ミャンマー国軍によるクーデターが起きて2カ月が経とうとしている。3月27日の国軍記念日を境に武力弾圧は凄まじさを増し全市民を敵視したかのような狂気じみた行動で、死者は500人を超えた。米国や日本など12カ国の国防トップが共同非難声明を出し、国連のジェノサイド予防担当官らが国連安全保障理事会に行動を呼び掛けたが、国軍の行動に影響を与える結果に結び付いていない。一方、民主派は、武装少数民族を中心に各民族で構成する連邦軍創設に向け動いており、内戦の可能性も高まってきた。

 国軍は、抗議デモの参加者たちを当初から「暴徒」と呼んできたが、中でも最も面倒な相手は「私たちの未来が奪われてしまう」と様々な手法を駆使する10代や20代の若者たちだ。犠牲者の多くはこの世代であるにもかかわらず、若者たち抗議運動から引かず、国軍は苛立ちを募らせる。現場の写真や映像が拡散されるのを抑えようと、国軍はカメラや携帯電話を持つ人たちを取り締まっているが、若者らは兵士らの横暴ぶりを懸命に捉え、インターネット上で世界に訴える。ヤンゴンの一部地区などでは、地元住民が作ったバリケードを銃撃する兵士に、若者たちは花火やスリングショット、住民と協力して準備した熱湯で応戦した。

https://www.facebook.com/Phyoaung007/videos/504458667208239/

 射殺される若者が増えるにつれ、手製の武器を作る者も出てきたが、兵士らとの正面衝突を避けるために、通りに展示物を並べて「人がいない抗議」スタイルも試みるグループもいる。

夜に若者たちが行った抗議(フェイスブックより筆者作成)
夜に若者たちが行った抗議(フェイスブックより筆者作成)

国軍から若者へ「頭を撃たれるぞ」

 国軍は26日、翌日の国軍記念日に合わせ予定されていた大規模抗議デモを阻止しようと、テレビや新聞の国営メディアを通じ、若者に向けた「死の警告」を発表した。

未来ある全てのミャンマーの若者たちへ

・植民地主義者の勢力下にある若者たちが、国を破壊しようとする彼ら(植民地主義者)の暴動の計画に、ゲームのように加わろうとしている。慎重になりなさい。

・君たちは、残虐に殺害された者たちから教訓を得るべきである。頭部を撃たれたり、背後から撃たれたりする危険性があるのだ。息子や娘たちよ、惑わされるな。親たちには、自分の子供たちが無意味に殺害されることがないよう、説得することを強く求める。

・暴動を起こし、法を犯すことは間違っている。抗議デモに参加している若者の友人たちには、友が誤った行動に走る前に、彼らを救い、議論し、説得し、止めるよう強く求める。若者たちの人生は、国と国民に利益となることにのみあるべきだ。

 抗議デモをすればどうなるか。見せしめのために射殺している、そのことを認識せよー。「議論」といった民主的な言葉も混ぜたこの脅迫はあまり効果を生まず、27日、抗議デモは予定通りに全国各地で行われた。これに対し国軍は、屋内にいた女児を射殺したり男性を生きたまま火に投げ込むなど、警告以上の残虐な行動に出た。地元人権団体によるとこの日、1日としては最悪となる114人が殺害された。

 兵士らは「恐怖感を植え付けるためなら、どんな手段を使っても良い」と命じられているかのような傍若無人ぶりだ。SNSでは、兵士が市民を袋叩きにしたり、商店から食品を略奪したり、車や家屋を破壊したりする様子を映した動画が投稿されている。国軍系の「ミャワディテレビ」は、ヤンゴンで逮捕した若者二人の「見せしめ」写真を放映した。二人は若手の画家や詩人らが作るアーティスト集団に所属している。一人の顔は腫れ上がり、血が流れている。

国軍が所有するテレビ局が放映したアーティスト二人の写真(フェイスブックより筆者作成)
国軍が所有するテレビ局が放映したアーティスト二人の写真(フェイスブックより筆者作成)

 ヤンゴン の下町では、多くの画家らがポートレートを描くなどして資金を集め、市民不服従運動(CDM)に寄付していたという。

「制裁され孤立しても友達はいる」

 首都ネピドーで27日、国軍記念日に行われた式典には、ミャンマーに急接近しているロシア国防省のフォミン次官のほか、中国、インド、パキスタン 、バングラデシュ、東南アジア諸国連合(ASEAN)からはタイ、ベトナム、ラオスの駐在武官らが出席した。ミンアウンフライン総司令官は、国防次官を派遣したロシアを「真の友人」と述べ謝意を表明。ロシアメディアによると、フォミン国防次官は式典に先立ちミンアウンフライン総司令官と会談し「ミャンマーはロシアにとって信頼できる同盟国であり、戦略的パートナー」と持ち上げた上で、「二国間の関係を強化する」と述べ、事実上クーデターを承認した。多数の市民が殺害されていることには触れなかった。

 米国と同盟国はこれに反発した。英米各国、韓国、オーストラリア、そして日本も含む12カ国の国防トップが日本時間の28日、ミャンマー国軍の暴力行為を非難し「軍隊には国民を保護する責任がある」などとする共同声明を発表した。

https://www.mod.go.jp/js/Press/press2021/press_pdf/p20210328_01.pdf

(防衛省報道資料)

 残念ながら、この共同声明に、ミャンマー国軍は耳を傾けないだろう。欧米各国が経済制裁を科した軍事政権時代も「友好国と数十年を共に生きた」と国軍トップは国連のブルゲナー事務総長特使に述べ、中国やロシアとの関係を強調している。ただし、最近は中国との間には緊張が生じている。抗議デモにより中国投資が損失を受け、中国大使が「この状況は好ましくない」と表明してアウンサンスーチー氏らの即時解放を求めたからだ。それでも、二つの「友好国」のお陰で国連安保理が強い行動に出ることはないだろうと、国軍トップは踏んでいるはずだ。

進むか、民主派の連邦軍創設構想

 ミンアウンフライン総司令官は、どこまで武力行使をエスカレートさせるつもりだろうか。

 国連安全保障理事会が平和維持活動のために国連軍を派遣するなどということは、今のところ現実的ではない。「このままでは死傷者が増大するばかりだ」と、国軍と対話し妥協点を探るべきだとの意見も民主派の中にはある。しかしこれには「(国軍に有利に作られた)2008年憲法の下でやるべきではない」と強い反発がある。2008年憲法下では、国軍はいつでもクーデターを起こすことが可能だし、虐殺に対する軍の責任が問われることも決してない。

 民主派は、連邦軍創設の構想を進めつつある。中心になっているのは、アウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)の議員らが設立した連邦議会代表委員会(CRPH)だ。CRPHは現在、「臨時政府」として承認するよう国際社会に求めており、フェイスブックとツイッターは、「政府機関」とするCRPHのアカウントを「正当で実体のある組織」と認め、青色の認証バッジを付与した。

 多民族国家のミャンマーには135の民族が暮らすが、多数派ビルマ族に対し、その他の民族は長年、不信感や嫌悪感を募らせてきた。社会的、政治的に不平等な扱いを受けてきたからだが、クーデターはそうした問題に正面から取り組み「真の民主的な連邦国家を築く機会になった」と、CRPHは主張する。国軍がビルマ族市民を虐殺している現状に、「国軍と、彼らが主導する軍国主義はどの民族にも共通の敵である」という認識が共有されつつあるというのだ。「私たちはなぜ少数民族が武装しているのかを理解するようになった。自分たちの民族を国軍から守るためなのだ、とね」。ヤンゴンに住むビルマ族の男性はそう語る。

 「共に戦い、どの民族も平等な権利を享受できる連邦制民主主義国家を創設する」。CRPHはこの目標を達成するための連邦軍創設案について、20の武装少数民族のうち80%と協議を終えた、としている。最大の武装勢力カレン民族同盟(KNU)のほか、早くから「団結して国軍追放を」と呼びかけていたシャン州軍(SSA)が既に支持しているという。

 しかし時間はまだかかりそうだ。SNS上では「犠牲者が増えているのに動きが遅い」とCRPHを批判する声がある一方で「少数民族が抱いていた積年の不信感は一夜で解消できない。辛抱強く待とう」などのコメントがある。

 KNUの支配地域には、市民を武力弾圧する国軍に反対した兵士や警察官らが逃げ込んでいる。森林では、民主化運動が武力弾圧された1988年のように、民主化を求める若者らが戦闘の基本を学んでいるという。そのKNU支配地域に国軍は27日から連日空爆し、約1万の住民が避難する結果になった。

 内戦の可能性は高まっている。「国軍とのパイプを持つ」日本政府はどう動くのか。ミャンマー市民も国際社会も注目しているはずだ。