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新型コロナウィルスの中、地震の多い3月は気を引き締めたい

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(提供:宮古市/ロイター/アフロ)

新型コロナウィルスと地震

 3月11日に発生した東日本大震災から9年が経ちます。新型コロナウィルスが蔓延する中、地震への対策も怠りなくしておきたいと思います。過去、3月には多くの地震が発生しています。1933年昭和三陸地震や2011年東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では、大きな津波が東北地方や北海道を襲いました。かつて江戸末期には、地震が続発したあとにコレラが流行したこともありました。万が一、新型コロナウィルスに警戒しているこんな時に大地震が発生したら、避難所に行くことを躊躇する人も多いでしょう。今週から2週間、学校も休校になり、多くのイベントが中止になります。今の状況は、南海トラフ地震臨時情報が発表されたときに想定していたことにそっくりです。冷静な対応が望まれます。

津波を伴ったアウターライズ地震

 1933年3月3日未明の2時30分ごろに昭和三陸地震が発生しました。日本海溝の海側の盛り上がった場所(アウターライズ)で起きたM8.1の地震でした。アウターライズ地震は、震源が離れているので揺れは震度5程度でしたが、浅い位置で発生するため津波が高くなりやすい特徴があります。三陸沿岸では、来襲した津波によって3千人を超える死者・行方不明者を出しました。三陸地方で、1896年明治三陸地震や1960年チリ地震津波、2011年東北地方太平洋沖地震と、度重なる津波に見舞われています。ちなみに、この時期、わが国では、1923年関東地震、1925年北但馬地震、1927年北丹後地震、1930年北伊豆地震と、被害地震が続発しました。翌1934年には函館大火や室戸台風にも見舞われました。

繰り返す十勝沖地震

 1952年3月4日10時22分ごろに、M8.2の十勝沖地震が発生し、津波などによって33人の死者・行方不明者を出しました。前日が昭和三陸地震の日で、津波防災訓練が行われていたことが、役に立ったとも言われています。この地震はプレート境界の地震で、1843年、1952年、2003年と60~80年程度の周期で繰り返し地震が発生しています。また、この周辺では、津波堆積物から、17世紀に超巨大地震が発生したことが知られており、1611年慶長三陸地震との関係も議論されています。超巨大地震の周期は400年程度だと考えられており、今後30年以内に7~40%の確率で起きるとの長期評価がされています。

前震を伴った超巨大地震

 2011年3月9日11時45分ごろに三陸沖でM7.3の地震が発生しました。そして、2日後の3月11日14時46分ごろに観測史上最大のM9.0の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)が発生しました。大津波が東北地方太平洋岸を襲い、死者・行方不明者約2万2千人にも及ぶ甚大な被害となりました。この地震では、強い揺れ、津波、液状化、長周期地震動、原発事故、計画停電、帰宅困難、天井落下、サプライチェーン途絶など、様々な課題を突き付けました。

 超巨大地震の2日前にM7クラスの地震が発生したことは、2016年熊本地震の2日前に前震が発生したことと合わせ、今後の地震対応の在り方に一石を投じました。また、本震後、震源域周辺での余震に加え、3月12日長野県・新潟県県境付近の地震(M6.7)、3月15日静岡県東部の地震(M6.4)、4月11日福島県浜通りの地震(M7.0)など、M7クラスの誘発地震が発生したことも重要な教訓です。

 ちなみに、発生が懸念される南海トラフ地震では、M7クラスの地震が発生したら、気象庁から南海トラフ地震臨時情報が発表され、特別な警戒をすることになっています。

21世紀に入ってから多発する3月の被害地震

 21世紀に入って、死者が出た地震は19個あります。その中で、3月に発生した地震は、2001年3月24日芸予地震(M6.7、最大震度6弱、死者2)、2005年3月20日福岡県西方沖の地震(M7.0、6弱、死1)、2007年3月25日能登半島沖地震(M6.9、6強、死1)、2011年3月11日東北地方太平洋沖地震(M9.0、7、死・不約22,000)、2011年3月12日長野県・新潟県県境付近の地震(M6.7、6強、死3)、2012年3月14日千葉県東方沖(M6.1、5強、死1)の地震の6つがあります。

 東北地方太平洋沖地震と千葉県東方沖地震を除くと、いずれも内陸直下の地震です。芸予地震では呉市などの急傾斜地の被害が、福岡県西方沖地震では、震源に近い玄界島で大きな被害を受けました。また、能登半島地震では輪島市門前町などで家屋被害が顕著でした。この地震の4か月後には新潟県中越沖地震が発生しており、1964年新潟地震、1983年日本海中部地震、1993年北海道南西沖地震、年2004年新潟県中越地震も含め、日本海東縁から新潟-神戸ひずみ集中帯の存在が周知されるようになりました。

南海トラフ地震臨時情報とよく似た状況

 今の状況は、南海トラフ地震臨時情報が発表される前後とよく似ていると感じます。中国で蔓延し水際対策を行っていた段階は、普段とは異なる観測データが検出されている状況や南海トラフ臨時情報(調査中)の状況に似ています。そして、今週の様子は、南海トラフ臨時情報(巨大地震注意)や(巨大地震警戒)が発表された後のようです。学校の休校やイベントの中止、時差出勤、外出の抑制などを行われています。

 一方、社会の基本となるライフラインやインフラ、役所、消防、警察、医療や福祉施設など、社会機能をしっかり維持しなければなりません。テレワークや、SkypeやZoomなどのWeb会議を活用することで、感染の危険度も減らせられます。社会が狼狽えないよう、デマに惑わされず買い占めを自粛し、手洗いとマスク着用を励行し、冷静かつ節度ある慎重な対応をしたいものです。

 年度の変わり目の3月は、大学入試、入学や就職、転勤に伴う引っ越しなど、ざわざわするときです。この一か月、気を引き締めて生活をしていきたいと思います。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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