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《2023ドラフト候補》指名漏れの悔しさから進化!NPB戦で無類の強さを誇る156キロ右腕・松原快

土井麻由実フリーアナウンサー、フリーライター
富山GRNサンダーバーズ・松原快(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)

■対NPBとの試合で実力を誇示

 まるで別人だ。昨季と同じ投手には、とうてい見えない。それほど格段にバージョンアップしているのが、富山GRNサンダーバーズ松原快投手だ。

 今季は登録名もファーストネームの「」に変え、様変わりしたピッチングを見せている。

 まず、マウンドでの立ち姿からまったく違う。堂々としており、顔つきには自信があふれている。

 そして肝心の成績も、ここまで公式戦25試合で29回1/3を投げて失点はわずかに3点、防御率は0.92だ。タームをまたいで17試合連続無失点を記録するなど、抜群の安定感を誇る。

 三振奪取能力も高く、奪三振率は10.13を記録している。

 さらに特筆すべきは、対NPBの成績だ。今季は北海道日本ハムファイターズ千葉ロッテマリーンズ中日ドラゴンズ阪神タイガース埼玉西武ライオンズ、それぞれのファームと対戦した。

 計6試合の登板で9イニングスを投げ、無安打12奪三振自責点は0だ。

 とくに7月のタイガース戦では、1軍経験も豊富な板山祐太郎選手を二ゴロ、熊谷敬宥選手を見逃し三振に仕留めるなど、2回を投げてパーフェクトに抑え、手応えを深めた。シンカーが有効だった。

 ファームチーム相手とはいえ、NPBで通用するであろうことは十分に示したといえる。(数字はいずれも9月19日現在)

富山GRNサンダーバーズ・松原快(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)
富山GRNサンダーバーズ・松原快(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)

■指名漏れ後すぐ、ノートに書き込んだのは…

 なぜ快投手はここまで進化できたのか。

 昨年はドラフト候補に挙げられ、NPB4球団から調査書が届いたものの、ドラフト会議では涙を呑んだ。「今年こそは、なんとしても」―。その強い思いが、快投手を別人のようにグレードアップさせている。

 進化の物語、その始まりは昨年のドラフト会議直後だった。自身の成長を年々実感してきた快投手は、そこであきらめる気はさらさらなく、むしろ今後の上積み次第で来年は行けるという手応えがあった。だから、すぐに切り替えることができたという。

 「4球団しか評価してもらえなかった。12球団すべての調査書がもらえるくらいの選手にならなければ」と考え、まず着手したのは自身の改良点をノートに書き込むことだった。

 「指名漏れして、もう速攻書いたっすね。『書こう!』って思ったんですよね、なぜか」。

 書いた内容を要約すると、5つの項目に分けられる。

1.最速151キロから155キロへと球速アップ。

2.ストレートの質を上げる。

3.変化球の種類を増やし、精度を上げて使えるボールにする。

4.コントロールの改善。

5.マウンドでの姿。

 こみ上げる悔しさを、書くことで前向きなエネルギーに変えた。

富山GRNサンダーバーズ・松原快(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)
富山GRNサンダーバーズ・松原快(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)

■トレーナーとの出会い

 次に具体的な取り組みだ。書いたことを実現するため、昨年11月からあるトレーナーに師事した。その人の名は萩原淳由氏。かつてサンダーバーズでプレーした投手で、つまりは快投手にとって先輩にあたる。

 たまたま紹介されて萩原氏のトレーニングを受けることになったが、なんと萩原氏もサンダーバーズ時代には同じ背番号20番を背負っていたという。また、快投手の母校である高朋高校野球部にも指導に行っているというから、深い縁を感じずにいられなかった。

 大阪の羽曳野市にある萩原氏のジム「Rebirth(リバース)」でトレーニングを受けると、「自分がこれまでやってきたトレーニングの数倍しんどかった。今までの自分は甘かったというのは、すごく実感しましたと」と、“やっているつもり”だった自分を恥じた。

 さらに驚いたのは、読売ジャイアンツ大勢投手も同ジムの門下生だということだ。常々大勢投手に注目し、彼のトレーニング動画をよく見ていた快投手は、「これだけのトレーニングをやったからこそ新人王を獲れたのだ」と納得し、自身も萩原氏のもとで追い込んでいく決意をした。

富山GRNサンダーバーズ・松原快(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)
富山GRNサンダーバーズ・松原快(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)

■自主トレで得たこと

 今年1月には、リバース開催のNPBの選手たちを中心にした自主トレにも参加した。沖縄でともに汗を流したのは大勢投手をはじめ、その同僚の鈴木康平投手、オリックス・バファローズ近藤大亮投手、阿部翔太投手ら総勢13人で、ここで強烈な刺激を受けた。

 「NPBの選手って、トレーニングをしていてもやっぱり強い。自分が結果を出すために、すごく貪欲だなっていうのも感じました」。

 こういう人たちが活躍する舞台に、自分も早く上がって戦いたいという思いを強くした。

 さらに同い年の大勢投手には、どんどん質問をぶつけた。フォークの握りを教わったり、マウンドでの心境を訊いたりした。

 「何も考えずに投げてる、と。たとえば肘を上げてとか、開かないようにとか、肩を前に出してとか、そういうフォームを意識するんじゃなく、トレーニングでやってきたことだけを意識してるって言うんです」。

 つまりトレーニングで体に使い方を覚え込ませれば、フォームを意識せずとも“勝手に”いいフォームで投げられるということだ。

 「だから、トレーニングを辞めちゃうと前の自分に戻っちゃうって思うし、続けないと結果が出ないので、しんどくても頑張れるんです。トレーニングすることで勝手に変わっていくことを実感しましたし、ボールに力が伝わってるなっていうのは感じます」。

 やっていくうちに、快投手も大勢投手が言っている意味を理解でき、自身もしっかりトレーニングを継続することができている。

富山GRNサンダーバーズ・松原快(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)
富山GRNサンダーバーズ・松原快(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)

■萩原流のトレーニングとコンディショニング

 萩原流のトレーニングを、快投手はこのように説明する。

 「一つ一つの方法が繊細な部分までこだわるというか、細かいところまでやるんです。たとえば足の小指の先まで意識するくらい細かいところまでつきつめて、それと並行して体を整えるコンディショニングを行います」。

 体のいたるところ、細部まで自分で思いどおりに操れるように作り上げ、整える。そうすることで、どのように体を使えば力を伝えることができるのか、自分で意識してできるようになる。

 快投手も自分では使えていると思っていた下半身が、まったく使えていなかったことに気づかされた。今ではどうすれば使えるのかも理解し、体現できるようになったという。

富山GRNサンダーバーズ・松原快(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)
富山GRNサンダーバーズ・松原快(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)

■ストレッチに時間をかける

 さらに今年は、今まで以上にストレッチもたいせつにしている。萩原氏から教わったストレッチを練習前に30分、練習後に30分、試合で投げたあとは40分、じっくり時間をかけて「足先から首元まで」丁寧に行う。

 「元々疲労を感じにくい体質だけど、時間をかけてストレッチをすることで体がよくなっていくのがわかります」。

 連投をしても、この直伝のストレッチをすることで、前日よりいい状態で臨めている。

富山GRNサンダーバーズ・松原快(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)
富山GRNサンダーバーズ・松原快(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)

■姿勢よく、打者を観察

 トレーニング、コンディショニングで見た目にも大きく変わった。胸を張り、姿勢がピーンと伸びている。

 「去年までは前傾だったり猫背になったりしてましたよね。最初に、姿勢をまずよくしていこうって言われました。体を整えてから、すごく変わったって自分でも思います。マウンドでだけでなく、日ごろの行動や歩くときも、姿勢は常に意識していますね」。

 それがピッチング自体にも好影響を与えているし、威風堂々とした姿は精神的にも相手打者を威圧している。さらに、やれるだけのことをやってきたという自信も加味され、動じない落ち着きを与えている。

 「今は相手が見えている。バッターをしっかり観察することができているから、余裕がある」。

 フィジカルとマインドがいい相互作用をし合って、いい結果を生んでいる。

富山GRNサンダーバーズ・松原快(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)
富山GRNサンダーバーズ・松原快(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)

■5つの課題を検証

 さて、昨年のドラフト後に掲げた5項目の課題を検証してみると…

1.最速は156キロ。9月19日のライオンズ戦でマーク。

なにより平均球速が2~3キロ上がり、安定して150キロオーバーのボールが投げられているのが成長の証しだ。

2.力が伝わったストレートは、打者をしっかりと差し込んでいる。

「苦しそうなファウルを取れているし、空振りも増えました」と、明らかな球質の変化を実感している。

3.変化球については、昨年使えたのはスライダーのみでシンカーは見せ球だったが、今年はしっかり使える球として機能している。

7月のタイガース戦ではシンカーを使って打ち取り、有効であることを確信した。カウント球としても空振りを取る球としても使えている。

さらにスライダーも、従来の曲がりが大きいものに加えて小さいものを習得し、2種類を使い分けている。今年は配球のバリエーションがかなり広がった。

4.昨年とは段違いに制球力が上がった。

開幕戦こそ、地元(黒部市)登板の気負いからか1イニングに2コの四球を出したが、その後はイニングあたり複数の四球を出すことはなく、ここまで29回1/3で9コだ。3ボールになっても落ち着いて抑えている。

5.マウンドでの姿は先述したとおりで、「打てるものなら打ってみろ」という気持ちで向かっていっている。

「やっぱりバッターより上に立たないと」と、メンタル面で大きく変化したという。

 自身で掲げた課題をすべてクリアしたが、その根底には「絶対にNPBに行く」という強い意志と、コツコツと続けてきた努力がある。

 誰にでもできるものではないし、簡単に到達できることでもない。

富山GRNサンダーバーズ・松原快(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)
富山GRNサンダーバーズ・松原快(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)

■今年、運がいい

 快投手と話していると、たびたび「今年、運がいいんですよ」という言葉が出てくる。そう自覚することで、またそれを口にすることで、さらに運気が上昇しているようだ。

 もちろんそれは、しっかりとした“地力”が伴っているからこそではあるのだが。

 そしてその強い運は、さまざまな縁を引き寄せている。きっとNPB球団との縁も引き寄せると信じている。

富山GRNサンダーバーズ・松原快(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)
富山GRNサンダーバーズ・松原快(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)

【松原快(まつばら かい)】

1999年8月24日/富山県黒部市

180cm・82kg/右・右

高朋高校―ロキテクノ

最速156キロ

2種類のスライダー、シンカー

【松原快*今季成績(公式戦)】

25試合 29・1/3回 5勝0敗

被安打16 奪三振33 与四球9 与死球4

失点3(自責3) 防御率0.92 奪三振率10.13

【松原快*今季成績(対NPB)】

6試合 9回

被安打0 奪三振12 与四球5 与死球1

失点2(自責0) 防御率0.00 奪三振率12.00

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フリーアナウンサー、フリーライター

CS放送「GAORA」「スカイA」の阪神タイガース野球中継番組「Tigersーai」で、ベンチリポーターとして携わったゲームは1000試合近く。2005年の阪神優勝時にはビールかけインタビューも!イベントやパーティーでのプロ野球選手、OBとのトークショーは数100本。サンケイスポーツで阪神タイガース関連のコラム「SMILE♡TIGERS」を連載中。かつては阪神タイガースの公式ホームページや公式携帯サイト、阪神電鉄の機関紙でも執筆。マイクでペンで、硬軟織り交ぜた熱い熱い情報を伝えています!!

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