日本でただひとり、プロ野球選手から公認会計士に。彼にしかできないこととは・・・

著書『高卒 元プロ野球選手が公認会計士になった!』を手にする奥村武博氏

■史上初のプロ野球選手から公認会計士に

 「手続きがすべて完了して、今日、正式に公認会計士として登録することができました」。6月21日、奥村武博氏から連絡があった。プロ野球選手(阪神タイガースの投手)から公認会計士になった、日本でただひとりの人物である。

(詳細記事⇒★史上初!元阪神タイガースの投手から超難関の公認会計士へ転身【前編】  

★史上初!元阪神タイガースの投手から超難関の公認会計士へ転身【後編】

著書『高卒 元プロ野球選手が公認会計士になった!』
著書『高卒 元プロ野球選手が公認会計士になった!』

 9年かけて合格率10%前後の超難関試験に合格し、すでに「公認会計士試験合格者(準会員)」として実務経験を積み、修了考査を受験して合格した。

 そしてこの度、正式に登録されたのを機に著書『高卒 元プロ野球選手が公認会計士になった!』を出版した。

 そこで出版へ至った思いや、プロ野球を経験した彼にしかできないこと、また彼だからこそできることなど、今後に向けての展望などを聞いた。

■著書『高卒 元プロ野球選手が公認会計士になった!』

 『高卒 元プロ野球選手が公認会計士になった!』は一見、公認会計士を目指す人のためのハウツー本のようだが、実はすべての受験生にとって役に立つ内容になっている。いや、受験生だけでなく万人が、何らかの形で実生活に取り入れられるヒントが詰まっている。

 実際、公認会計士の受験生に向けた具体的な試験対策法を記したページもあるのだが、それ以外の奥村氏の考えを著した部分が非常に興味深い。試験で緊張しないためのメンタルや考え方のコツなど、誰もが自身の仕事や生活にあてはめて活用できる。

■「デュアルキャリア」の啓蒙

講演をする奥村武博氏
講演をする奥村武博氏

 「受験生はもちろんだけど、スポーツに打ち込んでいる人たち…特に現役の野球選手たちに読んでもらいたい」と奥村氏は話す。野球界しか経験していなかった過去の自分が世間知らずであったことや、勉強する習慣を持っていなかった反省などから、「(選手が)視野を広げるきっかけになれば」との思いがあるのだ。

 根底にあるのは奥村氏が提唱する「デュアルキャリア」という考え方だ。

 よく話題に上るスポーツ選手の「セカンドキャリア」。現役引退後の仕事のことだ。「無知で何も知らなかった」という奥村氏がセカンドキャリアを考えたとき、選択肢は「飲食業だけだった」と振り返る。ほかにどんな職業があるのかさえ、思い浮かばなかったのだ。

 そんな奥村氏だから「セカンドキャリア」の前の「デュアルキャリア」の啓蒙を訴えている。「デュアル」とは二つの…という意味だ。「いろんなことに興味を持つことが大事だと思う。野球終わってから勉強しよう、じゃなく、野球以外にも興味を持って勉強することが、プレーヤーとしてのパフォーマンス向上に役立ったりもする。野球だけで視野を狭めるのはもったいない」と語る。

 ここでいう「勉強」とは、机に向かってする勉強のことだけではない。さまざまなことにアンテナを広げるということだ。現役選手でいる間にもさまざまなことに興味を持ち、吸収することの重要性を説く。

 「NPBのセカンドキャリアアンケートを見ても、7割の選手が将来に不安があるって答えている。一日24時間、野球をしているわけじゃない。たとえば遠征の移動の新幹線で本や経済誌を読む、ニュースを見るってことでもいいんです。それで社会全体を見るようになれば」。

 本分である野球を疎かにしろというわけではない。ほんの少し、空いた時間をほかのものに目を向けてみようということだ。そしてそれがまた、パフォーマンスにも好影響を及ぼすこともあるという。

■野球と勉強とビジネスは繋がっている

受験生の相談にも乗る
受験生の相談にも乗る

 現役を引退してから勉強を始めた奥村氏の場合、勉強をクセづけるのに時間を要したという。しかし勉強している中であることに気づいた。「これって野球に似てるな」と。

 たとえば試験は試合と似ている。現役時代、よく言われた。「練習は試合のように、試合は練習のように」と。ブルペンでは具体的なシチュエーションをイメージして投げ、試合では練習でやってきたことを同じように出す。

 試験もそうだ。「模試は試験のように、試験は模試のように」―そう考えるとやるべきことが見えてきたし、実際の試験で実力が出せるようになった。

 そうして「野球と勉強とビジネスって、実は繋がってるな。応用できるな」という考えに至ったのだ。「自分は野球を辞めたあとで気づいたけど、現役中に知っておけば野球のパフォーマンスも違ってくるかもしれないし、将来への不安はなくなると思う」と力説する。

 「引退したあと社会に出て、野球でやってきたことを全く生かせないのではない。生かせば充実した人生を送れる。ただ、その生かし方、どうやったら生かせるのかがわからないんだと思う。でも、現役時代に何か取り組んでいれば、自分で壁を作らなくなる」。

 

 かくいう奥村氏も辞めた今だから、そして受験に9年かけたからこそ気づいた。「短期間で受かっていたら、こういう考えも芽生えていないでしょうね。どうすれば合格するか考えていくうち、こういう考え方が生まれた」。

 野球選手に「読んできっかけにしてもらえたら」というのも、早く気づいてほしいと願い、そういった思いをしたためたからだ。

■現役選手へのバックアップと、引退後のサポート

 さまざまなことに気づいた今だからこそ、現役選手に伝えたいことは山ほどあるし、資産管理など公認会計士ならではのバックアップも考えている。さらに引退後の選手のサポートについても思案を巡らせる。

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 その一つとして将来的に、引退後の選手が職業を選択できる仕組みを作っていきたいと考えている。

 まだ構想段階ではあるが、たとえば一般社会の職業訓練プログラムや指導者向けのプログラムなどを持った機関を作り、引退選手に経済支援をしながら職業訓練を受けさせ、じっくりと自分の将来を考えて選択させるような仕組みを考える。

 「現状は引退して1ヶ月、2ヶ月で次の道をどうするのか突きつけられる。家族がいたらなおさら焦る。そうすると、『できるもの』から選ぶしかなくなる。『やりたいこと』ができるとは限らないし、『やりたいこと』すらわからないのが現実だから」。時間をかけて学びながら将来の職業を考えることができれば、選択肢も増える。

 また指導者に関しても、ライセンス制度の導入を提案する。現在、野球界には「指導者ライセンス」はない。「現状では教えられる方にとってもマイナス。プロだけでなく、子ども、学生の指導者にもライセンスは必要だと思う」。ライセンス制度を導入することは、国内の指導者の水準を上げることにもなる。

 さらに「ライセンスを持った指導者が海外に教えに行くというルートを作れれば。レベルの高いコーチが教えに行くことで、世界規模で野球が盛り上がると思うし、マーケットが広がり、選手のセカンドキャリアの選択肢がさらに増えることにもなる」と夢はふくらむ。

■「公認会計士」だからできること

 話はどんどん広がり、世界規模にまで発展した。「こういうことを考えられるのって、ボクしかいないと思うんですよ。野球界も知っていて、会計のことも知っている。だから、より説得力のある話ができるというのが強みなんです。ボクがやらなきゃいけないという使命感もあるし、ボクしかできないことをやっていきたい」。

 選手の役に立ちたい、野球界の発展に何らかの形で貢献したい―願いはそれだけだ。

 その足がかりともなる今回の著書の出版。今後「公認会計士のボクにしかできないこと、ボクだからできること」を追い求め、活動していく。