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高齢者の犯罪被害の実情をさぐる(2020年公開版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 高齢者の事例が多い振り込め詐欺。最近では各種対応も行われているが。(写真:アフロ)

オレオレ詐欺をはじめ、高齢者が刑法犯の被害者となる事案は多々生じている。その実情を、内閣府が2020年7月に発表した「高齢社会白書」をベースに、各種統計データから確認する。

まずは高齢者(65歳以上)が刑法犯の被害者として認知された件数の実情。刑法犯認知件数そのものが戦後最大を記録したのは2002年で、高齢者を対象とした件数もその年が最大値となる。それ以降は「件数」は減少の一途をたどっているが、全認知件数の高齢者比を算出するとむしろ増加傾向にある。

↑ 高齢者の刑法犯被害認知件数(高齢社会白書(2020年版)、万件)
↑ 高齢者の刑法犯被害認知件数(高齢社会白書(2020年版)、万件)

2009年には高齢者における認知件数・比率ともに多少ながら減ったものの、2010年以降は件数が減少する一方で比率は増加(つまり若年層の認知件数よりも減り方が緩やか)、2013年に至っては件数も前年比で増加しており、これが比率を大きく底上げ(前年比で1.1%ポイント増加)する形となった。

現時点で直近となる2018年における、全被害認知件数に占める高齢者の割合は15.3%に達している。つまり認知されている刑法犯による被害者全体の、約6.5人に1人は高齢者との計算になる。全人口に対する高齢者比率が増加しているのが主要因で、注視すべき状況ではある。

その高齢者が受ける被害としてもっとも多く認知されているのが、いわゆる「振り込め詐欺」。「特殊詐欺」とは被害者に電話をかけるなどして対面することなく信頼させ、指定した預貯金口座への振込みその他の方法により、不特定多数の人から現金などをだまし取る犯罪(現金などを脅し取る恐喝や隙を見てキャッシュカードなどを窃取する窃盗を含む)を指すが、その「特殊詐欺」のうち「オレオレ詐欺」「架空請求詐欺」「融資保証金詐欺」「還付金等詐欺」の総称として「振り込め詐欺」が用いられている。「振り込め詐欺」以外の「特殊詐欺」としては「金融商品詐欺」(価値がまったくない未公開株や高価な物品などについて嘘の情報を教えて、購入すればもうかると信じ込ませ、その購入代金として金銭等をだまし取る手口)などがある(【特殊詐欺とは(警視庁)】)。

↑ 特殊詐欺の認知件数・被害総額(高齢社会白書(2020年版))
↑ 特殊詐欺の認知件数・被害総額(高齢社会白書(2020年版))

昨今では振り込め詐欺の被害者に対して救済を騙りさらなる詐欺を行う手口や、グラフにもある通り2018年から集計が始まった「キャッシュカード詐欺盗」(警察官や銀行協会、大手百貨店等の職員を名乗り、キャッシュカードが不正に利用されているので使えないようにするなどと言って、隙を見てキャッシュカードをすり替えるなどをして盗み取る手口)など、容疑者側も手を替え品を替え犯行を行っているのが確認できる。また未公開株などの有価証券や外国通貨などの取引名目の詐欺も増加中。

世の中に何か変化があった、不特定多数が見聞きするような事案が生じたら、それに関連する詐欺が登場すると考えて、まず間違いない。昨今ではマイナンバーや特別定額給付金に関する事案だろう。

白書側ではこれら振り込め詐欺の認知件数・被害総額が急激に増加した背景には、その対象者の多くが高齢者、特に高齢女性の割合が多いことを挙げている。例えば振り込め詐欺の2019年中の被害者のうち65歳以上は83.4%を占め、オレオレ詐欺に限ると97.4%に達している。また「キャッシュカード詐欺盗」では被害者の93.7%が65歳以上となっている。

団塊世代の高齢化に伴い、退職金などの受領により多額の金融資産を所有するようになった高齢者人口の増加により、金銭に絡んだ刑法犯、特に振り込め詐欺の類による高齢者の被害が(手口・切り口は変化しつつ)増加していくことは、ほぼ間違いない。容疑者サイドにしてみれば「カモがネギを背負ってやってきた」状態に見えるのだろう。

このような場合、仮に容疑者側が捕まったとしても、詐取された金銭が戻ってくることはあまりない。それにより、多くの高齢者にとって数少ない命綱が絶たれることになる。本人はもちろん、周囲に高齢者がいる人は、十分以上に注意し、配慮を払ってほしいものである。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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