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ガスの地震対策、できていますか? 自由化後も事業者は「助け合い精神」を

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:アフロ)

都市ガスの地震被害

オール電化住宅が増えているとは言え、ガスは炊事や入浴など、私たちの生活には欠かせないものです。現在は、需要家の半分強が都市ガス、半分弱がプロパンガスを利用しています。プロパンガスは、災害による影響は比較的小さいですが、都市ガスは、導管が途絶すると同時に多くの人たちが影響を受けます。ガス導管は地中に埋設されていることもあり、一度被災すると、復旧には時間がかかります。このため、阪神・淡路大震災では、復旧に3ヶ月を有しました。

ガス供給エリアのブロック化

阪神淡路大震災の反省の下、ガス業界では、ガスの供給エリアを小ブロック化し、それぞれのブロックに地震計を設置して、強い揺れを観測した場合には、小さなブロックごとに供給停止し、被災エリアを最小化するという作戦を立てました。その結果、大手ガス会社は、膨大な地震観測網と高度な災害情報システムを備えた最新の災害対応体制を整えることになりました。

助け合いの力の強いガス事業者、自由化後は?

ガス業界は、一般ガス事業者だけでも209社もあります。東京ガス、大阪ガス、東邦ガスなど一部のガス事業者を除くと小規模の事業者が多いのが現状です。地震災害が発生すると地元事業者の力だけでは限界があるため、全国のガス事業者が被災地に助けに行くオールジャパンの助け合い体制が整っています。来年4月に予定されている都市ガス小売自由化後も、この助け合いの精神が残り続けることを望みます。

液化天然ガス

都市ガスの原料は液化天然ガス(LNG)です。2012年度のLNGの輸入量は約8000万トンになります。このうち、火力発電所の燃料に約2/3が使われており、都市ガスに利用されているのは1/3程度です。都市ガスのうち家庭用に使われているのは3割程度で、残りは工場などで使われています。LNGはLNG船で運搬します。8万トン程度の積載量であれば1年間の輸入量は1000隻分に相当します。従って、毎日3隻程度のLNG船が日本にきていることになります。

液化天然ガスの備蓄と航路

LNGは大規模地下タンクなどに蓄えられますが、タンク容量は、概ね、LNG船1隻分です。例えば、私が居住している名古屋では東邦瓦斯が供給していますが、年間840万トン程度の供給量で、100隻程度が名古屋港に入港し、大規模な地下タンク2基などに蓄えています。ですから、ガスの備蓄量は1~2週間分と見込まれます。従って、大規模地震後、短期間に航路啓開ができないと、ガス供給が滞ったり、火力発電所が稼働できなくなります。また、LNGから都市ガスを作るには電気や水などの供給が必要になります。いざというときのために、カセットコンロやカセットボンベを備蓄しておくと良いでしょう。

都市ガスの新たな活用

ガスを利用した燃料電池が普及し始めています。私も利用者の一人ですが、蓄電池と組み合わせることで、停電時にも通常通り発電を続けることができ、停電対策の一つの手段として、災害時にも役に立ちます。水素社会の到来で、大切な用途になるかもしれません。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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