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「離婚すると生きていけない夫」と「離婚ごときでは何も影響されない妻」の決定的な違い

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

失業と自殺の相関

男の自殺率は失業率と強い相関がある。

労働力調査より、1968年以降の失業率の推移と男性の自殺率の推移をグラフで並べてみると一目瞭然で、失業率があがれば自殺率も高まるという強い正の相関がある。相関係数は0.9347であり、最大値の1に限りなく近い。

一方で、女性は失業では自殺しない。同期間で比べても、女性の失業率と自殺率との相関係数は▲0.0093であり、相関がないばかりか、失業率があがれば若干自殺率は減る。

このように、日本の男性は、仕事を失うということが自殺に直結する危険性が高いのだが、それと同等か、それ以上に深刻なのに、世間ではあまり知られていないファクトがある。

男は離婚すると自殺してしまうのだ。

離婚と自殺の相関

長期の統計推移から、男女における離婚率と自殺率との相関をみてみよう。こちらは、1963年から2020年までの推移を表したものである。

男性の場合は、失業率と同様、離婚率と自殺率との強い相関がある。相関係数も0.9132である。しか、女性の方は、これも失業率との相関同様、相関係数は▲0.1759である。むしろ、失業より負の相関値が高い。つまり、男は離婚すると自殺してしまうが、女は離婚では自殺しないのである。

これは、男性にとって、失業と離婚というものがセットになる可能性があるからである。以前、夫婦を対象とした調査で「配偶者が借金を抱えたら、一緒に頑張るか、すぐに別れるか」という調査結果を紹介した。

夫婦の現実~妻の借金をなんとかしようとする夫、夫が借金したら見捨てる妻

男性(夫)は妻の借金であっても、共に返すように頑張る方が多いが、それに比べて女性(妻)の方は「夫の借金即離婚」なのである。

夫婦における離婚原因に関しても、2020年の司法統計によれば、妻側の離婚理由の1位が、長年1位であり続けた「性格の不一致」を逆転して「金銭問題」が40%と1位になっている。金銭問題とは、夫側の借金やギャンブル問題、失業や働かないなどで収入がないという状態である。まさに「金の切れ目が縁の切れ目」なのだ。

「金がないからイライラ?」現代夫婦の離婚事情がハードボイルド化

その上で、失業と離婚と自殺の3つの時系列を考えた時、「失業→離婚→自殺」と「離婚→失業→自殺」の両方が考えられる。

仮に、失業したとしても、離婚せずにまた再就職先を見つけられれば死には至らないかもしれない。仮に、離婚したとしても、それを原因に心が病んだりせず、失業にまでならなければ、自殺しなかったかもしれない。もちろん、自殺に至る経緯は、本人にしかわからないものではあるものの、失業や離婚というものが男に与えるダメージは大きいのだろう。

既婚男性の唯一依存症

既婚男性の幸福度は、独身に比べて高い。それは、独身にはない家族というものの存在が大きいと思う。

相変わらず、世の夫の6割は小遣い制である。月3-4万円の小遣いの中で、やりくりしているのだが、当のお父さんたちの中には、それを苦にしてはおらず、むしろ「家族のために頑張っている俺」という充実感と達成感を感じている人も多い。口では「小遣いが少なくてさ…」と文句はいうものの、文句を言っている顔がもう幸せそうである。

独身男性の中には、「結婚すれば妻のATMになってしまうから嫌だ」という意見をいう者がいる。そう思うならそれでいいだろう。確かに、結婚すれば、自分で稼いだ金を自分だけのためには使えなくなる。しかし、独身男性からすればATMと揶揄されても、当の既婚男性からすれば、「それが自分の社会的役割である」と誇りをもっている場合がある。むしろ、家族のATMになることすら幸せに感じられる男が結婚するのかもしれない。

そういう既婚男性がいてもいい。しかし、問題は、「家族のために頑張る自分の役割だけになってしまい、その家族を失うと自分自身すら見失ってしまう」ことの方だ。親権の問題で、子どもとは離れ離れになってしまうことでの心の喪失感も大きいだろう。心の喪失感は、離婚によって、家や財産を失ってしまうという物理的な喪失感より痛手が大きい。

もちろん、家族を大事にするという気持ちは否定しないし、大切だが、「自分には家族しかいない」という唯一家族依存は危険だ。

離婚という形で家族というコミュニティを失い、何のために仕事をしているのかわからなくなって、出社するモチベーションを失い、やがて失業してしまう男性もいるかもしれない。失業して、家族のために働いている自分という役割を剥奪されて、自分自身の存在意義を失ってしまう男性もいるかもしれない。

家族にしても、仕事にしても、いずれにしてもそこだけに唯一依存してしまうことのリスクはある。が、意外に、そこに気付いていない場合も多い。

写真:アフロ

家族も仕事も永遠ではない

配偶関係別の男性の自殺率を見ると、死別の場合の自殺率よりも離別の方が圧倒的に高い。令和元年の実績値でいえば、死別の自殺率48.3 に対して、離別の自殺率は101.0と倍以上である。ちなみに、未婚の自殺率が32.9であることから、既婚男性にとっていかに離婚が自殺に直結するものなのかがわかる。

こうして考えた時に、何度も離婚しながら懲りずに再婚する「時間差一夫多妻の男」がいるが、彼にとっては、離婚したままの状態では生きていけないからかもしれない。

ただでさえ、「3組に1組は離婚する」多離時代でもある。幸せそうに暮らしている家族のみなさんに水を差すつもりはないが、生命と同様、家族は永遠ではない。離婚しないまでも、いつか、子は独立し、配偶者とは死別する未来は確実に誰にもやってくる。その不可避な未来への覚悟が女性に比べて男性は足りないのかもれない。

仕事も永遠ではない。大企業に勤めていようが、いつかは定年退職して無職になる。「仕事あっての自分」を誇りに思うことはいいが、仕事のない自分というものに向き合った時に、空っぽではないかどうかの検証を、仕事のあるうちにやっておいた方がいいだろう。いきなり「空っぽ」になるショックは大きいからだ。

生涯未婚のみなさんは、もともと持っていないものなので、奪われる心配もないので大丈夫です。安心して、強く生きていきましょう。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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