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虫よけスプレーを使っても蚊が寄ってくるのには理由があった!? 外で刺されない秘訣は

有吉立アース製薬(株)研究部で害虫飼育を担当
写真はイメージ(提供:Yuriofyuriyuri/イメージマート)

気になる蚊の対策として、前回は家の中に入ってくるアカイエカについて紹介しました。今回はヒトスジシマカ(やぶ蚊)についてご紹介します。

公園やキャンプ、お墓参りなど、外に出たときに「ぶ~ん」とまとわり付いてくる蚊がいますよね。それが「ヒトスジシマカ」、いわゆる「やぶ蚊」です。“アウトドア派”といえるこの蚊は、アカイエカよりやや小さい約4.5ミリメートル、名前の通り、背中に縦一筋の白い線があり、全体に黒白のしま模様です。本州では5月から10月頃まで活発に行動します。1950年頃は北関東までだった生息域は地球温暖化とともに徐々に北上し、2015年には青森県への侵入が確認されました。今後は北海道まで北上する可能性があるのではないかと言われています。(※)

いつどんな場所で刺されるの?

ヒトスジシマカの幼虫は、バケツや空き缶、空き瓶の溜まり水、お墓の水受け、古タイヤや切り株などの小さな水溜まりで成育し、成虫になると、雑草が生い茂る場所を好みます。そのため人家の庭や公園、墓地、雑木林などに潜んでいることが多く、近づいてきた人や動物を狙って吸血します。1日の移動距離はせいぜい100メートルで、潜伏場所から離れてまで吸血源を追うことはあまりありません。

活動は昼間中心で、よく吸血する時間帯は朝夕です。特に夕方4~6時がいちばん多く、人を好んで刺してきます。また夜間でも灯火の下の明るいところで吸血することもあります。キャンプやアウトドアスポーツ、花火大会、ガーデニングなど、屋外活動をする場所で、私たちを狙ってくるのです。

写真はイメージ
写真はイメージ写真:アフロ

刺されないようにするには?

草むらや藪に近寄らないことが何よりですが、キャンプやバーベキュー、お墓参りなどでは避けられないですね。そんなときの対処法をお教えします。

まず服装です。

蚊は人間のように目が見えているわけではないのですが、黒い色に寄ってきます。明暗のコントラストで識別しているので、コントラストの強い服、例えば白黒のボーダー柄のTシャツなどは黒色だけのTシャツより刺されやすいです。刺されないためには、白っぽい明るい単色の服を着るといいですね。また、肌の露出をしないことも有効です。特に足元を狙ってくることが多いので、足の露出部がないようにサンダルではなく靴下と靴を履くことが望ましいと考えられます。

意外に効果があるのは「風」です。蚊は軽いので、風に弱く、簡単に吹き飛ばされてしまいます。風のない日に刺されやすいと言えますが、身体に風を当てておけば、蚊は近寄ることができません。でも、身体の一部だけならうちわなどで風を当てることもできるかも知れませんが、そうでない部分は狙われます。風のない日に、野外で全身に風を当てることはかなり難しいかもしれませんね。

虫よけ剤を肌に塗るのは効果的です。ただ、肝心なのは塗り方です。

虫よけ剤の効果的な塗り方

以前、あるインターネット番組に出た際、出演者の方に「虫よけ剤を使っても刺されるんだけどなぜ?」と聞かれことがあります。私は、「塗り方が悪いのです。」と回答。

虫よけ剤を使うとき「虫が嫌いなニオイをかけているんだから、ふわっとスプレーしておけば大丈夫」と思っていませんか? それは間違いです。虫よけ剤のニオイが蚊を寄せ付けないのではなく、その成分が蚊の感覚器官を混乱させ、人や動物を認識できなくさせるのです。番組でそう説明したところ、お笑い芸人の方が「虫よけ剤を塗ったら、蚊からは透明人間になれるんやね!」とおっしゃいましたが、まさにそんなイメージです。完璧に塗れば蚊は吸血源だと認識できません。逆に塗りムラがあるとそのわずかな肌を認識して寄って来てしまいます。

スプレータイプの虫よけ剤は、肌から15センチくらい離してスプレーした後、塗りムラができないよう手で伸ばして、しっかりと広げます。顔や首筋には、手のひらにスプレーしてから塗ることでムラを防げます。お子様には、いったん大人が手の平にスプレーしてから塗ってあげるといいですね。

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写真はイメージ写真:Paylessimages/イメージマート

また、スプレー剤以外にも、ムラなく塗れるジェルタイプや、顔や首に塗りやすいシートタイプ等いろいろありますので、場面によって使い勝手の良いものを選ぶとよいでしょう。

こまめな「塗り直し」が必要

外出が長時間に及ぶ場合は、定期的に「塗り直し」が必要です。日焼け止めは何回も塗り直している方も、虫よけ剤は外出前に一回だけという方も多いかと思います。効果持続時間は製品によって異なりますが、夏場は汗をかくため、日焼け止めと同様に肌に残りにくくなります。日焼け止めの前に虫よけ剤を塗ると効果が半減します。日焼け止めを塗った後に虫よけ剤を塗ることをお勧めします。塗り直しの場合もその順番がよいでしょう。

虫よけ剤を肌に直接塗るのがイヤな方は、服の上からスプレーできるタイプもあります。

また長時間の農作業やガーデニングには、ピレスロイド系薬剤を使用した、携帯用の電池式の虫よけ器具が役立ちます。薬剤が身体の周りで揮散して蚊に刺されなくなります。

着ることで蚊から身を守る防虫素材の服もあり、蚊が止まっても逃げていく仕組みになっているので、野外によく出る方はこちらもお勧めです。

虫よけではありませんが、庭木周りや茂みなど蚊が潜んでいそうな場所にスプレーをするだけで、蚊を駆除して、長時間寄せ付けなくするという製品もあります。ガーデニングなど、外で作業をする際は、作業の前にスプレーしておくと安心です。また、屋外の広い場所で長時間燃焼するタイプの蚊取り線香もあるのでこちらも有効です。

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写真はイメージ写真:アフロ

蚊より厄介? ブユにも注意

夏に刺されるのは蚊が多いのですが、ハイキングやキャンプなどで訪れる渓流沿いや高原には、ブユ(ブヨ、ブトと呼ばれることも)という2~5ミリメートルの小さな虫がいます。ブユは5〜9月ごろ、特に朝夕に活発に活動します。人を刺す目的は蚊と同じで、産卵のための栄養補給です。しかし刺し方は異なり、ノコギリ歯のような口で皮膚とその中の毛細血管を傷つけ、にじみ出てきた血液を吸い取ります。そのため皮膚に出血や出血斑を起こすことが多いようです。吸血時間は1〜2分程度ですが、ブユの体が小さいため吸血に気がつかないことがあります。刺されると蚊より厄介なので、肌の露出をできるだけ避け、ブユに効果のある虫よけ剤を塗布することをお勧めします。

アメリカのヒトスジシマカは日本由来?

ヒトスジシマカは東洋が起源とされていますが、北米にも生息しています。日本から輸出された古タイヤに卵が付着していたことから持ち込まれ定着したと考えられています。このほか中南米やオセアニア、アフリカ大陸でも生息が確認されており、日本から古タイヤとともにさまざまな国へ運び込まれたといえます。

2014年に日本では、デング熱の国内感染が69年ぶりに確認されましたが、媒介蚊はヒトスジシマカでした。感染症から身を守るためにも、蚊を発生させない、蚊に刺されないようしていくことが大切だと思います。

※参考:ヒトスジシマカの分布域拡大について(国立感染症研究所)

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

アース製薬(株)研究部で害虫飼育を担当

兵庫県出身。都内の美術学校卒業後、 家具店店員、陶芸教室講師など虫とは全く関係のない職業に就いていたが、1998年に地元・赤穂のアース製薬に入社以来、害虫の飼育を担当している。しかし、現在も虫は好きではない。著書に「きらいになれない害虫図鑑」(幻冬舎)※記事は個人としての発信です。

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