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東京23区で子を出生した世帯の半分以上が年収1000万円「子を産める・産めない経済格差」が進行

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

2015年まで100万人だった出生数

2022年の確定出生数は約77万人だった。2023年の出生数は、人口動態速報の10月までの実績から推計すれは72-73万人へと減るだろう。

年間70万人台という数字に慣れて感覚がマヒしているかもしれないが、日本の出生数は2015年まで100万人を超えていた。それがここ7-8年で3割近く減少しているのである。

長期的に見れば、日本の出生減は1990年代以降継続しているのだが、ここ数年の落ち込み具合は、今までの推移から見ても異常値であることは間違いない。もちろん、2020-2022年はコロナ禍の影響もあるだろうが、決してそれだけではない。

出生減といっても、世帯年収900万以上の世帯に関していえば全く変化はない。減少しているのは世帯年収900万未満世帯ばかりで、要するに、かつて出生数を支えてきた経済力中間層が子どもを産めなくなっている問題なのである。

直近出生世帯の年収分布

それが如実に統計上にもあらわれている。

2022年の就業構造基本調査より、「6歳未満の末子を持つ夫婦と子世帯」だけを抽出して、世帯年収分布を全国と東京とで比較したのが以下である。出生数が年間100万人を切った後で出生をした世帯の年収分布と言い換えてもいい。

全国の世帯年収最頻値は500万円台であるが、東京に限れば、23区も市町村も最頻値は1000-1250万の世帯である。中央値で見ると、全国は692万円、東京市町村部は812万円、東京23区にいたっては、中央値が1012万円だ。東京23区で6年以内に子どもを産んだ世帯の半分以上が1000万円以上の世帯収入ということである。

見方を変えれば、東京23区で子どもを産もうとするならば、全国の中央値の692万円ではとても厳しいということになる。

「だから東京の合計特殊出生率は全国最下位なのだな」とは思わないでほしい。何度も説明している通り、合計特殊出生率は、その計算分母に未婚女性も含むため、若者の人口流入が多く、未婚率が高い東京では低くなってしまうだけである。

事実、2000年を起点としてとらえれば、東京だけが出生数を増やしていて、残りの46道府県はすべてマイナスである。減少し続ける出生数の中で唯一健闘していたのが東京なのである。

「産める・産めない」格差拡大

しかし、だからといって、東京在住ならば世帯年収1000万円稼げて、子どもを産むことができるという因果にはならない。東京の大企業に勤めている3割の層であれば、夫婦の年収を合算すればクリアできる壁かもしれないが、それは妊娠出産後も夫婦二馬力であるという前提となってしまう。夫の一馬力だけで1000万円以上ということになれば、その数は減るだろう。

事実、東京でも2015年以降出生数は激減する。東京で子どもを産み育てる経済的ハードルがあがっているからである。東京23区で起きているのは、「豊かになった」のではなく、むしろ「金がなければ産めなくなっている」のであり、結婚して子どもを産める層とそうでない層との二極化である。

2022年就業構造基本調査から、総世帯と6歳未満の子どものいる世帯の年収の中央値の格差を比較してみよう。

全国では、総世帯409万円に対し、子のいる世帯は692万円である。その年収格差は1.7倍であるが、東京23区でいえば、総世帯491万円に対し、子のいる世帯は1012万円なので格差は2.1倍にも広がる。いいかえれば、東京23区で家族を作るということは、他の地域でそれを成し遂げるよりもより高いハードルを課せられていると言える。それは、同時に結婚に対する経済的ハードルとも連動する。

提供:イメージマート

中間層が結婚・出産できない

そもそも、東京23区で世帯年収1000万が決して裕福ということでもない。

税金や社会保険料など国民負担率は年々じわじわとあがっており、年少扶養控除復活もない中で、生活コストや子の教育費などを考えれば楽ではないだろう。

それはそれとして考えるべきことであるが、マクロで考えるならば、この東京23区で起きているような「子を産める・産めない経済格差」が今後他の大都市や地方にも波及していく可能性があるということである。実際、子のいる世帯の年収分布は、東京だけではなく、首都圏三県、大阪、愛知、兵庫、福岡などの8大都市でも同様になっている。この8大都市だけで日本の出生数の半分以上を占めている。つまり、今後地方も含めてより一層、経済中間層が結婚も出産もできなくなるという傾向になる。

「結婚や子育てに金がかかる」というのは実態としてその通りだと思うが、だからといってかつて多くの家族を形成していた中間層が「結婚も出産もできない」という状況に陥るのであれば、人口ボリューム層の総無子化が進むことになる。そうなれば、それは一部の裕福な層がどれだけ多子化したところで、大幅な出生減は避けられないだろう。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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