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NPBで活躍する姿が描ける選手、濱 将乃介(日本海オセアンリーグ・福井)は“6ツールプレーヤー”だ

土井麻由実フリーアナウンサー、フリーライター
福井ネクサスエレファンツ・濱 将乃介(写真提供:日本海オセアンリーグ)

■究極の人懐っこさ

 「あれ?どこかで会ったことあったっけ?」

 一瞬、そう考えさせられる。いや、初対面だ。日本海オセアンリーグの開幕戦、その試合前練習のときである。子どものような屈託のない笑顔で、するするっと懐に入り込んできた。究極に人懐っこい。

 福井ネクサスエレファンツ濱 将乃介。今、リーグで最もNPBに近い選手だ。

 「いつもニコニコしてるね」と、NPB球団のスカウトからのウケもいい。しかし、そこに計算はない。これが“素”なのだ。

 「なにごとも全力で楽しむ」がモットーなだけあって、本当にいつも楽しそうだ。

 前回は、西村徳文氏の指導によって飛躍的に盗塁技術がアップしたという「足」にスポットを当てた。(前回記事⇒西村徳文氏の愛弟子は快足野手

 今回は濱選手のこれまでを振り返りながら、打撃と守備に注目しよう。

(写真提供:福井ネクサスエレファンツボランティアスタッフ)
(写真提供:福井ネクサスエレファンツボランティアスタッフ)

■高校卒業後、高知ファイティングドッグスへ

 そもそもは高校からドラフト指名される予定だった、自分の中では。そのために親元を離れ、東海大甲府高校に進学した。中学時代は注目選手であり、関西の強豪校からいくつも誘いがあった。しかし、それを蹴ってまで遠く山梨県に行ったのは、甲子園に出場できる確率が高いだろうとの考えだった。甲子園でプロのスカウトに見てもらえると期待したのだ。

 「県大会に参加する数が少ないから(2018年は36校35チーム)。でも、最後の夏はベスト4だった」。

 計算が狂った。甲子園にも行けず、スカウトの目にも留まらなかった。

 卒業後の進路には独立リーグを選んだ。1年でも早くNPBに行くためだ。高校の監督の縁で駒田徳広氏が監督を務める高知ファイティングドッグス四国アイランドリーグplus)に入団することになった。もちろん自分でもしっかり調べ、レベルが高いことやNPBに数多くの選手を輩出していることに納得してのことだ。

 駒田監督からは「NPBに行きたいんやったら、ほかの選手と同じようにやってたらあかん。ほかの選手に流されて遊びに行ったりしたらあかん」と、ずっと言われてきた。

 そこでチームの練習が終わったあと、外部の室内練習場を借りて一心不乱に打ち込んだ。チームの練習後、車での往復約2時間はかなりきつかったが、ほかの選手がやっていないときこそチャンスだと思って続けた。

 高卒1年目で「3番・レフト」のレギュラーを掴み、最初は快調だった。打率も3割を超えていた。しかし、シーズンを通して野球をするというのは初めての経験で、体もまだできていない。夏場にはもうバテバテで、成績も下降していった。

 高知での2年目は監督が吉田豊彦氏に代わった。前年の夏にバテたことを知る吉田監督からは、とにかく走らされた。

 課されたのは毎日「PP(ポール間走)を10本」。一日のすべての練習が終わったあと、もしくは試合前に、だ。つまり、その日の中で一番しんどいタイミングということだ。

 「試合前のフリーバッティングにも入れてもらえなくて、守備と走塁をやれって言われて…。もう試合前にバテバテになるくらい」。

 徹底的に鍛えられた。吉田監督の鬼特訓のおかげで、前年のように夏場にバテることはなくなった。しかし、それでも2年目も1年目と同じく、NPB球団のどこからも調査書は来なかった。

(本人提供写真)
(本人提供写真)

■NPB選手との自主トレ

 大きな転機は2年目と3年目の間のオフだった。中学時代の友人である福岡ソフトバンクホークス野村大樹選手の繋がりで、NPB選手たちの自主トレに参加させてもらった。

 釜元豪選手(東北楽天ゴールデンイーグルス)、高橋礼選手(ホークス)、渡辺健史選手(ホークス)、田城飛翔選手(元オリックス・バファローズ)、濱田太貴選手(東京ヤクルトスワローズ)らと1月の約1ヶ月間、ともに汗を流した。

 「体がすごく変わった。めちゃめちゃ走って、ごはんもめちゃめちゃ食べさせられて、ウエイトしたり走ったりで基礎体力を上げて…。この自主トレだけで体重が5キロ増えた。79キロで福岡に行ったけど、帰ってきたら84キロになっていた」。

 除脂肪体重の5キロだから、スピードが落ちることもなかった。それどころかパワーアップは自分でも驚くくらいだった。

(本人提供写真)
(本人提供写真)

■大きく成長した3年目

 そうして迎えた3年目は「1、2年目と比べてガラッと変わったシーズン。体重が増えたし、自主トレでNPBの選手に打ち方を教えてもらったので、ボールがすごく飛ぶようになった」と、過去2年にない手応えを掴んだ。

 「見た目には変わってないかもしれないけど、自分の中では意識を180度変えた。昔の動画を見たら、スイングが小っちゃくて、これじゃ飛ばんなっていうスイングをしている。だから構えもフォローも大きくして、バットの出し方、スイング軌道も変えた。そうしたらヘッドが走るようになった」。

 その成果が表れたのが4月の第1号ホームランだ。逆方向、バックスクリーンの左横に放り込んだのだ。

 「めちゃくちゃいいホームラン。左中間に打ったのは初めてで、『こっちにもデカいのが打てるようになったんや』って、ちょっと自信になって、バッティングが楽になった」。

 この自信が支えとなり、打撃力もどんどん向上していった。

 1年目0本、2年目1本だった本塁打数が3年目には5本に増え、これはリーグ3位の記録となった。さらに安打数73、打点40はリーグ2位という成績を収め、1、2年目に比べたら格段に成長した姿を見せた。

(本人提供写真)
(本人提供写真)

■外野守備も徹底的に鍛えられた

 外野守備に関しては、勝呂壽統コーチに徹底的に鍛えられた。

 「バッティング練習に入れてもらえなくて、ずっと打球捕をしていた(笑)。背走とか、目を切って走ったりとか。そういえばPPを背走で走らされたこともあった。切り替えしを入れたりしながら」。

 しんどいのは濱選手だけではなかった。「勝呂さん、僕が走り終わるまで帰らないんですよ。だから絶対に走らないとダメ。逃げられない(笑)」と、最後までずっと付き合ってくれた勝呂コーチに感謝しきりだ。こうして守備にも自信をつけた。遠投125mの強肩も、外野守備でのウリの一つだ。

 しかし、だ。3年目に初めて調査書は届いたが、指名はされなかった。自身の成績に手応えはあったのだが、NPB球団が“欲っする選手”ではなかったということだ。

 翌年はまたニーズも変わるかもしれない。そのまま高知でプレーすることも選択肢の一つだ。けれど濱選手は、環境を変えて一から出直す決意をした。育ててくれた指導者たちに感謝をしながら。

(本人提供写真)
(本人提供写真)

■ショートに挑戦

 そして、前回述べたように退団し、福井で西村氏から盗塁の極意を伝授された。さらに福井では新たな挑戦もしている。内野…ショートの守備だ。

 小学生のころは投手と捕手、中学では投手、高校では投手と内野から始まって、2年生からは外野手になった。高知でも3年間、外野手1本だった。

 「内野は自分で希望した。外野だけだったらスカウトの方にもあまり見てもらえないと思ったし、サブポジションっていうか、いろいろ守れるレパートリーが増えたほうがいいと思った」。

 どこまでも貪欲である。西村氏や初代監督の南渕時高氏に教わりながら、開幕から不動のショートとして守ってきた。

 「ショートって、すべてのプレーに関してボールに携われる。ずっとボールに触っていられる。試合の中に入っているっていう感じが楽しいっていうのがある。外野はヒマなんで(笑)」。

 たしかにピンチでマウンドに集まるときなども、外野手は疎外感があるのではないかと、見ているほうも思う。常にボールに触れていたいという濱選手の気持ちはよくわかる。

 ただ、濱選手の強肩に惚れ込む西村氏は、外野でアピールさせたいと願う。そこで話し合った末、ほぼ半分の28試合目まではショートで出場し、6月29日からはセンターに就くようになった。やはり外野が“本職”とあって、センターでは水を得た魚の如く、よりイキイキとプレーしているように映る。

 「外野のほうが守り慣れてて得意やし、自信がある。肩も自信あるし。でも、内野も両方できるところを見せていきたい」。

 内外野どちらもできるというバリエーションは、ドラフトに向けてのプラスポイントだ。

(写真提供:福井ネクサスエレファンツボランティアスタッフ)
(写真提供:福井ネクサスエレファンツボランティアスタッフ)

■ストロングポイントはストレートとインサイド

 さらに、打撃もより進化している。とにかくストレートにめっぽう強い。NPBのファーム戦でも阪神タイガース小野泰己投手、中日ドラゴンズジャリエル・ロドリゲス投手ら速球派ピッチャーの150キロ超えストレートをしっかりとらえ、それを証明した。また、インサイドも得意としている。体を開かず、うまく腕をたたんで回転で打つ。

 「体を開かないよう、常に外の甘めくらいに目付をしている。まっすぐのタイミングに合わせて、ショートの頭に打つ感じで入っていく。インコースは反応で打てるんで」。

 引っ張りだけでなく、逆方向にも長打が打てる。そして勝負強い。自身が目指す方向にどんどん突き進んでいる。

(写真提供:福井ネクサスエレファンツボランティアスタッフ)
(写真提供:福井ネクサスエレファンツボランティアスタッフ)

■濱 将乃介の言霊

 7月を終えた時点で打率.297、出塁率.423、長打率.486でOPS.909。50m5秒9の足、遠投125mの肩、内外野守れるユーティリティさ。まさに5ツールプレーヤー(注1)だ。

 さらに四球率が.154と、「第6のツール」といわれるPatience(ペイシェンス=四球を選ぶ技能、選球眼)も高い(注2)。日本海オセアンリーグで今、最もNPBに近い選手といえるだろう。

 西村氏も「NPBの選手と比較しても遜色ない」と太鼓判を押し、ホークスに移籍した元チームの先輩である秋吉亮投手も「濱ならNPBに行ける」と口をそろえる。

 いや、「NPBに行ける」だけではない。NPBで躍動する姿を描ける選手だ。

 シーズンも残り2ヶ月を切った。コロナ禍の影響で7月30日から試合が一時停止されていたが、近々再開される予定だ。

 「このあとも悔いのないように1試合1試合集中して、自分のアピールできることは全部したい。(今季は)外野を始めてまだ10試合も経ってないので、外野の守備ももっと頑張りたいし、打率も今からどんどん上げていきたい。相手ピッチャーもだいたい一通り当たって、カウントを取る球や決め球もわかってきたので、もっと上げていく自信はある。盗塁ももっと磨いていく」。

 そして、こう続けた。

 「僕、まじで絶対に行きますよ、今年ほんまに!」

 「行きたい」や「行けたらいいな」ではない。「行く」と断言する。これぞ“言霊”だ。

 濱 将乃介は言動すべてで夢を引き寄せる。

(写真提供:福井ネクサスエレファンツボランティアスタッフ)
(写真提供:福井ネクサスエレファンツボランティアスタッフ)

(注1)

5ツールプレーヤーとは「ミート力(Hit)」「長打力(Power)」「走力(Speed)」「守備力(Defense)」「送球力(Arm)」の5つの能力すべてが優れた選手のこと。

(注2)

ペイシェンスの高いNPB選手の今季の四球率

村上宗隆(S).188

吉田正尚(B).158

西川遥輝(E).157

浅村栄斗(E).136

山川穂高(L).135

丸 佳浩(G).119

(8月4日現在)

【濱 将乃介(はま しょうのすけ)】

2000年5月3日(22歳)

181cm・81kg/右・左

東海大甲府―高知ファイティングドッグス(四国IL)

大阪府大阪市/O型

【濱 将乃介*今季成績】

試合数37 打席数169 打数138 安打41 二塁打10 三塁打2 本塁打4

打点24 得点33① 三振20 四球26① 死球4 盗塁26① 盗塁成功率.764

打率.297 出塁率.423 長打率.486 OPS.909

(7月31日現在)

*①はリーグ1位

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フリーアナウンサー、フリーライター

CS放送「GAORA」「スカイA」の阪神タイガース野球中継番組「Tigersーai」で、ベンチリポーターとして携わったゲームは1000試合近く。2005年の阪神優勝時にはビールかけインタビューも!イベントやパーティーでのプロ野球選手、OBとのトークショーは数100本。サンケイスポーツで阪神タイガース関連のコラム「SMILE♡TIGERS」を連載中。かつては阪神タイガースの公式ホームページや公式携帯サイト、阪神電鉄の機関紙でも執筆。マイクでペンで、硬軟織り交ぜた熱い熱い情報を伝えています!!

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