石川ミリオンスターズのホーム開幕 石川の期待の星たち(日本海リーグ)
■待ちわびた石川のホーム開幕
石川県民は、ミリスタファンは待っていた、この日をー。
独立球界再編により、富山GRNサンダーバーズとともに新たに日本海リーグを立ち上げた石川ミリオンスターズ。ホーム開幕は例年より約1ヶ月遅れの5月5日となったが、待ちに待った“球春到来”に1,751人が期待に胸をふくらませて金沢市民野球場のスタンドを埋めた。
オープニングセレモニーで石川球団の端保聡社長は、「17年目のシーズン。日本で一番小さなプロ野球のリーグ、まずは選手が一生懸命プレーをお見せする。いずれは海を越えて、大きなリーグに育てていきたい。そして、この秋のドラフトにも注目して見てください」とあいさつをした。
天候にも恵まれ、学童野球チームも37チーム(1,015人)がユニフォーム姿で訪れ、プロのプレーに大歓声をあげていた。「こどもの日」ということもあり、国歌斉唱や始球式、トップバッターアナウンスやボールボーイ、バット引きも学童たちが務めた。そこには在りし日の風景があった。
◼️5月5日 金沢市民野球場
◆ランニングスコアとバッテリー
富山 020 001 000=3
石川 210 002 30×=8
富山…松向(4)・横井(1)・●大島(1)・日渡(1)・林(1)―大上
石川…〇村上(6)・土田(1)・井澤(1)・田中(1)―森本
◆経過
開幕3戦目。”リーグ初“が続出する中、ようやく第1号が飛び出したのは石川の初回だった。一塁にランナーを置いて4番・高木が143キロを左中間に運んだ。
すると、富山も黙っていない。二回表、同じく高野の2ランですぐに追いつく。
その裏、2死一、二塁から川﨑のタイムリー二塁打で石川が加点すると、またもや富山が武部のタイムリーで同点とした。
勝ち越したのは六回裏の石川だ。満塁のチャンスで川﨑がこの日2本目のタイムリーを放ち、山内が犠飛で続いた。七回にも大谷の2点打と森本の初タイムリーで3点を追加した石川が、今季初勝利を収めた。
■後藤光尊監督(石川)に聞く
◆村上史晃について
開幕戦に続いてホーム開幕の先発を託した村上史晃投手の投球には「力みがなかった」と、安堵感を見せた。
「先週の開幕戦では力んで、まっすぐで空振りが取れていなかった。今日は全力ではなく、力の入れ方や抜き方がよかった。本人にとっても収穫だったんじゃないかな」とうなずく。「これからまだまだ球速もコントロールもよくなる部分はあると思うので、期待したい」。
先発の柱として、さらなる伸びしろを見出していた。
◆高木海について
「あのホームランで注目を一身に集めた。高木本人にとってもよかったし、球場全体の雰囲気をつかむには最高のスタートになった」と、第1号本塁打の高木海選手を讃えた。
スタンドの子どもたちにも「ホームランバッター」と認識され、高木選手の2打席目以降には「ホームラン!ホームラン!」というかけ声が飛んでいた。それには「本人にとってもいい意味でプレッシャーになる。今後につながる」と後藤監督も歓迎する。
高木選手への期待度を訊くと「打順です」と一言。開幕から4番に据えていることが答えだ。期待するがゆえに課題も挙げる。速球への対応である。「速いピッチャーを普通に打てるようになってほしい」と注文をつける。
速球対策については「慣れ。練習でも速いボールを打つように」と、ウレタンボールを至近距離から投げてもらってさばくなど、練習方法も伝授している。
昨季後半に途中入団ながら打撃でチームを牽引した高木選手に、今季は打線の核としての働きを課す。
◆川﨑俊哲について
この日の2本のタイムリーと四球は、川﨑俊哲選手ならできて当然だと、後藤監督はとくだん褒めることはしない。下位打線で作ったチャンスを、1番の川﨑選手が還してくれることは計算済みだ。
「ある程度、勝負できるものは持っている」という川﨑俊哲選手に今年、望むのは「精神的な成長」だ。そこで今年は副キャプテンに任命した。
その力量は把握している。年々成長しているのも、ずっと傍らで見てきた。それだけに歯がゆい思いもあった。だから「立場があったほうが責任感が生まれる」とし、「今年1年、どれだけ自分の人生を懸けてできるかっていうだけだと思います」と、追い込んでいる。
応えるかどうかは川﨑選手次第だ。
◆大谷和輝について
今季初の3安打を記録した大谷和輝選手だが、「結果は出たけど、ちょっと不満」と手放しでは讃えない。「今日なんかは“苦しまぎれの”というふうに、僕はとらえます。まだまだまっすぐに差されているので」と手厳しい。
とらえたのが3本とも変化球だったことに「まっすぐを弾いてほしい」と、注文をつける。「彼に求めているところは長打。それは去年終わった時点で本人にも話をしている」と、持ち味を出してくれることを願っている。
◆土田励について
公式戦デビューを1回無失点で飾った18歳ルーキーについて、後藤監督は「よかったね」と、うれしそうに振り返る。
「オープン戦、誰よりも内容がよかった」とコントロールのよさを挙げ、「今日は最初、緊張してフォアボールは出したけど」と、その心境を慮った。
最速は130キロに満たない。しかし「ベース板で強いんですよ。だからまっすぐで差せる」と、その“ノビ”に目を丸くする。ピッチングはスピードではなくコントロールだということを再認識させてくれる投手だ。
「おもしろい存在。まっすぐで差せるし、チェンジアップで泳がせることができる。うまいですよ」。
今後、体が作られ、どのように成長していくか、非常に楽しみな逸材だという。
◆森本耕志郎について
高校を卒業したばかりのルーキーに初のスタメンマスクを任せたのは、「キャッチャーというのは経験がすべて。ホームの開幕って年に1回しかないので、こういう緊張するところを味わわせたかった」と明かす。それだけのポテンシャルを認めているからだ。
「練習やキャンプを通じて見てきて、すごく頭のいい子だなと。落ち着きもあるし、スローイングもいいタイムで投げられる」。
捕球してから二塁までの到達は1.8秒台を記録したこともあり、常時1.9秒台と安定している。さらに打撃でも「駿台甲府高で3番、4番打っていた。高校通算20本以上打ってるし」というスラッガーで、この日も初ヒットを含む2安打をマーク、うち1本はタイムリーと勝負強さも見せつけた。
今年の石川の捕手は、昨年主戦だった植幸輔選手に新人(森本耕志郎、吉村将)が加わって3人体制だ。切磋琢磨して、それぞれが成長してほしいと願っているという。
■各選手のコメント
◆村上史晃
6回3失点で今季初勝利を挙げた村上投手は、「先週の開幕戦は緊張感もあって硬かったかな。今日は力んで力いっぱい投げるより、9回投げきるとか、打たせて取るとか、なるべく0でいけるよう投球配分を考えて投げた」と充実感を漂わせる。
2連敗で迎えたこの試合は絶対に勝たねばならないと「自分の欲を抑えて勝ちにこだわった」と、エースとして9回をどう抑えるかのプランを組み立てた。その結果、冷静に相手打者を観察し、ほどよい力感でストレートも変化球もうまく操ることができ、二回から三回にかけて4連続奪三振をマークした。
ちなみに「三者連続三振賞」を受賞し、その副賞のもつ鍋セットに「おいしくいただきます」と笑顔を見せていた。
バッテリーを組んだルーキー・森本捕手について「若いけど落ち着いている。サインとかも練習から意思疎通ができていて、やりやすいキャッチャー。頭がいい」と評し、配球も任せたという。
クラブチーム時代は、選手を教える仕事もしていた。投手の球速アップのメソッドを作って資料提供をしたり、直接指導もしていた。そんな中、自身の体も調整していくうちに能力がどんどん上がっていった。そこで力試しに独立リーグのトライアウトを受け、石川で3年目を迎える。いわば自分の体を使った“人体実験”で、その目指す方向はNPBだ。
「自分で投げているのは見えないから(自分で)自分の能力を上げることは、人に教えるとか人の体を調整するより難しい。客観視しないといけない。でもその中で体の調整をしながら、毎日いろいろ試している」。
安定して結果を出せるよう、さらに自己最速を現在の149キロから大台に乗せられるよう、日々鍛錬を積んでいるところだ。
チームではエースとして頼りにされているが「勝ち頭となれるように結果をちゃんと残せるピッチャーになることと、150キロを超える球を継続して投げられるようになりたい。その目標を達成してNPBに行けるよう、やりきりたい」と誓う。
それはすなわち、自分のピッチングを極めることだと、村上投手は語る。
◆高木海
自身の今季第1号がリーグ第1号という記念の一発になった。「(ボールに)当たった瞬間、いったな、と。っしゃ~って(笑)」と笑顔を炸裂させる。
初対戦の松向輝投手に対して「球が速いって聞いてて、まっすぐ勝負だと思って打ちにいった」と初球の143キロを左中間に運んだ。スタンドから聞こえる「ホームラン!」「ホームラン!」のかわいい声が、「まじ、うれしいですね」と力になったようだ。
昨年は途中入団したため規定打席には乗らなかったが、24試合出場で打率.378、出塁率.447、長打率.549とトップクラスの成績を残した。今年も「4割、20本」の目標を掲げる。「期待に応えたい」と4番に抜擢されたことも意気に感じている。
打撃だけではなく、「今年からサードなので、速い打球を軽快にさばきたい。ボディで止めてでも…」と守備にも磨きをかける。
愛知産業大学からクラブチームのJグループに入るも、数か月で独立リーグに移ったのは、「育成指名であってもNPBに行きたい」との決意からだ。今年は開幕からアピールすることができる。
なんとしてもスカウトの目に留まるよう、すべてのプレーで訴えかけるつもりだ。
◆川﨑俊哲
2本のヒットはいずれも勝ち越しタイムリーだった。1本目はフルカウントから、変化球に対してしっかりタメて打ち二塁打に、2本目も8球目のストレートをしっかりとらえた。
初回の第1打席も四球を選び、1番としての役割を果たした。「みんながランナーをためてくれて、そこで1本出せたのは力になれたのかなと思っています」と充実感をにじませる。
今年は副キャプテンに就いた。キャプテンの山内詩希選手とはフォローし合いながら、チームに目を配る。雰囲気がよくないなと思ったら、ミーティングを開くこともしばしばある。とくに高校卒業してすぐのルーキーたちには、積極的に声をかける。
「僕も1年目から開幕で使ってもらった。森本も今日、初スタメンだったので緊張するのはあったと思うので、プラスの声かけをどんどんして…。僕も先輩にしてもらってきたので」。
同じ立場の後輩の気持ちはよくわかる。自分がしてもらってありがたかったことは、後輩にも継承する。
1番打者として、先頭で出塁することは常に意識している。安打はもちろんだが、四球を選ぶことも重要だ。
「僕、初球からガンガン打っていくタイプなんですけど、追い込まれたらバッティングスタイルを少し変えたり、フルカウントまでもっていって粘って粘ってフォアボールっていうのは取り組んでいます」。
積極的に打つ姿勢はもちながら、きわどいところはカットしながらカウントを作る。簡単に終わることだけはしたくないと表情を引き締める。
毎年NPB入りを目標に掲げて4年目になる。「持ち味はバッティングだと思っている。それと守備面での正確性を上げたい」と言い、「スカウトの目に留まるようなオーラをどれだけ出していくかだと思っています」と意気込む。
「堂々としたプレーだったり、声を出したり、結果だけじゃなくて練習からしっかり力をいれてやっていきたい」。
これまで以上のプレーで、スカウト陣の目を惹きつける。
◆大谷和輝
昨年5月5日の猛打賞に続いて、奇遇にも同じ日に3安打した。「富山のピッチャー陣はいいので、受け身にならないようにと考えて打席に立った」と振り返ったあと、「でも長打が欲しかった…」と付け加えた大谷選手。自身のアピールポイントはわかっている。
そして3安打がすべて変化球だったことも、納得していない。「松向(輝)さんのまっすぐが弾けなかったのは課題。ネクストより打席に立ったほうが速く感じたんで、それを打ち返さないと」と反省する。
昨年のシーズン終了後、一から体を作り直した。11月からはバットとボールを握らず、トレーニングに打ち込んできた。「体重が6キロくらい増えて、98キロになりました。やっぱり飛びますね」とニンマリする。増量しただけでなく、体の使い方を片田敬太郎コーチから学び、それが打球にも顕れている。
意識しているのは胸郭の動きだという。「肩回りを中心にトレーニングして、なおかつ下半身は走り込んで、それをどうやって使うか。練習ではいい打球が飛んでいるんで、あとは試合で力強いまっすぐを弾き返せたらいいと思います」。
今年は周りに惑わされず、自分を信じてやっていきたいと決意を明かす。
◆土田励
初登板は緊張したという。「オープン戦とは観戦している人数も違って、高校野球とも全然違う風景というか…。緊張すると思ったけど、やっぱり緊張してしまった」。制球力がウリだが、先頭の津嶋啓司選手を4球で歩かせてしまった。
しかし、ここからは本領発揮だ。「緊張もほぐれて、自分の持ち味を出していけたかな」と、源氏選手を122キロのストレートでセカンドライナーに打ち取り、松重恒輝選手はライトフライに仕留めた。ここで飛び出した一走が刺されて併殺が完成。なんと結果的に3人で終えた。
「球威がないからこそ緩急をつけるのと、コントロールが一番の武器」と、ストレートは130キロに満たないながらも80キロ台のカーブなどで緩急を駆使し、ほかスライダーやカットボール、フォーク、チェンジアップなども精緻なコントロールで操る。
また、先頭の四球でズルズルと崩れないのは、メンタルの強さだと自負する。「高校時代からメンタルは鍛えてきたつもり。そこは誰にも負けていないかなっていうのはあります」と強気な表情で語る。
普段の練習から試合を意識して投げ込む。試合形式の練習でもピンチを作ってしまったあと、どう抑えるのかを考えてきた。それを繰り返したことで、緊張しても自分のフォームをしっかり修正できるようになったと明かす。
大学進学は選択しなかった。「たとえば2年生でよくてドラフト候補と言われても、4年生まではプロに行けない。でも独立リーグなら1年でも行ける」と、小学生のころからお父さんと観戦していた石川に入団した。
「小学生のとき、選手とキャッチボールをさせてもらったり、チームで国歌斉唱もさせてもらった。印象に残っている選手はアウディ・シリアコ選手。ずっと応援していた」。
かつては憧れる立場だったが逆になり、今度は自分が憧れられる番だ。自身が所属していたチームの学童だちも見にきてくれていた。残念ながら「途中で帰られて、僕が投げてるときにはたぶんいなかった」と苦笑いしたが、活躍することでまたきっと見にきてくれるだろう。
「僕の投げる姿を見て、NPBを目指すためにミリオンスターズに入るっていうきっかけになってもらえれば」。
地元の輝く星になることを誓っていた。
◆森本耕志郎
開幕2戦目にDHでの出場はあったが、結果は出なかった。ホーム開幕戦のスタメンマスクは前々日に告げられた。「言われたときはビックリのほうが大きかったですね」。
驚きながらも、しっかり準備はしている。マスクをかぶっていないときも、ほかの2人のキャッチャーと話を重ねてきた。それを活かそうと考えた。
バッテリーを組むのは年上ばかりだ。中でも村上投手は最年長で、8つの年の差がある。しかしゲームになれば関係ない。「村上さんのいいところを出そうという考えだったのと、相手バッターのスイングや待ち球を見ながら球種を選んでいった」と懸命にリードした。
打撃でも初安打をマークし、その次の打席ではタイムリーも放った。そのほか、四球と死球で全打席出塁した。「この前の試合は4打席とも打ってなかったんで、打たないとまずいなと自分にプレッシャーをかけながら打席に立った」と最年少でありながら強い責任感を抱いている。
ファーストストライクから振っていくことは決めていたと明かす。また、ほかの打者の打席を見ながら配球を読んだというところは、キャッチャーらしい。
「チームを勝たせることが最優先。その中でピッチャーをリードする声やジェスチャーもしっかりやっていって、そのあとにバッティング。まずは守備を大事にしたいと思います」。
キャッチャーとしての心構えを語る。
「試合を組み立てられるのがキャッチャー。一人だけ違う方向を向いているし、責任感もある。でも、チームが勝ったときは一番うれしいし、チームの勝利に貢献できていると感じられる」。
小学生時代からかぶってきたマスク。これからも捕手道を究めていく。
■昨年とはひと味違う後藤野球
今年の後藤監督は昨年とはやや違う。昨年は一度も使わなかった犠打を、開幕2戦目の1点ビハインドの九回、無死一塁の場面で繰り出した。昨年シーズン後にも「来年は育成と勝利のバランスで、勝つためにはバントも必要」と話していたように、勝つために必要なことは取り入れ、選手にも考えさせる。
この日は盗塁も4つ敢行し、機動力も見せた。昨年とはひと味違う後藤野球も楽しみである。
試合後、「ホームの開幕で勝てたのはよかった」とホッとした笑顔を見せた後藤監督。「子どもが多く来てくれたのが、すごくうれしかった」と喜んでいた。今年もファンに喜んでもらえるように、そしてその中で、ひとりでも多くの選手がNPB入りという夢をかなえられるよう、尽力していく。
(表記のない写真の提供は石川ミリオンスターズ)