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入学・就職・転勤シーズンを迎え、引っ越しは防災対策の最大のチャンス

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:アフロ)

家選びの基本

 3月は、大学入学、就職や転勤などで、一年で最も多くの人が引っ越す月です。引っ越しまでの時間的ゆとりがないため、ついつい賃料や便利さを優先して転居先を選びがちです。ですが、安全な住まい選びは何より大切です。災害危険度は住まいによって全く異なります。災害被害は、ハザード(Hazard)、暴露量(Exposure)、脆弱性(Vulnerability)によって決まります。ハザードが大きな場所や、リスクの大きな場所、脆弱な場所を避けることが基本です。孫子の格言のように、「彼を知り、己を知れば、百戦殆うからず」です。

安全な土地選び

 地震や台風、豪雨が頻発しています。地震や浸水の危険度は場所によって異なります。ハザードの大きな場所を避けるために重要なのは土地選びです。水辺や低地は水害の危険があります。また、軟弱な地盤が多いので揺れが強く、液状化もします。一方、丘陵地などの傾斜地は切土・盛土されているので土砂災害の危険度が高いです。とくに、谷筋の出口は危険です。また、昔、河川が流れていた場所や、池や水田だった場所も避けたいです。できれば、平らな台地が良いでしょう。地名にもヒントがあります。バス停や公園、交差点などには、昔の地名が残っています。水・河・川・池・沼・江・津などが付いた地名は、由来を調べてみてください。

ハザードマップなどの確認

 引っ越し先の都道府県や市町村のホームページで、地震、津波、洪水などのハザードマップを確認ください。可能であれば、図書館に出かけて、市町村史を探して過去の災害履歴を調べると良いでしょう。大日本帝国陸軍が作った迅速測図などの地図で、過去の土地利用を調べることもお勧めします。活断層地図を調べて、活断層の近くも避けた方がよいでしょう。こういった情報については、防災科学技術研究所が公表しているhttp://www.j-shis.bosai.go.jp/「地震ハザードステーションJ-SHIS」や、津波ハザードステーション「T-THIS」、[地震ハザードカルテhttp://www.j-shis.bosai.go.jp/labs/karte/]などが便利です。

空中写真で、木造家屋密集地域かどうかを確認

 最近では、Google MapsやYahoo地図で、空中写真を簡単に閲覧できます。道が狭く、瓦屋根の家屋が密集している場所では、木造家屋が多く、広範囲に延焼拡大する危険がありますから、避けた方が良いでしょう。また、近くに広い公園や小中学校などがあるかどうか、道は十分に広いか、危険物が無いかどうかなども、確認しておくと良いでしょう。

家屋の建築年とバランス、構造を確認

 まずは建築年を確認ください。日本の建物耐震基準は、1981年に改正されたため、この前後で耐震性に差があります。木造家屋は2000年の前後でも差があります。建物のバランスも大切です。1階が駐車場や商店だと、1階の壁が不足し高さ方向のバランスが悪くなります。前面道路側の壁が不足する建物や不整形な建物は平面的なバランスが良くありません。また、壁が多い壁式構造と柱だけのラーメン構造では、耐震設計の考え方が異なります。壁式構造は強い揺れでも無被害に設計しますが、ラーメン構造は損壊を許容した設計をします。このため、ラーメン構造では、地震後に修復が必要になることが多くあります。

引っ越した時に家具固定を

 引っ越すときには、家具のレイアウトに気を付けてください。できれば寝室には家具が無い方が良いですが、それが無理なら、確実に家具の転倒防止をしてください。頼めば家具を固定してくれる引っ越し業者もあります。賃貸住宅の場合、壁に傷をつけるL字金具が使えないことがあります。その場合は、突っ張り棒と転倒防止板を併用するなどします。突っ張り棒は天井が柔らかいと効きが悪いので、天井と突っ張り棒の間に厚板を入れると効果的です。また、突っ張り棒は、家具の奥に入れるのが基本です。

ついでに水と食料、携帯トイレの準備を

 一人暮らしの場合、コンビニに頼り備蓄しない生活になりがちですが、災害に備えて1週間分程度の水と食料の備蓄をしておいてください。携帯トイレの準備も必須です。停電やガスの途絶に備えて、乾電池やカセットコンロも準備しておきましょう。そして、土地勘のない場所ですから、市町村でハザードマップを入手して一時避難場所や避難所を確認し、非常用持ち出し袋も用意しておきましょう。

 いずれも引っ越しの時にしかできない防災対策です。ぜひこのチャンスを生かしてください。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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