■秋吉亮、監督代行代行として初指揮

 6月25日の滋賀GOブラックス福井ネクサスエレファンツ戦。いつもの見慣れたオーダー表に、見慣れない添え書きがあった。

 「※本日、秋吉亮が指揮を執ります。

 東京ヤクルトスワローズ北海道日本ハムファイターズで活躍した秋吉亮投手は現在、独立リーグ・日本海オセアンリーグの福井ネクサスエレファンツでNPB復帰を目指し、クローザーとして活躍している。

 この日、不在の吉田篤史監督代行に代わって指揮を執ることになった。つまり監督代行の代行ということだ。

6月25日のオーダー表
6月25日のオーダー表

 ノックバットを手にグラウンドに飛び出した‟秋吉監督代行代行”は、鮮やかにノックを繰り出し、まずは試合前の監督の仕事をしっかりとこなした。

 「ノックの経験?あんまりやったことはないけど、できなくはない。全然余裕でできる(笑)」。

 そう言って、ドヤ顔でロッカーに消えた。

 そして午前10時にプレーボールがかかった。新指揮官は三塁側ベンチの端に陣取ると、戦況を見つめながら隣の平井真渡選手に耳打ちをして、サインを出させる。攻撃時の作戦はもちろん、守備位置も指示して動かす。

 自身が投げているときも常々、野手のポジショニングを考えている。長年の経験から、「この球種でこのコースだったら、こっちにこういう打球が飛ぶな」という予測が立つからだ。それを指揮官としても存分に活かした。

参謀?の平井真渡
参謀?の平井真渡

■持っている力をフルに出せ

 試合前のミーティングでは、選手たちにこう告げたという。

 「いい結果ばかり求めないで、今持っている力をフルに出すように。そうすれば結果もついてくる。持っている力以上のことはできない。120%を目指そうとしても出ない。それよりも、持っているものを100%出そう」。

 その言葉に応えた選手たちはイキイキと動き回り、溌溂としたプレーを見せた。

 中でも「7番・ライト」で今季初スタメンに抜擢された筒井翔也選手は3安打1打点と大暴れし、心地よさそうに汗を拭っていた。

 二塁打、単打、三塁打と惜しくも“サイクル未遂”だったが、今後の活躍が楽しみだ。

今季初スタメンで大活躍の筒井翔也
今季初スタメンで大活躍の筒井翔也

■「ピッチャー・オレ」で6セーブ目

 最終回となった3点リードの八回には「ピッチャー、オレ」の場面がきた。自ら球審に交代を告げ、“秋吉投手”はマウンドに上がった。

 「足がプルプルだった。だって、ずっとベンチで立ってたんだもん(笑)。それでブルペンに(肩を)作りに行ったら、かなりきつかった。投げるときに監督をするのは大変」。

 それでも3つのアウトはすべて三振で仕留め、無失点で投手としての仕事もきっちり遂行した。

 初回に2点を先制されながらも七回に一挙4点を挙げて逆転し、さらに八回にダメ押しして2―5で勝利した“秋吉監督代行代行”は、満足げな笑顔を見せていた。

 引き分けを挟んで4連敗中だったチームに活気をもたらすその“監督っぷり”は、初采配とは思えず非常に頼もしかった。

「ピッチャー・オレ」で3奪三振
「ピッチャー・オレ」で3奪三振

■「監督」に興味も…

 これまでも先輩として、投手陣にはいろいろとアドバイスしてきた。たとえば自分有利なカウントを作るための配球など、実戦に即して話してきた。

 「2球投げたら(カウント)1―1を作るように。みんなボール球が多いから、四球の数がすごい。2球投げたら1球はストライクかファウルを取れるように。自分の自信のある球でストライクを取って、そこから組み立てが始まる。あとは変化球を低めに投げるとか、決め球が甘くならないようにとか、ブルペンでとことん練習をする」。

 教えることは嫌いではない。いや、むしろ自分の知りうることは伝えたいと思っている。「現役をずっとやるのは無理な話だから、将来的には指導をやってみたいというのはある」と、いずれは指導者になることも視野に入れている。

 そして今回、1日限定ではあるものの、監督業をしてみて何か感じるところがあったようだ。

 「采配を考えるのが楽しかった。みんな雰囲気よくやってくれたし。実際にやってみて興味は湧いたかな。大変なのは大変だったけど、やってみたいなというのも思った」。

 セカンドキャリアの選択肢に、新たに「監督」が加わった。もちろん需要があれば、の話だが。

ベンチに帰ってくる選手を拍手で労う
ベンチに帰ってくる選手を拍手で労う

■新球・スプリットが使える球に

 この試合では新たなチャレンジをした。初めてスプリットを3球投じたのだ。

 「握りをいろいろ試して、自分に合うものを探した。キャッチボールではちょいちょい投げてたけど、ブルペンで本格的に投げたのは(登板の)1週間くらい前かな」。

 サイドスローの秋吉投手といえば、これまでおもにストレートとスライダーを軸に勝負してきた。落ちる系の持ち球といえばチェンジアップのみである。

 そこで、「もう少し速い縦の変化が欲しかった」と“新球”の習得に取り組み始めたのだ。

 今年34歳のベテランだが、いくつになっても常に向上心や挑戦する姿勢を忘れない。この貪欲さこそ、まさにプロのアスリートだ。

 「(スプリットで)カウントも取れたし、手応えは悪くなかった。今後、もう少し精度を上げたい。落ち幅とか、空振りが取れるよう低めにしっかり投げるとか、もっと追究していきたい」。

 カウント球に使えることはわかった。さらに今後、決め球にも使えるように挑戦し続ける。

見逃し三振に「してやったり」とばかりにガッツポーズ
見逃し三振に「してやったり」とばかりにガッツポーズ

■5月度の月間MVPに輝く

 今季は春先、想像以上の寒さと実戦機会が極端に少なかったことで、なかなか調子が上がらなかった。しかし5月以降は本来の力を取り戻し、現在、無双状態にある。(詳細記事⇒秋吉亮、NPB復帰へ向けて万全

 日本海オセアンリーグでは毎月、投手と野手それぞれの月間MVPを選出するが、秋吉投手は5月度の月間MVPの栄誉に与った。

 7試合、9回と2/3に投げて自責点が1、防御率は0.93、5セーブ。21奪三振で奪三振率が19.55と驚異的な数字も叩き出した。

 「結果が出せないと獲れないものだから、賞が獲れたのは嬉しい」と素直に喜ぶ。

 受賞を記念してオリジナルのTシャツを作成し、チームメイトやチームスタッフ、そしてボランティアのみなさんにプレゼントした。

 「一人でできたことじゃないから。野手が打ってくれたから自分も投げる出番があったし、ボランティアさんたちも無償で手伝ってくれている。だから賞金で還元したいと思った」。

 決して驕らず、常に周りへの感謝の気持ちを忘れない男だ。

野手部門の5月度 月間MVPはチームメイトの阪口竜暉
野手部門の5月度 月間MVPはチームメイトの阪口竜暉

■秋吉ブランドのTシャツを販売開始

 これをSNSで見たファンから「Tシャツを売ってほしい」という声が多数届いた。また以前、野球教室をしたときに受講者の子どもたちに配った、自身の似顔絵とネクサスエレファンツのマスコットの絵が描かれているTシャツも好評で、こちらも「販売があったら買いたい」とネットで話題になった。

 「子どもたちにもっと野球を好きになってもらいたい。野球人口も減ってるしね。少しでも野球を好きになって続けてもらいたいと思って、野球教室で配ろうと作ったのがきっかけだけど、あまりにも『欲しい』という声が多くて…」。

 そこで、反響の大きかったこれらのTシャツを販売することにした。(オンラインショップ

 「僕のTシャツを着て、球場に応援に来てくれたら嬉しい。Tシャツを着て球場に来てくれた人には、何か僕からお返しもしたいなぁ」。

 “お返し”…。それは現在、思案中だ。

こちらのTシャツはほかに白、黒、ピンクのカラーバリエーションがある
こちらのTシャツはほかに白、黒、ピンクのカラーバリエーションがある

■NPB復帰の期限まで1ヶ月

 さて、今季中にNPBへ復帰できる期限が迫ってきた。7月31日までのあと1ヶ月である。

 「まっすぐだったり、スライダーだったり、『まだいけるんだぞ』というところを見せたい」。

 7月5日には阪神タイガース・ファームとの選抜試合(阪神鳴尾浜球場)に登板する。各球団のスカウトたちが集結する前で「精一杯アピールして、いいと思ったら獲ってくれるところがあるだろうし、全力で自分の球をしっかり投げる」と、ベストを尽くすつもりだ。

(写真提供:福井ネクサスエレファンツ・ボランティアスタッフ)

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