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地震保険だけに頼りきらず、耐震化や家具固定など我が家の安全対策を

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

政府が再保険を引き受ける地震保険

大規模な地震が発生したとき、生活の再建に不可欠なのが地震保険です。地震保険は前報でご報告しましたが、「地震保険に関する法律」に則って、1966年6月にスタートしました。地震保険は、被災者の安定に寄与することを目的としたもので、損害を全額補償するものではありません。この保険は、政府が再保険の一部を引き受けることで成り立っています。

保険の対象は、建物と生活用の動産で、設立当初は全損した場合だけ補償されました。限度額は火災保険の契約金額の30%で、かつ建物90万円、家財60万円としており、保険の総支払限度額は3000億円でした。支払総額がこれを超えた時は減額して支払うことになっていました。その後、補償対象や、加入限度額、総支払限度額が拡大されてきました。

地震保険の総支払限度額は、地震保険法施行令で定められており、関東大震災クラスの地震が発生しても支払可能な金額が想定されているようです。従って、補償対象が拡大されたり、加入限度額や加入者数が増えれば総支払い限度額は増加することになります。

保険契約者が損害保険会社に支払った保険料は、100%日本地震再保険株式会社(再保険会社)に再保険されます。さらに再保険会社は政府と損害保険会社に再々保険し、一部を会社で保有します。ちなみに、2016年度の再保険の配分割合は、再保険会社が約29%、損害保険会社が約3%、政府が約68%でした。三者に配分することで、危険を分散しています。

地震保険の積立てと支払い

積立てられた保険料は、再保険会社と損害保険会社は地震保険危険準備金(民間積立金)として、政府は地震再保険特別会計の政府責任準備金(政府積立金)として積立てます。2015年度末の積立金は、再保険会社4645億円、損害保険会社781億円、政府1兆3250億円で、合計1兆8667億円になっています。

2017年4月時点の地震保険の総支払限度額は11兆3千億円ですから、大規模地震では積立金が不足する可能性があります。支払総額が積立金を超える場合には、政府が一般会計から借入をするなどして総支払限度額まで支払うことになっています。ただし、借入金については、その後の保険料で返済することになります。

また、1回の地震等による保険金総支払額に対する民間と政府の負担の仕方については、地震保険に関する法律施行令と施行規則で定められています。民間負担分については、民間積立金を元に算定され、2回の地震に対して積立金から拠出できるように決めているようです。結果として、民間積立金の約半額が民間負担額に相当し、変動することになります。

ちなみに、2017年4月時点の地震保険の総支払限度額は11兆3千億円、うち民間負担分は1732億円しかありません。東日本大震災が発生した時点では、総支払限度額5兆5千億円のうち、民間負担額は1兆1987億5千万円もあったのですが、震災で1兆2706億円が支払われ、その半分強を民間が負担したため、民間負担分が大きく減少しました。

地震保険の補償と限度額の拡大

地震保険の総支払限度額は、1966年の発足時には3000億円でした。当時は支払総額が100億円までは全額を民間保険会社が負担し、100億円を超え500億円までは政府と民間が半分ずつを負担、500億円を超えた額は政府が負担するという方式でした。これは小規模な地震被害は民間の積立金で対応し、大規模になったときに政府の力を活用しようとの考え方になります。

地震保険の設立後、総支払限度額は、72年に4000億円、75年8000億円、78年12000億円と、82年15000億円、94年18000億円と増加しました。当初は、住宅総合保険と店舗総合保険に限られていましたが、75年には火災保険にも付帯できるようになりました。加入限度額も徐々に増えました。また、78年宮城県沖地震を受けて、80年からは半損も補償対象となり、限度額も火災保険金額の30~50%、建物1000万円、家財500万円に増額されました。さらに、91年には一部損も補償対象になりました。

阪神淡路大震災と地震保険

1995年に阪神淡路大震災が発生しました。この震災での保険金支払額は783億円に上りました。このときの民間保険会社の負担額は721.5億円でしたから、殆どを民間会社が負担しました。当時は、全損に対しては、保険金は建物・家財共に100%の支払でしたが、半損に対しては建物50%に対し家財は10%支払でした。震災後、半損の家財への保険金支払が不足しているとの指摘から、96年から半損の家財に対しても50%の支払いに改正されました。また、加入限度額も建物5000万円、家財1000万円に増額されました。これに伴い総支払限度額は3兆1千億円に増額されました。

その後も限度額の増額が続き、97年3兆7千億円、99年4兆1千億円、2002年4兆5千億円、05年5兆円、08年5兆5千億円と増額され、11年に東日本大震災を迎えます。この間、2001年芸予地震で169億円、04年新潟県中越地震で149億円、05年福岡県西方沖地震で170億円の保険金が支払われており、何れも民間会社のみの負担で支払が行われました。

東日本大震災での地震保険の支払い

東日本大地震が発生した時点では、総支払限度額5兆5千億円のうち民間の負担額は1兆1987億5千万円でした。一方、東日本大震災の保険支払金額は、約80万件に対し1兆2706億円でした。民間が全額を負担する限度額は1150億円で、これを超えた金額は政府と民間で折半しました。2011年3月時点での民間と政府の地震保険の積立金は、再保険会社4244億円、損害保険会社4891億円、政府1兆3427億円で、総額2兆2千億円程度でしたから、保険金の支払いは積立金を崩すことで可能でした。支払額は阪神淡路大震災の16倍もの巨額でしたが、これにより、多くの被災者の生活復興が進んだと思われます。

大震災に対する民間の負担額は6928億円、同年に起きた他の誘発地震も含めると7335億円にも上ったため、震災翌年12年3月の積立金は、再保険会社3312億円、損害保険会社627億円、政府8868億円、合計1兆2808億円と、積立金が激減しました。

地震保険危険準備金の減少に伴う民間負担額の削減

東日本大震災での保険金支払いに伴う民間の積立金の減少に伴い、民間と政府との負担額の関係が大きく変化しました。11年5月には、民間の負担額が7244億5千万円に減額され、さらに12年には総額が6兆2千億に増額したものの、民間負担額は4880億円に減額、さらに13年には2405億円になりました。

この時期に、南海トラフ地震と首都直下地震に対する被害想定が行われ、それぞれ12年、13年末に予測結果が公表されました。甚大な被害予測結果と地震保険契約者の増加を受けて、総支払限度額は、14年に7兆円、16年4月に11兆3千億に増額されました。16年4月の民間の負担額は3098億円でしたが、同月に発生した熊本地震で3621億円の保険金支払(民間負担は2387億円)があったため、10月19日に1822億円に減額されました。さらに、10月21日に鳥取県中部地震が発生したため、17年4月には1732億円に減額されています。

現行の地震保険の制度

地震保険は単独では契約できず、火災保険に付帯して契約する必要があります。ただし、火災保険の保険期間の中途でも地震保険を付帯することができます。損害保険料率算出機構によれば2015年度の火災保険新規契約者のうち地震保険にも加入した割合(付帯率)は60.2%で、宮城県86.2%と高知県84.2%の付帯率が高くなっています。また、全世帯加入率は29.5%で、宮城県51.5%と愛知県39.4%の加入率が高くなっています。2005年度の付帯率と加入率は40.3%と20.1%でしたから、何れも5割も向上しています。

地震保険の保険金額は、火災保険の保険金額に対して、30%~50%の範囲内で設定でき、建物は5,000万円、家財は1,000万円が限度額となっています。地震保険は被災後の生活再建に役立てるための保険ですから、住宅を再建するためには費用が不足することもありえます。このため、損害保険会社では、地震保険を補償する特約保険を独自に用意しています。

地震保険の保険料

地震保険の保険料は、地域区分と構造区分に応じて定められた基本料率を用いて算定されます。2017年1月に地震保険に関する法律の施行令が改正され、現在は、損害区分が全損、大半損、小半損、一部損の4区分になりました。基準料率も見直され、1等地から3等地の3区分の地域、イ構造とロ構造の2種類の構造に応じて基本料率が定められました。

地域区分は地震危険度の差に応じて都道府県別に定められおり、1等地には、茨城、埼玉、千葉、東京、神奈川、静岡、徳島、高知が指定されています。また、構造区分は、イ構造は主として鉄骨・コンクリート造の建物、ロ構造は主として木造の建物が対象になっています。基本料率は、損害保険料率算出機構が算出し、金融庁が認可した地震保険基準料率に基づいて算出しています。

地震保険には住宅の免震・耐震性能に応じた「免震建築物割引」「耐震等級割引」「耐震診断割引」「建築年割引」の4つの割引制度があり、10%~50%の割引がされます。ただし、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づく住宅性能評価書などの確認資料を提出する必要があります。また、地震保険の長期割引制度もあり、1年契約を5年契約にすれば保険料が11%割り引かれます。地震保険の加入促進のため、2007年度より地震保険料の所得控除の制度が導入されています。

詳細は、日本損害保険協会のホームページをご覧ください。

地震保険の支払金額

地震保険の保険金は、損害の程度に応じて支払われます。全損(主要構造部の損害額が建物の時価の50%以上など)に対しては保険金額の100%が、大半損(同40%以上50%未満など)は60%、小半損(同20%以上40%未満など)は30%、一部損(同3%以上20%未満など)は5%の保険金が支払われます。

72時間以内に地震が発生した場合には1回の地震とみなしますが、被災地域が重複しない場合には、1回の地震とは扱わないようになっています。

ちなみに、地震損害に対する補償に関しては、損害保険会社が提供する地震保険に加え、JA共済(全国共済農業協同組合連合会)の建物更生共済や全労済(全国労働者共済生活協同組合連合会)の住まいる共済などもあります。

地震保険だけに頼らない地震対策

先に述べたように、地震保険だけでは住宅の再建はできません。また、総支払保険金額の目安として関東地震の被害金額を想定していますが、南海トラフ地震の最悪の被害想定は、関東地震を上回っています。このため、保険金が不足することも予想されます。南海トラフ地震や首都直下地震では、インフラの復旧などのため多大な財政支出も予測され、我が国政府の対応も十分ではないと想定されます。したがって、このような大規模地震や、地震後の誘発地震のことも考えると、地震保険だけに頼ることなく、自宅の耐震化や家具固定など、安全対策を怠りなくしておくことが必要だと思います。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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