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秋吉亮(ヤクルトー日ハムー福井)が独立リーグでリスタート!福井からNPB復帰を目指す!

土井麻由実フリーアナウンサー、フリーライター
福井ネクサスエレファンツのクローザー・秋吉亮

■新たな戦場からNPBへ返り咲く

 出迎えてくれたのは、温かい拍手だった。マウンドからスタンドを見上げると、たくさんのタオルやプラカードが目に入った。そこには「秋吉亮」の文字が大きく描かれている。

 マウンドに帰ってこれた。また腕が振れる―。投げる場所がある喜びを、秋吉投手はしみじみと噛みしめていた。

 といっても、舞台はNPB日本野球機構)ではない。昨季終了後、「ノンテンダー」を通告され、北海道日本ハムファイターズのユニフォームを脱いだ。その後、秋吉投手が選んだ新たな戦場は、誕生したばかりの独立リーグ・日本海オセアンリーグNOL)に所属する、これまた新球団である福井ネクサスエレファンツだ。

 ここから再びNPBに戻るための挑戦が始まる。そのリスタートの第一歩を踏み出した。

なんとしてもNPBに復帰する
なんとしてもNPBに復帰する

 出番は開幕2戦目の4月3日、対石川ミリオンスターズ戦。両チーム無得点の九回表だった。左打者2人を簡単に抑えて2死としたが、そこから2連打されて一、二塁のピンチを招いた。しかし最後は三邪飛に仕留め、初登板を無失点で終えることができた。マウンドから降りて坂本竜三郎捕手とグラブタッチをすると、秋吉投手の顔からホッとしたような安堵の笑みがこぼれた。

 「変化球もストライクが取りたいときに取れてるし、あとはどれだけキレが戻ってくるか」。

 日中とはいえ北陸地方はまだまだ冷える。おそらく気温の上昇とともにキレは上がってくるだろう。「今日はスライダーとチェンジアップを織り交ぜた。投げたいボールは全部投げられたし、右にも左にもチェンジアップが投げられた」と言い、右打者にヒットを許しはしたが、その反応に手応えを得たという。

 「右バッターが外スラを追ってくれていた。これはいいことだし、追ってくれてからインコースも使っていければ、もっと幅も広がる。もっともっとこれから対戦も増えてきたら配球とかもまた変わってくると思う。初見だからね、まだ。そこはもうちょっといろいろ試してやっていこうかと思う」。

 右のサイドハンドの特性を今後さらに見せていく。

 気温の低さからストレートの球速はそこまで上がってきてはいないが、「コースに投げられている」と心配もなく、「これからインコースのまっすぐはもっと使っていこうかなと思う。まだまだ最初からそれを見せるよりは、とりあえず自分のピッチングをしてみて、あとはインコースを使っていけば変化球がまた生きてくるから。いろいろと試していこうかなと」と、状態を上げながら徐々に手札を切っていこうという腹づもりだ。

坂本竜三郎とグラブタッチ
坂本竜三郎とグラブタッチ

■豊富な経験を福井に還元する

 日本海オセアンリーグでは「セントラル開催」を採用し、4チームが1球場で1日に2試合を遂行するため、試合時間に制限を設けている。2時間半を超えるとその次のイニングで打ち切りになるのだ。そうなるとクローザーの出番が何回になるのかわからない。試合展開だけでなく、時間も見ながら準備しなければならない難しさがある。

 「試合時間が五回まですごく長くなって2時間かかったとしたら、もしかしたら七回で終わるかもしれん。七、八、九、どこでいくかわからない。時間次第だから。そこはちょっと準備の難しいところ。だから、五回終わったくらいから動き始めようかと思って。抑えというより中継ぎというイメージでいたほうがいいのかなぁって感じかな。いつ言われてもいいようにしとくのが一番」。

 そのあたりは百戦錬磨の秋吉投手のことだ。すぐに慣れて対応できそうだ。

勝負師の鋭い眼差し
勝負師の鋭い眼差し

 試合中、ブルペンに準備をしに行くまではベンチにいる。守備を終えてベンチに帰ってくるバッテリーには、毎回といっていいほど声をかける姿が見られる。「兼任コーチ」の肩書がついているわけではないが、気づいたことは積極的に伝えるようにしているという。

 ときには野手に助言することもある。たとえば投手の投球タイプによって、打球の質や方向が変わってくる。その時々での最適なポジショニングなど、“投手目線”の話ができるのは、豊富な経験があるからこそだ。

 「南渕時高)監督や吉田篤史投手コーチ)さんとも話して『こうしたほうがいいんじゃないですか』と意見を言ったりもする。五回くらいまでベンチにいて、あとは自分の(準備の)時間にしようかなと思っている。裏でゆっくり座って試合見るんだったら、それくらいしたほうがいい」。

 自分が得てきたものは惜しげもなく披露する。それを後輩たちにはプラスにしてほしい。独立リーグに来た意味は、そこにもあると思っている。

背番号は憧れの「22」
背番号は憧れの「22」

 そしてなにより、NPBに返り咲くことが一番の目標だ。

 「NPBに戻ってほしい、また応援したいって思ってくれてるから、(ファンの人々が)ここまで来てくれていると思う。嬉しいことですね。自分はやっぱりNPBに戻りたいっていう気持ちだから、しっかりここで結果出して、NPBに戻れたら自分も嬉しいし、ファンの人もNPBでまた投げるところを見られたら嬉しいと思う。自分のためだけじゃなくて、周りの人のためにも頑張ろうと思う」。

 そう決意を新たにした秋吉投手。

 「退団は悲しかったけど、こうして野球をしている姿を見られて嬉しかった」「久しぶりに投げる姿を見られて安心した」と、遠く北海道や東京からはるばる福井まで駆けつけ、後押ししてくれるファンのためにも、必ず実現する覚悟だ。

チームメイトに対して常に気さくな秋吉亮
チームメイトに対して常に気さくな秋吉亮

■エース・松永忠投手の進化

 この日、福井の先発はエース・松永忠投手だった。「開幕は初めてなので、すごく緊張した」と、観客の多さに驚きながらマウンドに上がった。

 その緊張からか初回にいきなり2死満塁のピンチを背負ったが、なんとか無失点で切り抜けると、次の回は三者凡退でリズムよく終えた。

 “転機”は三回に訪れた。無死一塁から頭部に当ててしまったのだ。NPBなら即、危険球退場だが、日本海オセアンリーグでは1度目は警告を与えられ続投というルールだ。その死球の次の球を見た吉田投手コーチから“喝”が入った。

 「ちょっと遠慮がちになっていた。頭部だから悪いなっていう気持ちになるだろうけど、ルールで警告だから、そのあと投げなきゃいけない。インコースのまっすぐや高めに投げるのを怖がってたんで、『そんなんで戦えるの?戦う気持ちがなかったらマウンド降ろすぞ』という話をした。そしたら『やります!』って言って、そのあと気合いが入った」。

 たしかに喝が効いたようで、その後は立ち直った。七回の1死一、二塁のピンチも抑え、7回無失点という上々の開幕登板となった。

福井ネクサスエレファンツのエース・松永忠
福井ネクサスエレファンツのエース・松永忠

 「相手もいいピッチャーだし負けたくない、先に失点したらダメだと思って投げていた。まっすぐの球威もあってファウルを取れていたし、カットボールも有効だった。左バッターにはシンカーと、途中からはインコースのまっすぐも突けたので、そこはよかった」と松永投手も自信を深めたようだ。

 坂本捕手も懸命にリードした。毎イニングの初球は二人で話し合って、何で入るか決めていたという。

 「石川さんはけっこう初球から振ってくるバッターが多いんで、打ち気を逸らす意味で変化球から入ることが多かった」。

 その後はバッターの反応や松永投手の調子を見ながら配球した。球は全体的に高かったが、「もっと低めに集められたら、さらにいいピッチングができるのかなと思う」と、坂本捕手もエースの力を信じている。

坂本竜三郎が好リード
坂本竜三郎が好リード

■吉田篤史投手コーチも高く評価

 吉田コーチは「もともと力のあるピッチャ―だけど、性格的に真面目ですごく優しい」と評する。

 「でも、それはマウンドでは要らない。生意気で、ふてぶてしさが必要だし、気合い入ってるなっていうピッチャーほどバッターも警戒する。スポーツである前に武道に近い部分もある。だから、そこの大事な部分を刺激した。野手に対して戦ってる姿を見せるのがピッチャーだから、『それじゃ野手が守ってくれないよ』っていう話。チームを代表して投げてるんだから、そりゃやんなきゃ『マウンドに上がる資格ないぞ』って」。

 吉田コーチにとっても歯がゆいのだ。「あれだけのボールを投げるんだから、どんどん攻め込めばいいのに、立ち上がりも慎重さが表に出ちゃって、もったいない。ボールも強い、変化球もある、マウンドさばきも悪くない。一皮むけたら、すごくいいピッチャーになる」と買っているからこそだ。

 「今よりもいいピッチャーになるっていうのは、どこにいても目標だから。やってる以上はうまくなるべき。彼に足りないのは闘争心。表に出さなくても秘めていなきゃ。それがあれば、もう一歩二歩、上にいけるかなと思う。このリーグで手も足も出ないようなピッチングができる可能性もあるピッチャーだから」。

 この試合はスコアレスドローに終わったが、吉田コーチは「ピッチャーがバッターと戦っている姿は野手にも伝わる。松永が頑張っているのがバッターに乗り移って、ピッチャーがバッターを打たせるということもできる」と、そこまでの力を発揮することを期待している。

4年目にしてエースに成長
4年目にしてエースに成長

■「エレファンツ」が復活した喜び

 今季エースに成長した松永投手は、福井で4年目を迎える。

 「新人の選手も多い。明らかに試合を崩したりできないし、しっかりとイニングも投げて、プレーで手本になれるようにしたい。去年、自分も濵田俊之)さんとか見てよくなったので、近くにいいピッチャーがいたら(後輩たちも)よくなると思うので」。

 自身の背中を見せることが、後輩たちの成長に繋がる。かつての自分がそうだったように。

 入団した当時、チーム名は「福井ミラクルエレファンツ」だった。紆余曲折あって今年また、エレファンツの名前が戻ってきた。松永投手も「新鮮ですね。またエレファンツ(のユニフォーム)が着られる懐かしさもある」と喜びを顕わにしている。それはファンも同じ思いだろう。

 ミラクルエレファンツ時代からのファンの思いも背負って、ネクサスエレファンツを日本海オセアンリーグ初代王者に導くべく、今季はエースとして腕を振るつもりだ。

後輩たちの手本になる
後輩たちの手本になる

(写真提供はすべて福井ネクサスエレファンツ・ボランティアスタッフ)

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開幕戦が決定

フリーアナウンサー、フリーライター

CS放送「GAORA」「スカイA」の阪神タイガース野球中継番組「Tigersーai」で、ベンチリポーターとして携わったゲームは1000試合近く。2005年の阪神優勝時にはビールかけインタビューも!イベントやパーティーでのプロ野球選手、OBとのトークショーは数100本。サンケイスポーツで阪神タイガース関連のコラム「SMILE♡TIGERS」を連載中。かつては阪神タイガースの公式ホームページや公式携帯サイト、阪神電鉄の機関紙でも執筆。マイクでペンで、硬軟織り交ぜた熱い熱い情報を伝えています!!

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