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「モテない」以前に結婚意欲すら「持てない」未婚の若者の厳しい現実

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

婚姻減をもたらした環境変化

この連載でも何度も説明している通り、出生数が増えない原因は、少なくとも婚外子の少ない日本においては結婚数が増えないからである。なぜ、結婚数が増えないかというと、それは若者を取り巻く環境の問題である。ひとつには経済的問題もあるが、もちろんそれだけではない。

逆に、なぜ1980年代まで皆婚社会だったのかを見れば、その環境の変化がわかるというものである。決して、その頃までの若者が全員「結婚したい」という強い意志があったわけではない。

「いや、それでも2021年の出生動向基本調査の結果をみれば、一生結婚しない若者が増えたといえるだろう」と言ってくるのがいるが、以前も書いたように「結婚か?一生独身か?」という二択の質問結果にあまり意味はない。元々結婚意志・願望のある若者は1980年代から男4割、女5割程度のものでたいして変わっていない。

デマではないが正しくない。「結婚したいが9割」という説のカラクリ

加えて、1980年代までの若者が全員恋愛強者だったわけでもない。いつの時代も恋愛強者はせいぜい3割で、7割は弱者である(真ん中4割の中間層含む)。

それでも、どうにかして最近の若者は「恋愛離れ」と結論づけたい界隈がいるらしく、「デート未経験4割」など今に始まったことではないことを話題にしようとしているが、それらは事実に反する。若い男性は草食化しているわけじゃないし、恋愛離れしているのでもない。元々そんなものである。

「デート経験なし4割」で大騒ぎするが、40年前も20年前も若者男子のデート率は変わらない

皆婚を実現させたシステム

皆婚を実現させたのは、若者の恋愛意欲や結婚意欲ではない。今では想像できないが、「結婚はするもんだ」という社会の空気が存在していた。就職をするのと同じくらいの意味合いで、「当然結婚するものだ」という空気があったのだ。

かつて流行ったボードゲームの「人生ゲーム」では、プレーヤーは必ず「結婚」のマス目で強制的に止められ、必ず結婚していくルールとなっていた。

提供:イメージマート

若者の結婚が当然の流れである空気を後押しするように、周囲のお節介やお膳立てもあった。伝統的なお見合いだけではなく、職場そのものが巨大なマッチングシステムでもあったのだ。

実際、婚姻数の減少分とは、お見合いと職場結婚の減少と完全に一致する。

多少の誤解を気にせず言えば、1980年代までは「本人たちの努力云々とは関係なく、大抵は結婚できた」のである。

日本の結婚は30年前にはすでに詰んでいた。失われた社会的システム

恋愛も結婚も特権的行為に

ところが現代はどうだろう。かつてのお膳立てはほぼ消滅してしまった。自由恋愛というと聞こえはいいが、要するに「結婚は自力でなんとかしろ」という時代になったのである。元々、お膳立てがなくても勝手に恋愛して、結婚した恋愛強者には何の問題もないが、7割の恋愛弱者にとってお膳立てがなければ途方に暮れてしまうのである。そして、できない者に対しては「努力が足りない」という一言で自己責任化される。

むしろ「結婚は一部の能力のある者だけができる特権的行為」になりつつある。もっといえば、男性の場合、その能力の中には「経済力」が求められる。

結婚相談所でもマッチングアプリでも大体年収条件でスクリーニングされてしまう。メディアでは「年収500万以上が普通」とか言われてしまう。結婚した諸先輩方を見ても、口を開けば「金がかかる」ばかり連呼する。じっと自分の給料明細を見て「ああ。俺には関係のない世界だな」と思ってしまうのも無理はないだろう。

「金がないから結婚できない」なんて所詮言い訳だという人もいるが、それくらい認知不協和を解消する自己防衛本能のひとつなんだから大目に見てほしいと思う。「結婚願望のない若者が増えた」というが、それは「金がないから結婚なんて最初からするつもりじゃなかったことにしよう」という心理の表れなのだ。金だけの問題ではないことも本人は多分自覚している。

お金と結婚意欲

経済的な問題は婚姻減とは関係ないという界隈がいるが、実際、年収と結婚意欲(結婚前向き度)とは関係する。

結婚前向き度とは、結婚に対して「絶対に結婚するという強い意志」と「できれば結婚したいという希望」のふたつの要素を足したものである。20-30代全体でみれば、男4割、女5割程度という話は前述したが、20-50代までの未婚男女を対象に、その年収別に結婚前向き度が変化するかどうかを以下にグラフ化した。

男性の方をみると、40代以上はともかく、20-30代はおおむね年収があがるごとに結婚前向き度はあがっていることがわかる。裏を返せば、低年収のうちは「結婚したい」なんていう意欲すら持てないのである。モテない前に、意欲すら「持てない」のだ。

むしろ、40代未婚男だけ年収100万未満でも結婚意欲が高いのが不思議である。いろいろバグってしまったのだろうか。

一方、女性の方は、年収で結婚前向き度が変わることはないが、20-30代と40-50代の間に大きな隔たりがある。40歳を過ぎると女性は一気に結婚に後ろ向きになるのだ。

男にとって年収、女にとって年齢。男女違えど、結婚に対する障壁が存在し、その障壁を難なくクリアできる強者しか獲得できないものに結婚は変わってしまったのである。婚姻数が減るのは当然である。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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