喜多亮太(敦賀気比⇒セガサミー⇒侍U―23⇒石川ミリオンスターズ)、ドラフト前の最後のアピール
■覚悟のBC・石川入り
「やりきった。後悔はない」―。
石川ミリオンスターズの正捕手・喜多亮太選手は、そう言って清々しい笑顔を見せた。
敦賀気比高から社会人のセガサミーに進み、昨秋は侍ジャパン U―23にも選ばれた。しかし、ここまでNPBは遠かった。
そこで一念発起して退路を断ち、石川に入団した。この1年に懸けて…。
(詳細はこちら⇒喜多亮太がBC・石川からNPBに挑戦)
初めての独立リーグに、最初は不安や戸惑いもあった。だが、すぐに持ち味を発揮しはじめ、やがてはチームを引っ張る存在になった。
社会人時代との違いを味わいながら1シーズンを完走し、たしかな手応えを掴むことができた。
そして、ドラフトに向けての“ラストオーディション”となるBCリーグ選抜試合に臨んだ。
■選抜試合でアピール
9月19、20日は対読売ジャイアンツ3軍戦、同25、26日は対オリックス・バファローズ・ファーム戦だった。
19、25、26日はスタメンマスクで五回まで守り、20日は指名打者でスターティングメンバーに名を連ねた。
20日は今村春輝選手が負傷したことによって、途中からなんと初のファーストの守備に就くというハプニングもあった。
19日は永水豪(石川ミリオンスターズ)2回、前川哲(新潟アルビレックスBC)2回、矢鋪翼(石川ミリオンスターズ)1回。
25日は長谷川凌汰(新潟アルビレックスBC)3回、前川2回。
26日は永水3回、小沼健太(茨城アストロプラネッツ)2回。
以上をそれぞれリードした。
「僕はこのピッチャーのこの球を見せたいというより、打ち取りにいった。普通に勝負しにいった。そのために、どの球がいいかなとブルペンで早めに気づいて、それを多めに使った」。
そうすることが結果的に、その投手が輝くということがわかっているのだ。
■ファーストに就いても気持ちはキャッチャー
ファーストは初めてだという。ジャイアンツ3軍打線がほとんど右打者だったのは、まだ救いだったか。
「いや、でもめちゃくちゃ怖かった。体で止めることしか考えていなかった」と苦笑する。
しかしそうは言うものの、なかなか堂に入っていた。
そして目についたのは、後ろからしきりにピッチャーに声をかけていた姿だ。とくにランナーを背負うピンチだったり、粘られて球数が増えたりといったときには、大きな声で鼓舞するシーンが際立った。
「やっぱりピッチャーの気持ちが一番わかるのはキャッチャーなんで。ファーストからでも1球1球、キャッチャー目線で見てしまう。ピッチャーがどう感じてるかとか見てて…まぁ激励かな」。
とくに自チームの投手には叱咤も加わっていた。ファウルで粘られていた永水投手には「最後のアピールやぞ!デカいケツ、見せてやれ!」などと檄を飛ばしたという。
そこには「ピッチャーがちょっとでも楽に投げられるように」という、キャッチャーならではの思いがあった。
■武田勝監督への感謝を表す右への一打
打撃に関しては「僕のバッティングは見られてないでしょ(笑)。キャッチャーとして見られてるんで」とは言うが、それでも全4試合で11打数4安打とまずまずの結果を残した。
中でも最終戦、自身の最終打席でカウント2―2から放った右前打は、本人も納得の1打だった。
「まっすぐに強いっていうのは、(スカウトにも)知ってもらっている。初球の甘い球は誰でも打てるし、引っ張るのはいつでも引っ張れる。でも2ストライクから右にも打てるっていうのを見せられて、あれはよかったと思う」。
追い込まれて逆方向に打つというのは社会人時代には求められ、実践してきたことだ。それで成績も残してきた。
しかし石川に入団した今年、「もうバッティングがどうしたらいいか、わからんくなった」というくらい、前期に調子を落とした。5月の月間打率は.206まで落ち込んだ。
そこで武田勝監督は、後期の途中から喜多選手を2番に据えた。武田監督からは、ときに一死満塁の場面でも進塁打のサインを出されることもあったという。
「右打ちを意識しろということやな」と、その意図を汲み取った喜多選手は、「社会人時代にできていたのを思い出した」と感覚がよみがえってくるのを感じた。
「僕、右打ちできてるときは調子いいんやった」。
徐々に自身の打撃を取り戻すことができた。そして9月は.353の打率を残し、通算.255でシーズンを終えた。
「2番に入ったことで立て直すことができた。あれがなかったら、ズルズルいっていた。勝さんが引き出してくれた。選抜であのバッティングができたのも勝さんのおかげ」。
何度も何度も武田監督への感謝の気持ちを口にする喜多選手。しかし、それはつまり、指揮官の思いに応えられるだけの能力を備えているということでもある。
■喜多先輩の青空教室
選抜試合の日には、本番の試合以外にもさまざまな選手同士の交流シーンが見られた。
選抜メンバーには喜多選手のほか、速水隆成(群馬ダイヤモンドペガサス)、秋庭蓮(栃木ゴールデンブレーブス)、坂本竜三郎(福井ミラクルエレファンツ)の3人の捕手がいた。
シーズン中はほぼ交流のない東地区の2人は、積極的に「教えてください」と喜多選手に“弟子入り”を志願してきた。とくに速水選手はスローイングをよくしたい、速くしたいと意欲的だったという。
「『もうちょっと、ここをこうしたらどう?』と言いながら、一回やらせてみて、思ったことを言ったり」と、自身の練習そっちのけでアドバイスしていた。
「竜三郎は雅彦さん(福井・田中監督)から教わってるから、そんな僕から何か言うことはないけど…」。
しかし坂本選手も何か吸収しようとしてか、興味津々な様子で一緒に“喜多塾”に加わっていた。
こういう交流や刺激が、また来年以降の選手の成長につながる。たった1年だが、喜多選手はBCリーグに在籍した爪痕をしっかり残した。
■バファローズ打線は怖かった
初めて参戦した選抜試合を振り返って、ジャイアンツ3軍とバファローズのファームは全然違ったとうなずく。
「出ている選手が全然違う。甘く入ったらいくぞっていうのが打席から伝わってきたし、甘い球は絶対打たれた。僕らみたいに初球からブンブン振ってくるんじゃなくて、くさい球は振らずにカウントを整える。どっしりしていた。1球1球、投げさせるのも怖かった…ほんと怖かった」。
1軍でも活躍するT―岡田、白崎浩之、杉本祐太郎、頓宮裕真といった強打者がズラリと並んだ打線に恐怖感すら覚えたようだ。
しかしそう言いつつも、その勝負をどこか楽しんでいるようでもあった。強い相手と対戦することで、より燃え、より力を発揮できるタイプだ。
こういうのを「プロ向き」というのだろう。
■育成でもいい。スタートラインに立ちたい!
「これでダメやったら、野球を辞めます!」。
つまり、ドラフト指名がなければ引退ということだ。
腹をくくり、覚悟をもって今年に懸けてきた。やれることはすべてやったという自負もある。
だからこそ、今の自分の力をNPBで試したいという気持ちは人一倍強い。
「入れるなら育成でも。入らないとステージには立てない。まずはスタートラインに立たないと勝負できないから」。
たとえ育成指名であっても、入れさえすれば必ずや這い上がってみせる―。
たしかな自信を携えて、喜多亮太はドラフト会議の日を迎える。
【喜多 亮太(きた りょうた)*プロフィール】
1996年1月5日生(23歳)/大阪府出身
177cm・80kg/右投右打/A型
敦賀気比高校→セガサミー→石川ミリオンスターズ(2019~)
【喜多 亮太*今季成績】
70試合 打率.255 235打数 60安打 10二塁打 1三塁打 5本塁打 29打点 47三振 32四球 1死球 2盗塁 7失策 11併殺 出塁率.347 長打率.370 盗塁阻止率.446
(撮影はすべて筆者)
【喜多亮太*関連記事】