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見えてきた各党の違い~科学・技術政策アンケート回答公表

榎木英介病理専門医&科学・医療ジャーナリスト
政策をしっかりみてから投票しよう(ペイレスイメージズ/アフロ)

アンケート回答発表

 前回の記事「2017年総選挙 各党の科学・技術政策は?」では、各党の公約を比較した。残念ながら、科学・技術政策に関することを公約に書く党は多くはなかったため、各党の政策を十分に比較することはできなかった。

 そこで、私が代表を務めるサイエンス・サポート・アソシエーションは、日本の科学を考えるガチ議論Science Talksとともに、科学・技術政策に関するアンケートを作成し、各党に送付した。

 自由民主党・公明党・日本維新の会・幸福実現党・立憲民主党・日本共産党からご回答をいただいた。政策担当者の方々に御礼申し上げる。

 詳細はScience Talksのページ「【衆院選2017】科学技術政策アンケート 各政党の回答を公開」にあるので、ぜひご覧いただき、投票の参考にしていただきたい。

 本稿では、各党の回答を分析したい。

予算はどうする?

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 まず、予算や研究の方針に関する各党の方針をみてみよう。

 予算に関しては、多くの党が増額と言っている。ただ、選挙では予算を増やすという党が多いだろうと思い、様々な政策課題に対する予算と科学・技術政策関連予算のどちらが大切かを聞いている。財源が限られているときに、科学・技術関連予算をどこまで重視するのかをうかがうためだ。

 自民党、維新、立憲民主は優先を述べていない。公明党は社会保障費(年金、介護、医療)、初等・中等教育費、高等教育費が優先すると述べる。幸福は国防・軍事費が優先と述べる。共産は科学・技術関連予算と社会保障費(年金、介護、医療)、初等・中等教育費、高等教育費、宇宙開発費が同じ優先順位であると回答した。

 科学・技術予算における基礎研究の割合は、自民党が現状維持、立憲民主が選択と集中を図るべきと回答。その他の政党は基礎研究割合を増やすと述べる。

 これに関連して、科学・技術予算内での優先順位を尋ねた。

 自民と立憲は順位を述べていない。公明は「新たな産業創出・社会変革をもたらす総合的な科学技術分野」、基礎科学 エネルギー科学の順。維新は医学・生命科学、基礎科学、エネルギー科学の順。幸福は防災、原子力、エネルギー科学の順。共産は基礎科学一択。

 軍事研究については、図の通り回答が明確に分かれた。

 研究の方向性について、政府主導(トップダウン)か、大学、研究機関主導かについては、幸福、立憲、共産が大学、研究機関主導と回答。

提案に各党はどう答えた?

 ガチ議論が提案している「競争性を担保した安定した基盤的研究費の導入」、「安定性と競争性を担保する日本版テニュアトラック制度」の可否を尋ねた。維新、幸福、立憲民主が積極的導入、共産が前向き、自公も検討課題にあげている。

 これらの回答をみると、政党に対して積極的かつ説得力のある提案をすることが効果的である(少なくとも議論の端緒になる)ことが分かる。

 このほか、ここ15年間の科学技術分野の「人づくり」の政策は、野党は改革必要と回答、一方与党は「その他」と回答。卓越研究員制度の制度設計は立憲と共産が大幅見直し必要、他の党も多少の見直し必要と回答した。

争点は?

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 その他の質問は上の通り。目につくのが、野党は研究不正を調査する独立機関の必要性に賛成し、与党は慎重だという点だ。

 このように、私たちの質問の回答をみてみると、当たり前ではあるが、与党は現状の政策を是認し、野党はそれに対して異議を唱えることが多いという構図が分かる。与党は様々な提案に対し簡単には賛否を言わない。現在政権を担っている責任からなのか、消極的な姿勢なのかは、読者の判断にお任せする。

 このなかで、政府主導、課題優先の与党を中心とする党と、大学主導、基礎研究、研究者の自由を重視する党に分かれている印象であり、一つの争点といえよう。野党でも維新などは、政府の政策をさらに強化するという姿勢、共産や立憲民主は政府の政策に慎重なことが多い。

 以上、回答を抜粋した。詳細はぜひ回答原文(「【衆院選2017】科学技術政策アンケート 各政党の回答を公開」)をお読みいただきたい。研究者にとって都合のよい政策が、市民にとって都合がよいかは別な場合もあるので、皆さんがそれぞれの立場で政策を比較してほしい。

 科学・技術政策は選挙の争点になっていないが、それでも各党に違いがある。また、立憲民主を中心に、選挙後に考えるという党も多い。

 選挙が政策に関与する唯一の方法ではない。意見を述べると同時に、積極的な提案も重要だ。研究者、そして科学・技術に関心のある市民の皆さんの行動に期待したい。

 

病理専門医&科学・医療ジャーナリスト

1971年横浜生まれ。神奈川県立柏陽高校出身。東京大学理学部生物学科動物学専攻卒業後、大学院博士課程まで進学したが、研究者としての将来に不安を感じ、一念発起し神戸大学医学部に学士編入学。卒業後病理医になる。一般社団法人科学・政策と社会研究室(カセイケン)代表理事。フリーの病理医として働くと同時に、フリーの科学・医療ジャーナリストとして若手研究者のキャリア問題や研究不正、科学技術政策に関する記事の執筆等を行っている。「博士漂流時代」(ディスカヴァー)にて科学ジャーナリスト賞2011受賞。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。近著は「病理医が明かす 死因のホント」(日経プレミアシリーズ)。

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