Yahoo!ニュース

聞き覚えなくても見覚えある? 小麦粉やお菓子を好む茶色い小さな虫「シバンムシ」の予防策

有吉立アース製薬(株)研究部で害虫飼育を担当
写真はイメージ(写真:PantherMedia/イメージマート)

「シバンムシ」という虫をご存じですか? 名前は聞き覚えがなくても、家の中をゆっくりと飛んだり食料についていたりする姿を見かけたことがある方は多いかもしれません。

乾燥食品や畳を食害する甲虫で、大きさは約2.5ミリ。よく見ないと確認できませんが、赤褐色~茶褐色の全身に黄色っぽい毛が密生しています。

「シバンムシ」画像検索結果(閲覧注意)

研究所にお越しになった方が、飼育しているシバンムシを見て、「あー、この虫、家で見たことある。こんな名前なんですね!」と言われることがよくあります。田舎だけではなく、都会のマンション暮らしの方もこの虫は身近なようです。

今回は、シバンムシの生態や対処方法をお教えします。

シバンムシって何を食べているの?

シバンムシの英名は「Deathwatch」。古い時代のヨーロッパで、材木を食害するシバンムシが発する「コチコチ」という音が「死を告げる音」を連想させ、死の番をする虫という意味で付けられたそうで、日本名もそのまま「死番虫」となったようです。

北海道、本州、四国、九州、と全国的に見られ、成虫は、5 月から11 月にかけて2 回から3 回発生します。冬期でも暖房された室内では、成虫が見られることがあります。あらゆる乾燥した動・植物質を食べますが、よく好むものは、穀粉や穀粉加工品で、小麦粉、乾燥麺類、菓子類などです。その他、トウガラシや胡椒、ペットフードやドライフラワーにも発生することがあります。また、かじる力が非常に強く、加工食品のビニールや紙製の袋に穴を開けて侵入することができます。

二次被害が起こることも

シバンムシは人に直接的な被害はありませんが、畳に発生しやすく、その場合、 シバンムシアリガタバチという約2ミリのアリによく似たハチ(蟻型蜂)がやってきてシバンムシに寄生することがあります。シバンムシの天敵なのですが、家の中に出ると、人を刺します。刺されるとチクッとした痛みと赤い腫れとかゆみが約1週間続きます。知らない間に刺されていることが多いようです。

私は仕事でシバンムシを飼っています。飼育は、難しくはなく、穀類(トウモロコシ粉等)で飼え、餌を切らさず、温湿度が適していればかなり増えます。ということは、家庭の中でもシバンムシにとっていい環境があれば増えてしまうということです。

シバンムシの被害を防ぐには

◆常温で保存する食材は入れ物を噛み破られないよう、密閉性の高い缶や瓶に入れて保存する。

◆できれば、冷蔵庫へ保存する。

◆粉などがこぼれたら早めに掃除して発生源をなくす。

もし、シバンムシを家の中で見かけたら

◆発生源を探し、発生源となっている食品などを処分する。

◆同じ場所に置いてある他の食品も食害されている可能性があるので注意する。

もし、シバンムシアリガタバチがいるようなら

◆市販の殺虫剤で簡単に退治・駆除することが可能です。もし見かけたらスプレーして、大繁殖させないようにしましょう。

ミント系の香りを好む?

ところで、害虫の対策にミントを使うとシバンムシがわく、つまりシバンムシがミント系の香りに誘引されるという噂があるようです。興味がわき、研究部で飼育しているシバンムシで実験してみました。大きな保存容器の右端に希釈したハッカ油、左端に水を含ませた脱脂綿を置き、真ん中にシバンムシを入れました。シバンムシはどちらに行くのだろうと興味津々で見ていたところ、ハッカ油には寄ってこず、むしろ忌避している様子でした。その後、「タバコシバンムシに対するエッセンシャルオイルの忌避性」という論文があることを知り、その中に、“ミントオイルとペパーミントオイルはシバンムシが忌避はするものの誘引はしない”という結果を見つけました。以上からシバンムシはミント系の香りがどちらかといえば嫌いなのではないかと考えられますが、シバンムシの好きな食べ物であれば寄って来てしまうと思います。やはり、狙われそうな食品はしっかり密閉することが大事です。

シバンムシが自宅に出た!

9月のある日、自宅で、茶色の小さな虫がゆっくり飛んでいるのを見ました。「えっ、これ、シバンムシ? どこから出てるんだろう?」と発生源と思われる小麦粉など穀類を確認しましたが見つからなくて。もしかして…? と玄関に置いていたドライフラワーを見たら、たくさんのシバンムシが湧いていました。気に入っていたものですが、仕方なくすべて廃棄しました。これで一安心と思ったのですが、それから2~3週間後、戸棚に保管していたチョコレートを食べようと包み紙から出して割ったところ、シバンムシの幼虫が出てきました。本当にビックリしました。割らずに食べなくてまだよかったと思い、「あ-、あの時の成虫がここに産卵していたんだ」と、仕事柄、冷静に考えることができました。もし、私がシバンムシのことを知る前であれば、卒倒しそうになったと思いますし、メーカーに異物混入の連絡をしていたかもしれません。実際、あの時のことを思い出すと、「虫のこと知っていてよかった!」といつも思います。

写真はイメージ
写真はイメージ写真:beauty_box/イメージマート

私は、家でシバンムシを見たときに、どういうものか知っていたからこそ冷静に対処できました。これを読んでいただいているみなさまも、虫のことを知っていれば、そんなに怖がることなく、落ち着いて対処できるかと思います。虫は大嫌いと言う方が多いと思いますが、虫のことを知ることで怖がる必要がなくなってきます。今後も様々なことについてお伝えしていきます。

アース製薬(株)研究部で害虫飼育を担当

兵庫県出身。都内の美術学校卒業後、 家具店店員、陶芸教室講師など虫とは全く関係のない職業に就いていたが、1998年に地元・赤穂のアース製薬に入社以来、害虫の飼育を担当している。しかし、現在も虫は好きではない。著書に「きらいになれない害虫図鑑」(幻冬舎)※記事は個人としての発信です。

有吉立の最近の記事