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スパイク・リー監督がネットフリックスで放つ「ヴェトナム戦争もの」新作が期待大の理由

2020年、第92回アカデミー賞授賞式にて(写真:REX/アフロ)

ブラザーが戦地に還る

 一昨日5月19日に公開されたトレーラーが話題だ。スパイク・リー監督の新作映画、来る6月12日にネットフリックスで公開される『ザ・ファイブ・ブラッズ(原題:Da 5 Bloods)』が「期待できそう」として耳目を集めているのだ。

 なにしろ「リー監督が撮る、ヴェトナム戦争の黒人兵もの」というだけで、前のめりにならざるを得ない。その気持ちは僕にもわかる。さらに加えて、トレーラーの出来ばえが、おそらくリー作品史上に残る、アドレナリン放出系!の内容に仕上がっているのだから。こちらがそれだ。

 基本的に同じ(日本語がないだけ)なのだが、アメリカ版のほうはこちら。

 こんなものを観せられたら、盛り上がるしかない――というところで、なぜに「期待すべき」なのか、そのポイントなどをここで挙げてみたい。

複眼で「戦争と人生」を見る

 同作はこんなストーリーだ。アフリカ系アメリカ人の退役軍人4名が、現代のヴェトナムを訪れる。ヴェトナム戦争当時、彼ら4人は分隊の仲間として同地で戦った。今回の旅の目的は、作戦行動中に戦死した分隊長(『ブラック・パンサー』のチャドウック・ボーズマンが演じる)の遺骨を収集すること――というのは表向きの理由で、じつは、その分隊長が「埋めた」多量の金塊を探し出す目論見があった。だが「ヴェテランたち」は、自然の脅威と、50年経ったいまも癒されない内なるトラウマと戦うことになる……。

 といったストーリーが、戦争の当時(1)と現在の4人の旅(2)というパラレル構成で語られていくようだ。トレーラーにはこれら2種類の映像に加えて、現実のヴェトナム戦争やその時代のフッテージがカットアップされていて「ものすごく」盛り上がる!

おれのソウルはサイケデリック

 音楽もいいのだ。トレーラーの全編にわたって鳴り響くのは、ザ・チェンバーズ・ブラザーズの「タイム・ハズ・カム・トゥデイ」。68年にビルボードHOT100の11位まで行ったヒット曲で、いわゆる「サイケデリック・ソウル」を代表する1曲でもある。「今日がそのときだ」と繰り返しアジられる、ドライヴする曲調と映像がシンクロして、そしてキメのフレーズ「おれのソウルはサイケデリック化されてるんだぜ」が出る――。

 ちなみにこの曲、インパクト大なナンバーなので、映画やTVでよく使用されている。じつはスパイク・リーも『クルックリン』(94年)で使っている。だから好きな曲なのだろう。昨年10月12日にシンガー&ベーシストのジョージ・ "ポップス" ・チェンバーズが88歳で死去しているから、彼に捧げる意味もあっての「トレーラー大フィーチャー」だったのかもしれない。

 また、この曲を使用した最も有名な映画は、78年の『帰郷』だろう。ハル・アシュビー監督、ジェーン・フォンダとジョン・ヴォイトが出演した、ヴェトナム戦争の悲惨さを描いた同作にて、長いヴァージョン(11分)がしっかりと使用されていた。「あらかじめ、色濃く」ヴェトナムの影を背負ったナンバーだということだ。

 ゆえにあのラモーンズも、オリジナルに敬意を表してか、ほぼそのまんまのアレンジにて83年にカヴァーしている(だから彼らにしては、とてもテンポが遅い!)。

期待すべきの1:黒人兵が主役だから

 さて、では「期待すべきの1」のポイントとして「黒人兵問題」を挙げたい。リー監督には、第二次大戦のイタリア戦線における黒人兵の経験からストーリーを編んだ『セントアンナの奇跡』(08年)があった。同作のときにも話題となったが、アメリカの戦争を描く映画のなかでは、往々にして黒人兵の存在は脇に、隅っこのほうに寄せられる。まったく描かれないことも少なくない。

(だから逆に、プロパガンダ目的で製作されたフランク・キャプラ組の『黒人兵』のような極端な一作が生まれた)

 これは差別のせいで現実の部隊編成などに人種隔離の概念が色濃く反映されていた時代(上記第二次大戦期など)だけではなく、ヴェトナム戦を描いたものでもさして変わりはない。だから僕が知るかぎり「黒人の分隊」メンバーを描いた映画はおろか、その仲間たちの「ヴェトナムへの旅」を描いたものなど、これは史上初だと思うのだがどうか。このポイントだけでも「それをやるのがリー監督」なのだから、期待せずにはいられない。アカデミー賞をついにもぎとった前作『ブラック・クランズマン』の達成を思い出さざるを得ない。

 さらに「それがヴェトナムだ」というところも重要だ。トレーラーのなかであからさまにオマージュを捧げられている映画『地獄の黙示録(原題:Apocalips Now)』での、若きローレンス・フィッシュバーン演じるタイロン・"クリーン"・ミラーのあっけない死にっぷりは忘れられない。まさにヴェトナム戦争映画における黒人兵の立ち位置を象徴しているかのような役柄だった。

 また『地獄の黙示録』といえば、原案と共同脚本を手掛けたジョン・ミリアスが、どんどんとタカ派に傾斜していったことも見逃してはならない。彼が製作した『地獄の7人』(83年)は、戦闘中に行方不明となった息子を探して、退役軍人を雇ったジーン・ハックマンがヴェトナムに乗り込んでいく(そして個人的な戦闘をおこなう)という作品だった。同傾向の一作に『ランボー/怒りの脱出』(85年)がある。

 これらの作品は、映画のヴェトナム戦争(と後始末も)が、タカ派の願望充足のためのパラダイスともなり得ることをあらわしている。そして「その戦争」のなかで最末端として使役させられたのがつねに「黒人兵」だったことは、このトレーラーのなかでも言及されている。なんと、たったこれだけの長さのなかで、一瞬で、あざやかに!

 さらに今回のストーリーでは、かつて地獄だった場所に「隠してある(はずの)黄金を探しにいく」ことが主軸となっている。ここが「期待すべきの2」だ。

期待すべきの2:戦場はヴェトナムだけじゃなかった、から

「満ち足りた現在」を送っているのなら、なにもわざわざ、老骨にむち打って、トラウマを喚起されるジャングルに行くことはない。つまり「かつての戦争」は、いまもなお形を変えて続行中であるという「苦み」がここにある。ヴェトナム戦争当時、あの過激な武闘派集団ブラック・パンサー党までもが「戦争反対」を訴えていたことと、今作4人の境遇、あるいは野に散った分隊長の人生とは、はっきりとつながっている。これぞ「リー監督作品」の醍醐味だ。

スパイク・リーのインスタグラムより
スパイク・リーのインスタグラムより

 最後に「期待すべきの3」として、5月8日にリー監督が'''インスタグラムにアップした約3分の映像(ショート・フィルム)'''も挙げておきたい。あれの直後に、このトレーラーなのだから……という点は、じつは、大きい。

スパイク・リーのインスタグラムより
スパイク・リーのインスタグラムより

期待すべきの3:コロナ禍に「ニューヨーク・ニューヨーク」で対抗したから

 同作は、フランク・シナトラが歌う「ニューヨーク・ニューヨーク」を背景に流しながら、いま現在の同市の風景や医療従事者たちの姿をとらえた映像詩だった。つまり「コロナ禍のもとで」しかし心折れることなく、日々の戦いを続けていく人々を賞賛するものだった。つまり「街と人」の感動的な讃歌だ。

 スパイク・リー監督の成功作には、「下町人情」とでも言いたくなる、ニューヨーカーの生々しい庶民の息吹きが色濃く漂っていることが多い。このショート・フィルムは、まさにそうした点をスライスした一編だった。だからこの新作にも――僕ならずとも、多くの人が――期待しているのだと思う。

 そんな『ザ・ファイブ・ブラッズ』、そのほかの出演者は、旅する4人に、『マルコムX』以来のリー作品常連デルロイ・リンドーを始め、クラーク・ピータース、ノーム・ルイス、イザイア・ウィットロック・ジュニアがいる。リンドー演じるポールの息子が「父の身を案じて」旅の仲間に加わるのだが、これをジョナサン・メジャース『囚われた国家』)が演じる。ジャン・レノも登場する。スパイク・リーは監督だけではなく、製作、共同脚本(執筆者のなかに『ブラック・クランズマン』のケヴィン・ウィルモットの名もある)も担当している。

スパイク・リーのインスタグラムより
スパイク・リーのインスタグラムより

 ひとつだけ難を言うと、邦題なのだが――「Da」を、わざわざ「ザ」に直す必要はなかったのではないか。ラップ・ソングの曲名などで、すでに日本人も慣れていると思うし……言うまでもなく、ここの「ダ」は、黒人の口調で「The」を発音したときの感じを、スペルであらわしたものだ。だからリー監督印のスタンプが押されている位置のひとつが、ここだったと思うのだが。

 ともあれ、公開が待ち遠しい。

作家。小説執筆および米英のポップ/ロック音楽に連動する文化やライフスタイルを研究。近著に長篇小説『素浪人刑事 東京のふたつの城』、音楽書『教養としてのパンク・ロック』など。88年、ロック雑誌〈ロッキング・オン〉にてデビュー。93年、インディー・マガジン〈米国音楽〉を創刊。レコード・プロデュース作品も多数。2010年より、ビームスが発行する文芸誌〈インザシティ〉に参加。そのほかの著書に長篇小説『東京フールズゴールド』、『僕と魚のブルーズ 評伝フィッシュマンズ』、教養シリーズ『ロック名盤ベスト100』『名曲ベスト100』、『日本のロック名盤ベスト100』など。

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