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火山堆積物の怖さを見せつけた北海道胆振東部地震から1年

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
厚真町吉野地区(著者撮影)

揺れによる家屋被害は少なかった

 2018年9月6日の午前3時8分ごろに、北海道胆振東部地震が発生しました。地震の規模はMj6.7、震源深さは37 km、最大震度は厚真町鹿沼で7を記録しました。この地震による死者は43人で、そのうち36人は厚真町で亡くなっています。多くは、大規模な土砂崩れによるものです。全壊家屋は469棟で、内訳は、厚真町224棟、札幌市97棟、安平町93棟などとなっています。厚真町は土砂崩れ、札幌市は清田区での液状化による被害が多くを占めています。

 同じ震度7だった熊本地震の全壊家屋8,667棟に比べ、揺れで壊れた住宅は遥かに少なく、北海道の家屋の耐震性の高さが分かります。寒冷で積雪のある北海道の住宅は、屋根は軽く、窓が小さくて壁が多く、凍土対策のため基礎も頑丈です。また、敷地が広いので平屋建ての住家が多いなど、耐震的な住宅になっています。過去の北海道の地震でも、揺れによる建物被害は他地域の地震に比べて少ないのが特徴です。

火山噴出物が原因で起こった土砂崩れと液状化

 厚真町の吉野地区では広域で大規模な土砂崩れが発生しました。また、札幌市清田区里塚では液状化による大規模な陥没が起きました。いずれも火山による噴出物が関係したようです。これらの場所は、樽前山や恵庭岳から噴出した火山堆積物や火砕流で覆われています。近くにある支笏湖は4万6千年前に起きた噴火によってできたカルデラ湖です。

 土砂崩れや液状化が起きた場所で私が見た火山噴出物は、園芸で使う鹿沼土のような軽石でした。鹿沼土は群馬県の赤城山が4万4千年前に噴火して噴出した軽石で、通気性・保水性が良く、軟らかいので園芸に向いています。逆に、水を含みやすく力を加えると崩れやすいという特徴があります。吉野地区で崩れた土砂はこういった軽石で、里塚の液状化場所は火山灰で埋め土をした場所のようです。ちなみに、地震の前日には、関西空港の連絡橋が被害を受けた台風21号が北海道周辺を通過していました。

全国各地を覆う火山噴出物

 日本は火山国ですから、火山の周辺は、厚真町と同様に火山噴出物で覆われています。こういった場所は、地震による揺れで土砂崩れを起こしやすく、地震の前後に雨が降ると危険度がさらに増します。2016年熊本地震では、大規模な土砂崩れで阿蘇大橋が流出しました。また、阿蘇山のカルデラ内でも多くの土砂崩れがありました。2008年岩手・宮城内陸地震でも、栗駒山周辺で大規模な土砂崩れが起きました。1984年長野県西部地震では、御嶽山が山体崩壊を起こしています。過去の地震でも、山岳地帯の直下で起きる地震では土砂崩れが多く発生しています。

 発生後96年を迎えた関東地震では、富士山や箱根の噴火による堆積物が各地で崩れました。神奈川県秦野市と中井町の市町境には、土砂崩れで堰止められてできた震生湖が水をたたえています。有名な関東ローム層は、火山噴出物が堆積した地層です。東横線や田園都市線、小田急線に乗ると、斜面にへばりついて建築されている住宅が車窓に見えます。東西を結ぶ高速道路や新幹線もこういった斜面の脇を走っています。あの美しい富士山も火山堆積物の塊です。次の南海トラフ地震や相模トラフ地震での土砂災害を思うと、不安がよぎります。

花崗岩が風化した真砂土も土砂崩れを起こしやすい

 火山の元のマグマが冷えて固まると火成岩ができます。よく見かける火成岩の一つが花崗岩ですが、花崗岩は風化しやすく、風化したものを真砂土(まさど)と呼びます。通気性・通水性に富むので園芸用によく用いられますが、降雨によって土砂崩れを起こしやすい土です。西日本は真砂土で覆われた場所が多く、とくに広島県は、何度も真砂土の土砂崩れに見舞われてきました。近年も、平成26年8月豪雨や平成30年7月豪雨などで、西日本は大きな被害を受けてきました。

多くの恵みを与えてくれる火山とうまく付き合う

 海洋プレートが陸のプレートの下に潜り込むと、海洋プレートと共に沈み込んだ水やプレート内から染み出した水分によって、融点降下でマントルが溶け、マグマができます。このマグマが原因で火山ができます。この結果、プレートの沈み込む場所に沿って、その陸側に火山が並んでいます。そして、プレート運動による圧縮力と火山噴火によって日本列島には背骨のように脊梁山脈があります。

 アジアモンスーン地帯に位置する日本では、脊梁山脈に季節風がぶつかることで、多くの雨が降ります。火山灰にしみ込んでろ過された水はとても美味です。また、火山灰でできた土壌は肥沃で、シラス台地ではサツマイモが育てられます。マグマによって地下水が温められた温泉に浸かり、美しい景色を愛でながら、美味しいサツマイモと湧水でできた芋焼酎を嗜むという、なんとも贅沢ができるのは火山のおかげです。

 自然の恵みに感謝しつつ、火山や地震への畏れを忘れずにうまく付き合っていきたいと思います。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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