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熊本地震でも問題に 進めたい大切な建物の「耐震化」

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

熊本地震でも明らかになった大切な建物の耐震性

先月、あちこちの自治体で大規模な建築物の耐震診断結果が公表されました。地震災害が起きた後、市町村町の庁舎、病院、体育館などは無くてはならないものです。また、多くの人が利用する施設や、災害時に弱い立場の方が利用する施設、危険物を収容する施設、倒壊すると道路を塞ぐ可能性のある建築物なども早期の耐震化が必要です。これらの建物の耐震診断結果を公表することで、熊本地震でも問題となった耐震化を少しでも促進したいとの意図で行われました。

阪神・淡路大震災で作られた「耐震改修促進法」

1995年阪神・淡路大震災では、約25万棟の住宅・建築物が全半壊し、6,434人もの方が犠牲になりました。このうち地震による直接的な死者数は5,502 人で、約 9 割の 4,831 人の方が住宅・建築物の倒壊等が原因で亡くられました。壊れた住宅・建築物の多くは新耐震基準を満足していない既存不適格建築物でした。このため、震災後、建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)が制定され、1995年12月25日から施行されました。

法律の第一条には、「この法律は、地震による建築物の倒壊等の被害から国民の生命、身体及び財産を保護するため、建築物の耐震改修の促進のための措置を講ずることにより建築物の地震に対する安全性の向上を図り、もって公共の福祉の確保に資することを目的とする。」と記されています。

新耐震基準は1981年6月に導入されましたので、既存不適格建築物は1981年5月以前に建築確認を受けたものになります。法律では、既存不適格建築物のうち、学校、病院、ホテル、事務所など多数の人が利用する建物で、3階建以上でかつ床面積が1,000平方メートル以上の建築物を「特定建築物」と定義して、所有者に現行耐震基準と同等以上の耐震性能を確保するよう耐震診断や改修に努めること(努力義務)を課しています。

建築物の耐震化緊急対策方針を受けた2006年の改正

中央防災会議は、東海・東南海・南海地震や首都直下地震の被害想定結果や、2004年中越地震、2005年福岡県西方沖地震などでの被害を受けて、2005年9月に「建築物の耐震化緊急対策方針」を策定し、当時75%程度だった耐震化率を10年間で90%にすることを目標として掲げました。これを達成するために、2006年1月26日に耐震改修促進法が改正・施行されました。

改正によって、国土交通大臣は耐震化促進の「基本方針」を策定することになり、都道府県や市町村は「基本方針」に基づいて「耐震改修促進計画」を策定する必要ができました。また、「特定建築物」として、多数の者の円滑な避難に支障となるおそれがある建築物(「都道府県又は市町村が指定する避難路沿道建築物」)や、幼稚園、小中学校、老人ホーム等が追加され、規模要件も引き下げられました。

東日本大震災を受けた2013年の改定

2011年東日本大震災や南海トラフ巨大地震に対する被害想定結果を受けて、2013年11月に再び耐震改修促進法が改正・施行されました。大きな改正点は、耐震診断や耐震改修の努力義務の対象建物(「特定建築物」)を全ての既存不適格建築物に拡大し住宅や小規模建築物も加えたことと、不特定多数が利用する大規模施設や避難弱者が利用する建物などに対して耐震診断を義務化しその結果を公表することを定めたことの2点です。合わせて、計画認定の緩和や、容積率、建ぺい率の特例措置、耐震性に関する表示制度の創設、マンションなどの区分所有建築物の耐震改修の決議要件の緩和などの促進策なども盛り込まれました。

耐震診断の努力義務が、義務・公表になったことは大きな前進です。耐震診断の義務づけ・公表対象の建築物は、「要緊急安全確認大規模建築物」と「要安全確認計画記載建築物」に分類されています。これらに対しては、診断や改修のための助成制度が整備されています。

「要緊急安全確認大規模建築物」とは

「要緊急安全確認大規模建築物」は、病院、店舗、旅館等の不特定多数の者が利用する建築物及び学校、老人ホーム等の避難弱者が利用する建築物のうち大規模なものと、一定量以上の危険物を取り扱う貯蔵場、処理場のうち大規模なものが対象になっています。規模については、幼稚園や学校などの一部の用途を除くと延床面積が5000平方メートル以上になっていますから、相当に規模の大きなものに限定されています。

所有者は、2015年12月31日までに所管行政庁に報告することが義務付けられました。また、自治体は、結果をまとめて、建築物の概要(名称、位置、用途等)、耐震診断結果、耐震改修等の予定について、インターネット等で公表することになりました。先月に多くの自治体から相次いで公表されたのがこの結果です。例えば、愛知県の結果は、愛知県建築局住宅計画課のホームページから閲覧することができます。

結果を見てみると、老舗の商業施設やホテル・旅館、大規模病院、ボウリング場、工場などが含まれていて、ちょっとびっくりします。多くは今後改修や改築が行われる予定がありますが、未定の物件も存在しています。

「要安全確認計画記載建築物」とは

一方、「要安全確認計画記載建築物」は、緊急輸送道路等の避難路沿道建築物と、防災拠点建築物が対象になっています。避難路沿道建築物は、都道府県又は市町村が指定した避難路(緊急輸送道路など)の沿道建築物で、倒壊した場合に前面道路の過半を閉塞する恐れのある建築物(高さ6m以上)などです。また、防災拠点建築物は、都道府県が指定する庁舎、病院、避難所となる体育館などの建築物で、避難所として利用する旅館・ホテルについても位置づけが可能になっています。こちらの建築物については各自治体が定める日までに報告・公表されることになっています。例えば、私が住む愛知県の場合には2019年3月末までに報告する必要があるようです。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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