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新型コロナウイルスの影響でDI値は過去最低値を更新…2020年4月景気ウォッチャー調査の実情をさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 非常事態宣言を受けデパート内の子供向け遊技場も休業に(筆者撮影)。

現状は下落、先行きも下落

内閣府は2020年5月13日付で2020年4月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で下落、先行き判断DIも下落した。結果報告書によると基調判断は「新型コロナウイルス感染症の影響により、極めて厳しい状況にある中で、さらに悪化している。先行きについては、厳しさが増すとみている」と示された。2019年2月分までは「緩やかな回復基調が続いている」で始まる文言だったことから、景況感がネガティブさを見せる形が2019年3月分以降、14か月連続する形となっている。

なお現状判断DI、先行き判断DIともに、値が取得できる2000年1月分以降においては、リーマンショック後の2008年12月につけた値(現状判断DIは19.0、先行き判断DIは21.3)を下回る形で過去最低値となった前回月の2020年3月分(現状判断DIは14.2、先行き判断DIは18.8)をさらに下回り、過去最低値を更新した。

2020年4月分の調査結果をまとめると次の通り。

・現状判断DIは前回月比マイナス6.3ポイントの7.9。

 →原数値では「よくなっている」「悪くなっている」が増加、「ややよくなっている」「変わらない」「やや悪くなっている」が減少。原数値DIは9.5。

 →詳細項目はすべての項目が下落。「住宅関連」「製造業」のマイナス9.6ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は皆無。

・先行き判断DIは前回月比でマイナス2.2ポイントの16.6。

 →原数値では「よくなる」「ややよくなる」「変わらない」「悪くなる」が増加、「やや悪くなる」が減少。原数値DIは17.7。

 →詳細項目はすべての項目が下落。「雇用関連」のマイナス6.2ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている項目は皆無。

昨今では現状判断DI・先行き判断DIともに低迷傾向にあり、ここ3か月ほどの間は急落と表現できよう。

↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)

現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中。今回月は前回月に続き新型コロナウイルスによる影響を受け、大きな下落の中にある。1ケタのDIは前代未聞である。

先行き判断DIも海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。さらに今回月は前回月に続き新型コロナウイルスの影響拡大を懸念する形で、大きくマイナスを示す形になった。

DIの動きの中身

次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。

↑ 景気の現状判断DI(~2020年4月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の現状判断DI(~2020年4月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

2019年11月以降は実際に消費税率が引き上げられた10月の大幅下落からの反動で上昇を示していたが勢いは弱く、消費税率引き上げ直前の値46.6までには戻っていなかった。そして2020年2月では新型コロナウイルスの影響による景況感の悪化が一気に噴き出した形となり、大きな下落。その勢いは今回月まで続き、目も当てられない状態になっている。特に「飲食関連」はマイナス3.1と、これまでに見たことも無いような値に。なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は皆無。

続いて先行き判断DI。

↑ 景気の先行き判断DI(~2020年4月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の先行き判断DI(~2020年4月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は皆無。最大の下げ幅は「雇用関連」のマイナス6.2ポイントだが、これは新型コロナウイルスの影響で景況感の悪化はしばらく続き、企業の求人意欲の低迷が継続するのではとの懸念があるものと考えられる。

新型コロナウイルスで超大打撃

報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状

・新型コロナウイルス関係で外出自粛のため、内食需要が拡大し来客数も週末に集中し買上点数が伸長している。しかし、状況が刻々変化するので今後の状況は見えない状況である(スーパー)。

・緊急事態宣言を受けて営業自粛となり、食品売場のみ営業時間短縮、ほかは週末休業を実施していたが、ゴールデンウィーク前から臨時休業へ移行となり、ほぼ商売はできていない(百貨店)。

・新型コロナウイルスの拡大防止に対応し、営業時間の短縮、一部店舗の休業を余儀なくされている。緊急事態宣言後、更に来客数が減少した(高級レストラン)。

・県の新型コロナウイルス感染症に対する緊急事態宣言の発令に伴い、人の動きを始めとして来客数の減少により売上ダウンにつながっている(コンビニ)。

■先行き

・タクシー業界は先がみえない。新型コロナウイルスの影響がいつ終息するかで変わるが、ゴールデンウィークも帰省や旅行などもまったくない状況で、先がみえず不安でならない(タクシー運転手)。

・緊急事態宣言が解除されても、当面は旅行やレジャー控えが想定され、従来のような来園者数は期待できない(テーマパーク)。

・ボーナス商戦時期を迎えるが、高額商品を購入する意欲が客にあるかどうか不明である。現在の惨状を考慮すると買い控えが顕著に出てくる(乗用車販売店)。

・日本で新型コロナウイルスが終息に向かっても、諸外国も同時に終息しない限り、先行き不透明な状況が続く。そのため、国内観光業の消費者支出が予測できない(旅行代理店)。

2020年1月分まででは見受けられた消費税率の引き上げや暖冬、さらには米中貿易摩擦の話がほぼ吹き飛び、新型コロナウイルスへの懸念で埋め尽くされている。ごく一部にはポジティブに影響するところもあるが、ほとんどがネガティブ。人も物も動きが停滞し、事業の休業を余儀なくされるところもあるため、あらゆる方面で悪影響が生じてしまっている。明確な先行きが見えないことが、不安をさらに強いものとしてしまっているのが確認できる。

企業関連でも新型コロナウイルスの影響への不安の声が見受けられる。

■現状

・完成車メーカーの製造ラインがストップしている関係で、製造現場の3割程度は休業している状態である(輸送用機械器具製造業)。

・新型コロナウイルスの感染を予防しながら、事業を継続しているが、対策の費用が膨れ上がっている。感染対策を行っても売上にはつながらないため、収益率の悪化が懸念される(建設業)。

■先行き

・中国からの先行きの受注は新型コロナウイルスの影響が少なくなってきているが、国内受注は大幅に減少している(化学工業)。

・利益率の高い、製造業の荷物量が前年を大きく下回っている一方、利益率の低い通販の荷物が前年よりも多い。この状況は今後も続きそうである(輸送業)。

新型コロナウイルスは国内の人や物の動きを低迷させるだけでなく、国外においても同様の影響を与えているため、それが国内にも悪影響をおよぼす形となってしまっている。なお情勢を受けて利用量が急増している輸送業について、「製造業の荷物は利益率が高い。通販の荷物は利益率が低い」という興味深い言及も確認できる。

雇用関連でも新型コロナウイルスが大きな影響を与えている。

■現状

・5~6月末での派遣終了が増加している。新規の派遣依頼は、キャンセルも含め見直しも出ている(人材派遣会社)。

■先行き

・雇用調整助成金の問合せが激増しており、これから申請なども予想される。事業所の閉鎖も増加傾向にあるため、景気は悪くなる(その他雇用の動向を把握できる者)。

企業の業績が急激に悪化し今後の見通しも立ちにくい状況の中で、人材を確保するどころか企業自身の存続も危ういとの話が出ており、雇用市場が悪化している実情が分かる。特に派遣終了増加の動きは注意したいところではある。

今件のコメントで消費税率引き上げに関するコメントを「消費税」のキーワードで確認すると、現状のコメントで3件(前回月21件)、先行きのコメントで1件(前回月16件)の言及がある。不安や懸念といったネガティブな内容が見られるが、それらですら大部分は新型コロナウイルスの話に付け加える形でのものとなっている。どこぞで主張されている「消費税の増税で財政再建が進むので社会保障への安心感が強まり、消費が活性化される」などとの意見は見当たらない。なお「財政再建」は一件も言及されていない。

米中貿易摩擦に関しては現状のコメントで2件、先行きのコメントで1件が確認できる。ネガティブな内容がほとんどで、景況感の足を引っ張っていることは間違いない。もっとも今回月では消費税同様に、ほとんどが新型コロナウイルスの言及のついでに語られている形となっている。

他方新型コロナウイルスに関しては現状で846件(前回月998件)、先行きで940件(前回月1085件)。凄まじい言及数で、消費税率の引き上げも米中貿易摩擦も暖冬もすべて吹き飛んでしまった状態。また、直接「新型コロナウイルス」の言い回しではないものの、「緊急事態宣言」「客の来店回数が減ってきている」「巣籠り消費の影響」「3密」のような明らかに関連する内容の表現が用いられており、実質的に新型コロナウイルスの影響がほぼすべてと見てもよい。

そして内容の性質上、ネガティブな話になるのは当然ではあるが、先行きでは特に悲観的な意見が多い。ポジティブな話は医薬品関連の店による「きちんとした健康情報を教えてもらえる媒体として、街の医薬品店が認められつつある。正しい健康情報に耳を傾けてくれる真摯な客も増えている。有り難いと同時に責任を感じている」やスーパーの「新型コロナウイルスの影響で特需が発生している。来客数増加以上に客単価の増加が続いている」といったケースがある程度。

リーマンショックや東日本大震災を超えるレベルにまで景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、しばらくは状況の改善は期待できない。次回月以降も心理的、そして具体的な形で景況感に悪い影響を与えることになるだろう。

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※景気ウォッチャー調査

※DI

内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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