握する体制を強化している。企業のトップは、製造拠点を考えるときには必ず「水リスク」を考える。「水リスク」を織り込んだ意思決定は常識となっているし、投資家は企業の「水リスク」に注目して投資活動を行う。

 次に治水という点。日本においても気候変動により、雨の降り方が変わり、渇水や洪水が頻発する可能性がある。昨年の台風19号の際、茨城県水戸市では雨が止んでから1日経過した後に、洪水が発生した。上流域に降った雨が1日後に下流域の水戸市に集まったからである。

 こうしたことから、流域単位で水マネジメントで利水と治水を行い、そこに生産活動と生活の場があるのは合理的であり、企業は積極的に流域の持続性に貢献すべきであろう。

水、エネルギー、食、森林の関係

 では、どんなことができるのか。地域の水不足を解決しようとすると、普通、水をためたり、水をきれいにしたりと、水に注目した行動が思い浮かぶが、できるのはそれだけではない。「水は万物の父」といわれるように、あらゆるものに関係しており、生産、生活に欠かすことできない森、食料、エネルギーなどと密接につながっている。

FEWは関係している(著者がいらすとやのイラストで構成)
FEWは関係している(著者がいらすとやのイラストで構成)
EとWの関係(著者がいらすとやのイラストで構成)
EとWの関係(著者がいらすとやのイラストで構成)
FとWの関係(著者がいらすとやのイラストで構成)
FとWの関係(著者がいらすとやのイラストで構成)
FとWの関係(著者がいらすとやのイラストで構成)
FとWの関係(著者がいらすとやのイラストで構成)

 こうした関係性を考えながら、地域のなかで保全と活用を考える。では具体的にはどんなアクションが考えられるか。

食料と水を考えたアクション

 日本の食料自給率は約40%。食料を輸入するとは間接的に水を輸入することであり、その量は年間640億トンにのぼる。しかし、その輸入相手国である中国、オーストラリア、アメリカは近年、水不足が続いている。また、新型コロナの流行にともない、食糧輸出国は、国内の食料安全保障を優先に輸出を規制しはじめた。新型コロナのまん延が深刻化すると、その動きは一層加速するだろう。

 そこで日本の農業を強くしていく。その際、生産性と効率性を重視した大規模化中心の政策ではなく、中小農家や条件不利地域農家の経営を支援する必要がある。

 その際、水が必要になる。日本は水が豊かと考えられがちだが、雨の降る時期が限定的であったり、国土が急峻であるため、水が貯めにくい。温暖化の影響で、今年の冬は雪不足であり、田んぼに水が張れない地域が出ると考えられている。また、農業生産につかわれる農薬や肥料は水を汚す。廃棄物を処理するにも大量の水が必要だ。

 だから水を保全しながら活用する、汚さないように使うことは大切だ。

 熊本県では減ってしまった地下水を再び増やすために、涵養事業を行っている。この事業には熊本の水を使う企業も協力している。農家に、稲刈り後の田んぼに水を引いてもらう。この水は地下に貯まる。その費用を熊本の水をつかっている企業が負担する。熊本地域で事業を営む企業にとって、きれいで豊富な熊本の水は大切だ。いままでは使っているだけだったが、守りながら使うことになった。

 そのほか循環的な水の利用を行うケースもある。たとえば、農業集落排水処理水を農業用水に再利用したり、稲作に用いた水を浄化して農業用水に再利用したりする。食品メーカーが工場から出される栄養分の高い水で野菜を育てるケースもある。

 雨水活用も重要だ。雨水は生活用水に利用できる。東京の水道使用量は年間20億トン。一方、東京に降る雨は年間25億トンある。都会の屋根に降る雨水をタンクにためたり、降った雨を大地に浸透させれば、生活用水の確保だけでなく洪水の防止につながる。

森林の保全と活用

 日本の森林は荒れている。放置されているケースもある。上流域の森林が放置されたり皆伐されたりして水を貯める力を失えば、下流域の住民は水の恩恵を得られなくなったり、水の脅威にさらされる。

 自治体が森林環境譲与税を活用し、緑の雇用を生み出すことはできる。

 また、飲料水メーカーが流域の森林整備による水源涵養活動を行うケースがある。メーカーのなかには工場で使う量を上回る水を涵養する目標を掲げるケースもある。研究者の協力を得ながら、それぞれの森の植生や地形、生態系などに応じた施策を立案し、実行している。

 森林の公益的機能を発揮させながら、持続的な林業経営を行うためには、地域にあった森づくりのできる担い手を育成することが急務だ。小規模でも持続的な林業経営を行う人たちは日本全国にいる。そのノウハウを結集し、担い手を育成することが急務である。

 水源の森づくりを流域内の自治体が共同で行い、住民が参加しての植林・育林活動を実施することもできる。自治体が木材を使う場合は、流域内の適切な施業によって得られた木を使用する。

水とエネルギーの関係を考えたアクション

 自然エネルギーは小規模・分散型のエネルギーで、各流域が独自の政策を打ち出しやすい。太陽電池や風力タービンなどの小型発電施設が設置され、大型発電所から遠方まで送電することにより生じる損失や、送電塔などによる環境破壊もなくなる。

 山間部は小規模水力エネルギーの宝庫だ。小規模水力発電は、水流の小さな落差や農業用水路で水車を回して電気を起こす。日本の地形は急峻で、川の流域が狭く、勾配が急なのが特徴。これは小規模水力発電を行うには非常に適した地形だ。効率のよいタービン発電機が開発されていて、わずかな落差、小さな流れでも大きなエネルギーを生むことができる。

具体的な方法は流域ごとに

 陸上の水は自然形態として存在する分水嶺により区切られた集水域(流域)を単位に循環している。したがって、水の管理も流域を単位として行うのが自然だ。各流域は、自然的・社会的・歴史的条件が異なることから、水行政に関わる課題についてもそれぞれ違う。水利用や排水方法も地域によって適したやり方がある。

 全国一律の基準による管理でなく、流域ごとに地域に適合した政策を住民合意で作り出していく。

 それには既存の組織を超えたチームが必要。森、食、エネルギー、水の政策を流域ベースで総合的にマネジメントし、流域独特の問題について、課題解決の智恵の蓄積と共有する。市民が政策を決めるテーブルに加わり、実際に活動していく。市民、行政、企業、専門家などが情報を共有しながら、流域や地域の実態に即して、住民自らが決定していく。共有資源に利害関係を持つ当事者が自主的に適切なルールを取り決めて保全管理をする。

 1つの流域のなかでサプライチェーンを構築し、 水、木、食、エネルギーの自給率を100パーセン トに近づけるのが理想だ。しかし、流域の環境はそれぞれ違うので、流域内でのサプライチェーンの構築を図りながら、隣接する流域との連携を図ったり、 補助的にグローバルサプライチェーンを利用する必要がある。

 企業はこの活動の重要なカギを握る。生産拠点のある流域で雇用創出をはかり、国内のNPO・NGOと連携して環境保全活動に取り組むことで、持続的な活動ができ、企業価値も向上する。

流域は生物多様性のまとまりのよい自然生態系

 最後に、サプライチェーンを短くすることで経済規模を縮小していくことはもちろん、人間中心の生産と消費という視点だけでは、気候変動が進むなか、安全な暮らしはできないということを付け加えておく。

 流域は生物多様性のまとまりのよい自然生態系でもある。流域にはそれぞれの特性にあった生物が住んでいる。日本では、気候の多様性とあいまって、1400種の脊椎動物、35000種の無脊椎動物、そして7000種の維管束植物といった驚くべき生物多様性を生み出した。

 しかし、流域の水は人間の活動にとって都合がいいように変えられてきた。多様な生物にとっての命の血管網はやせ細り、生息環境の劣化が激しくなっているだけでなく、その影響は海岸線や海洋の生態系にまでおよぶ。

 流域の宝の保全と活用だが、活用だけに頭がいったら、生産と消費のエリアが変わっただけ。多くのいきものにとって住みやすい場所をつくることが重要なのだ。